1 学歴資格なしで一流企業の面接に行って来た
へたりと座り込む男の周りには、大量の紙がまき散らされていた。
・・・男は人生のどん底にいた。
「・・・はあ・・・マジか・・・。」
大きく溜め息を吐く男。
往生際悪くもう一周視線を散らばった紙に送り見渡すも、
それにはそれぞれこう書かれていた。
不採用。
不採用。
・・・不採用。
主にあるのは端的なそれ。
これはいっそ心地よい。
見れば一発で判断できて、
血のような真っ赤な字でなんて書かれていれば未練すらすぐさま吹っ飛ぶ。
けれども、中には気を遣ったのか、
『この度はまことにご縁なく大変残念でした。』
などと、はぐらかしたような思わず何度も読み直し、
そのたびにがっくりとくるような無用な気遣いを携えたものもある。
こんなものを読んだら未練たらたら。
思わず今度は受かるかもなんて思ってしまう。
・・・悲しいかな。
現実は厳しい。
高卒で一流企業の面接に資格なしで行ってみました。
結果は30戦・・・
・・・30敗。
「・・・酒でも飲もう。
ははは・・・って、俺、未成年だった・・・ダメじゃん。」
酒に溺れようにもそんな味すら知らない少年は悲しそうに、
先ほど思わずイライラしてまき散らした紙を渋々片付け始めた。
すると、一枚の紙に何やらおかしな字が書かれていた。
それはアルミトラという聞き覚えのない会社名のもの。
「・・・アルミトラ・・・どこの会社・・・というか、何の会社だったっけ?」
少年が受けたのはすべて有名な会社だったはず、
受ける前にはすべての会社のホームページから何から何まで見て取捨選択し、
そして自分なりに分析した。
それにも関わらず頭の中でその会社の名称に引っ掛かりすらない。
ど忘れだろうか・・・思わずそんなことを考えるが、
そんなことはどうでもいい。
少年は再び集めた紙切れを投げ捨て、その一枚を拾い、凝視する。
するとそこにあった文字に驚愕する。
佐々木啓司様
貴方を我がアルミトラで採用したいと考えております。
採用。
その文字は赤いものの先ほどの冷たい血で書かれたようなものではなく、
温かみのあるどこか太陽に照らされたそれに見える。
その安心感にどこか戸惑いを覚えつつ、
その現実感のなさから言葉にして吐き出す。
「・・・受かって・・・る・・・?」
耳から入った言葉を脳内で何度も反芻する。
そして、それにズタズタだった心が納得したその後、
「・・・やった・・・やった、やった、やったあぁぁぁ~~~!」
啓司は雄たけびを上げた。
喜びを本能のままに露わにする。
そのせいか、
2階にある自分の部屋で飛び跳ね続け、
母に注意されて、説教を受けることになる。
けれども、よかったと思う。
少年、よく頑張ったこう言いたい。
それがたとえ、
・・・知らない31社目だったとしても・・・。