2 入社式・・・1人
久々に厳格でおせっかいな父に褒められた。
もしかしてあんなに褒められたのは初めてだったかもしれない。
あの人が褒めちぎるということは、アルミトラという会社は侮れない。
どうやら本当に有名な会社らしい。
緊張に震えつつ、
扉を開く。
すると中は、真っ白な空間だった。
扉の外から予想したよりもはるかに広く感じる。
あったのは、自分が座るように用意されたであろう椅子と、
少女が座った椅子。
いたのは、椅子に座る少女と、その隣に控える女性。
どこか不思議な彼女たち。
彼女たちはどこか異常だった。
ただ単に異常なほどに整った顔立ちだということではない。
彼女たちは異国情緒あふれる服装をしていて、
独特の雰囲気を纏っていた。
それは今まで一度たりとも感じたことがない雰囲気、察するに外国どころか・・・。
・・・わからない。
・・・そもそも普通に考えれば、
オフィス街にあるビルの中にいる人物の服装としては、
スーツ、今ならばカジュアルな服装くらいしか考えられない。
もしかしたら、そういう社風なのだろうか?
最先端中の最先端を服装でも表現する・・・もしかしたらファッション業界の革新児的な・・・?
おそらく一時期不採用の嵐で、気が狂いそうになり、無意識に志望届を出した企業なので、
それくらいぶっ飛んでいてもおかしくないと、
何の企業かわからないで入社式に出席せんとする少年は1人納得する。
『仕事というか、進路があるだけまし、俺はここで一生懸命やっていくんだ。』
どこかしっかりした雰囲気を纏う美人が口を開いた。
「ケイジ様、そこにお座りください。」
「は、はいっ!」
急な返事に思わず反射的な返事をしてしまったが、
機嫌を損ねないように音を立てず、ゆっくりと腰を下ろした。
女性は啓司が席に座ったのを確認すると、
少女に視線を送る。
彼女が頷くのを見ると、話し始めようとした。
「さて、それでは・・・。」
それに対して、思わず手を挙げて、質問する。
「すいません。」
「なにか?」
「えっと、他の方々がいらしていないようなのですが・・・。」
そこには先述のように、多くの同士こと、新入社員たちの姿はなかった。
入社式とは面接のように一人ひとり個別に行うのではなく、
大勢の同僚たちとともに、
これからは会社のためにと気を引き締めるものだと思っていたのだが・・・。
その問いに答えたのは、少女だった。
「他?
呼び寄せたのは、そなた1人だけじゃが?
のう?ゲルダ?」
「へっ?」
思わず言葉を失う啓司。
その様子に小首をかしげる少女。
そう言えば、椅子が一つしかなかった。
・・・これはどういうことだ?
入社前に別件の呼び出し?
他の社員は他の場所で?
もしかして俺はなにかしてしまったのか?
啓司の頭の中は困惑に次ぐ困惑でぐしゃぐしゃだった。
そこに助け舟を出してくれたのはゲルダという女性だった。
「・・・そうでしたわね・・・そう言えば、全く説明なしに・・・
適当な理由をつけて呼び出したのでした。」
適当な理由?
「どういうことですか?」
キョトンとする啓司。
「実はあなた様を呼び出したのは、入社採用するためではなく、
あることをお願いしたいと思ったからなのです。」
「えっ?
・・・ということは、受かってない?」
「ええ、残念ながら。」
男はどん底にわずか数日で帰ってきた。
『マジか・・・浪人・・・就職浪人だ・・・帰ったら・・・いや、帰れないな・・・ははは。』
「ですが、気を落とさないでくださいませ。
これはあなたにとっても悪い話ではないでしょうから。」
「?・・・どういうことです?」
「それは・・・「それは儂から話すとしよう。よいな、ゲルダ?」
「・・・仰せのままに。」
「さて、
お主に頼みたいのは儂の世界のある村で信仰を回復してほしいのじゃ。」
「進行?」
「ああ、信仰。
実は儂、ある世界で神なんてことをしておってのう。
管理しておる村が凶作に見舞われておるせいか、
最近、村にある儂の像に落書きなんかをされて腹立たしゅうて腹立たしゅうて・・・。」
ああ、信仰か・・・信心とかの方。
「はあ・・・それはお困りで・・・って、うん?」
「そう、そうなのじゃ。
困って困って思わずゲルダに完全武装をさせて襲わせたいくらいなのじゃ。」
「・・・やめてください。
今度こそ完全にあなた様を信仰するものがいなくなりますよ。」
・・・少なくとも一度はやったのか・・・。
全盛期の儂ならば、ああ口惜しや、などと言っている少女がいる。
って、それはともかく・・・「あなた様はええっともしかしなくても・・・神様で?」
「ああ、そう言っておろう?
じゃからっ!
そなたっ!
できれば、奴らにきつい仕置きを・・・「メーティス様。」・・・わかったわかった。
じゃから、その危ない槍をこちらに向けるでない。
ゲルダのそれはシャレにならん。」
そう言って、椅子を盾にして隠れ潜まんとしている。
そこには威厳など存在しない。
見たままの子供だ。
「・・・言っちゃ悪いけどこれが神?」
「なんじゃとっ!
こ・れ・が、じゃと~~っ!!」
「あっ、えっと・・・あはは・・・。」
ケイジは笑ってごまかす。
「ええ、残念ながら、この方は元主神にして、零落した豊穣の神であらせられるのです。」
まことに残念ながらとゲルダは言う。
「ゲルダ、よもや貴様もっ!」
「ええ、最近は哀れで哀れで、思わずこれで貫いてしまおうかと思うこともあるのです。」
「ひぃっ!
ごほんごほん。
あ、ああ・・・それはともかくじゃな・・・頼めるか、ケイジ?」
「えっ・・・?」
「で、どうなんじゃ?
ど・う・な・ん・じゃっ!?」
どんどんと顔を近づけてきたメーティスに思わずこう言ってしまう。
「はいっ!わかりましたっ!」
こうして、佐々木啓司は豊穣の女神メーティスの頼みを聞き入れることになったのである。