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31 軋轢 直接対決



 トバイアスとの騒動から、早くも十日が過ぎた。

 その日の夕刻、一台の馬車がウルザブルンの社屋へとやってきた。

 人目を避けるようにして降りてくるのは、冒険者ギルドのグレオン王国支部長アンドリュー・マイルズと、事務員アメリア・バーツだ。

 壮年のギルド長は厳めしい面持ちで、ウルザブルンの館へと入る。彼らは訓練生に案内され応接間へ。そこで、


「ようこそいらっしゃいました。マイルズさん」


 若き大賢者、ロット・ヘイワードに出迎えられる。


「本来ならばこちらから挨拶に伺わなければならないところを、わざわざのご来訪痛み入ります」

「前置きは結構。貴公らと無駄話に興じるつもりはない」


 青年の社交台詞を一刀に斬り捨て、マイルズが不興も露わにそう告げる。

 ロットと同席しているのは事務方のアメリアと、教導官のデリックだ。

 一瞬、マイルズはデリックに鋭い視線を向けたが、すぐさま目の前の青年へと意識を戻す。


「単刀直入に要件を言おう。我がギルドの冒険者、トバイアス・ヘイルが貴公らウルザブルンの職員に闇討ちを受けた件についてだ」


 と、マイルズが話を切り出した。


「討伐依頼が重なるのはままあること。冒険者間のいざこざも無くすことはできますまい。しかし、徒党を組んで後ろから襲い掛かるというのは、明らかに道理を逸脱しておる。――我々はこの件をうやむやにする気はありませんぞ。公の場に申し立て、理非(りひ)曲直(きょくちょく)を明らかにするつもりだ」


 ロットたちを脅しつけるように、傲岸に告げるマイルズ。

 彼は冒険者ギルドとウルザブルンとの間で起きたあの事件を、裁判所に訴え出ると言うのだ。


「ほう。それはまた大仰な……どうやら誤解があるようですね」


 対して、ロットは作り笑いを浮かべたまま穏やかに応じる。

 トバイアスを気絶させた後、ロットは彼を秘密裏にウルザブルンの本社へと運び込んだ。そこで五日の間監禁し、その後で冒険者ギルドの前へと身柄を置き去りにしたのだ。


「誤解だと? あなた方が複数人でトバイアスを襲い、負傷させた事実は歴然としておる。誤魔化しも言い逃れもかないませんぞ」


 声に怒りと非難を滲ませるマイルズ。

 トバイアスからどのような説明を受けたかは知らないが、マイルズはとにかくその線で話を持っていくつもりらしい。

 無論、彼がS級冒険者の凶行を知らなかったはずはない。ともすれば、ウルザブルンへの数々の妨害工作を主導したのはこのギルド長なのだ。

 ウルザブルンに冒険者が襲われたなど、責任転嫁も甚だしい言いがかりである。


「いずれにせよ、真実は必ずや白日の下に曝されるでしょう。貴公らも覚悟しておくといい。司直(しちょく)の追及は、なまぬるくはありませんぞ」


 一方的に脅し文句を並べるマイルズ。

 だが、ロットはギルド長がひた隠しにする焦りを感じ取り、胸の内で安堵する。

 彼がウルザブルンを訪れたのは、事態の収拾に自信がないからだ。

 仮に裁判所に訴えるというのなら、訴訟相手に直談判する必要はない。粛々と手続きを済ませればいいだけだ。

 直接会社に乗り込んできて難癖を付けるのは、マイルズが状況をコントロールしきれていない証拠である。


 ――ロットがトバイアスを生かしておいたのは、これが理由だ。

 仮に、あの快楽殺人鬼を処分し地中にでも埋めておいたとすれば、ギルドは依然変わることなくウルザブルンへの嫌がらせを続けただろう。

 だが、S級冒険者を半殺しにして送りつけてやれば、事情は変わってくる。

 脛に傷のあるマイルズのことだ。ウルザブルンが何かを嗅ぎつけたと疑うだろう。そして読み通り、彼はロットたちの反応を窺いに来た。

 まずは、交渉の席に着かせること。第一目標はクリアである。


「先ほどから聞いておれば、随分と偉そうな口をきくようになったな。余程、ギルドの椅子は座り心地がいいと見える」


 と、辛辣な口調で割り込んできたのはデリックだ。

 彼は両腕を組み、刺すような眼差しをマイルズに向ける。


「ふん。貴様には分からんだろう。もはや私は国中の冒険者を束ねる組織の長だ。気楽に構えているとでも思ったか」


 マイルズも、デリックには遠慮会釈のない言葉をぶつける。

 この二人はもともと同じ冒険者パーティーの仲間である。「ウィーグラフ」といえば、十数年前は大陸中にその名をとどろかせた伝説のS級冒険者たちだ。

 アンドリュー・マイルズとデリック・ローナンといえば、鉄壁を誇る騎士と無敵を誇る剣士として一世を風靡した。だが、


「目先の利益に釣られる性根は治らなかったらしいな。だからお前は肝心なことに気付かない」

「何だと? 放言が過ぎるぞデリック」


 心底あきれ果てたと嘲るデリックに、初めて本物の怒りを見せるマイルズ。


「お前が飼っていた殺人鬼が襲ったのは、ゲンジローとネッサの娘だ。――お前は恩人の娘を手にかけようとして、何一つ恥じ入ることがないのかっ!」

「なっ――」


 デリックの糾問(きゅうもん)に、顔色を変えるマイルズ。

 キヨは「ウィーグラフ」の仲間が残した娘だ。

 マイルズはウルザブルンにデリックが所属しているとは知っていても、犬耳少女の出自にまでは気付かなかったのだろう。


「俺の右腕(うで)と、ゲンジローとネッサの命を代償に、お前は(くらい)人臣(じんしん)を極めた。……その果てが、人殺しを使っての薄汚い裏工作か。これでは死んでいった仲間が報われん」

「だ、黙れっ! 貴様が俺の何を知っているというのだっ!!」


 侮蔑の視線を向けるデリックに、マイルズが吠え掛かる。

「ウィーグラフ」の伝説に終止符が打たれたのは、SS級の魔神ベリアルとの激闘によってだ。

 桁外れの力を持つ灼熱の魔物との戦いで、「ウィーグラフ」はデリックとマイルズを遺して全滅し、デリックも片腕を失うほどの重傷を負った。

 そうしてパーティーは解散を余儀なくされたのだが、なんとマイルズはベリアル討伐の褒賞をほぼ独り占めにし、その金銭を政治活動に投じることでギルドの要職に上り詰めたのだ。

 一時は重篤状態だったデリックはその策謀を阻止できず、仲間の忘れ形見のキヨを引き取り、静かに余生を過ごすことを決意した。


「ああ知っているとも。貴様が憐れむ価値すらない外道だと言うことをなっ! 二人の忘れ形見を、俺の娘に手を出したことは絶対に許さんぞっ!」


 満腔(まんこう)の怒りを込めて、デリックが叫ぶ。

 彼にとって、娘のキヨの幸せは人生で望む全てである。卑劣な殺人鬼を差し向けたギルドに、誰よりも激怒していて当然だ。


「貴様……言わせておけば」

「お、落ち着いてくださいギルド長……」


 今にも斬り合いを始めかねない空気に音を上げたのは、それまで置物のように座っていたギルドの事務員アメリアだ。

 彼女は不幸なことにトバイアスの世話役を命じられており、ギルドの一連の策謀を知る立場にいる。足抜けしようとすれば口封じに殺されかねないので、仕方なく付き従っているのだ。


「そうです。デリック様もどうぞお抑えくださいまし。――まだ何も話は始まっていないのですから」


 と、言葉を継いで場の執り成しにかかったのは、金髪碧眼の美少女プリシラだ。

 彼女は壮漢二人を言葉巧みに落ち着かせ、嫣然と笑みを浮かべた。




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