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2 発端 除名処分

夕方ごろにもう一話投稿します。



「聞こえなかったのか? 君は冒険者ギルドを追放されたのだ。以後、大陸のいかなる国でも依頼を受けることはできない。……早く別の仕事を探すんだな」

「ちょ、ちょっと待ってください! 何かの間違いじゃないですか!? せめて理由を教えてください!」


 吐き捨てるようなギルド長マイルズの言葉に、冷静沈着なロットも流石に顔色を変える。B級冒険者とはいえ、彼は長年ギルドに所属し、数えきれない魔物を退治してきた功労者である。いきなり追放されるような(いわ)れは無いはずだ。


「ふん。ならば聞こう。君は「黒の世界樹」討伐の(おり)、いったいどこに配置されたのかね?」

「それは……南東方面でしたが」


 嘲笑(あざわら)うかのように尋ねるマイルズ。

 もはや敵意を隠しもしないギルド長に、ロットもようやく不快の念を浮かべる。


「そうだ。君はB級冒険者で編成した五番隊に所属していたはずだな。南東区画の防衛担当の、な」


 忌々しげに睨みつけるマイルズ。筋骨隆々たる体躯をことさら誇示するように、ギルド長は胸を反り返らせる。


「真っ先に防衛を諦め、逃げ出した連中のお仲間というわけだ。――魔物を退治するのは冒険者の義務。敵前逃亡は重大な規則違反だ。そのような(やから)を、ギルドに置いておくわけにはいかん!」


 大声で怒鳴りつけるマイルズ。

 受付の奥の職員たちや、待機所にたむろする冒険者たちがその光景を盗み見て、ひそひそと何事かを(ささや)き交わす。


「いえ。俺は逃げ出していません。最後まで懸命に戦いました」


 かろうじて弁解するロット。

 おおよその事情を察した彼は、自身の置かれた立場の危うさを理解した。


 確かに彼の居た南東地区は、もっとも早くに防衛線が破られた場所だ。だが、その地区の防衛にロットは参加していない。

 SS級モンスターの群れが別の地区になだれ込むのが見えたため、持ち場を離れて一時的に救援に向かったのだ。

 ロットが駆けつけなければその区画から防衛線は破られていただろう。ただ、彼が真っ先に逃げ出した五番隊に所属していたという事実は変えようがない。


「ほう? それは素晴らしいな。しかし見たところ、君は随分と綺麗な身体をしているようだ。手足を失った者も多いというのに、よほどの活躍をしたようだな。

――貴様らが逃げ出したお蔭で防衛線は崩壊し、我らは総崩れとなったのだぞ!」


 マイルズは説明を聞き容れるつもりもなく、忌々しげにロットを睨みつける。

「黒の世界樹」を討伐できたとはいえ、王国騎士団や冒険者ギルドが負った損害は決して軽いものではない。

 彼らはその責任を、敵前逃亡した冒険者たちに負わせようとしているのだ。


「ですが……」


 それでも潔白を証明しようするが、ロットは言葉を詰まらせてしまう。

 自分が凄まじい技術と桁外れの魔力量、そして魔物への深い知識を持ち合わせていることを、ロットは冒険者ギルドに隠している。それが(あだ)になった。


 ロットが実力を表沙汰にしなかったのは、彼の思想が冒険者ギルドの運営方針と相いれなかったからだ。

 表向きは魔物災害の撲滅と、人々の保護を標榜(ひょうぼう)しているギルドだが、実態は国家や権力者と癒着し、絶大な権力で様々な利益を独占している。


 実力が認められて高位の冒険者になれば恩恵の一部を受けることもできるのだが、引き換えにギルドの権力構造に取り込まれてしまう。

 なにも肩書に(はく)をつけなくとも、魔物を退治し人々を守ることはできる。そうした理由から、ロットはギルド内での出世を望まなかったのだ。


「ふん。ほとぼりが冷めた頃を見計らって戻って来たのだろうが、貴様らの小賢しい考えなど見え透いておるわ!」


 仮に真実を打ち明けたとしても信じられないだろうし、実力を証明したとしても自分が敗走を止められなかったことに変わりはない。

 マイルズの叱声(しっせい)に、ロットは項垂れるばかりだ。すると、


「A級冒険者たちと王国騎士団の方々が死力を尽くして「黒の世界樹」を討伐しなければ、貴様も今頃無事では済まなかっただろうに。……よくも図々しく顔を見せられたものだ」

「――え?」


 続けてマイルズが放った言葉に、ロットは首を傾げた。

 自分が所属していた五番隊が逃げ出したのは事実だが、A級冒険者と騎士団が「黒の世界樹」を討伐したとはどういう話だろうか。


 ギルドの部隊は順番こそあれ全員が戦場から離脱したし、残った騎士団も壊滅に近い損害を出した。生き残りの騎士を逃がしたのがロットなのだから間違いない。あの戦場に、最後まで立っていた人間は自分だけなのだ。


「ギルドの誰が、「黒の世界樹」を討伐したのですか?」


 ギルド長の明らかな誤りに、思わず追及してしまうロット。

 ただの事実誤認ならいいが、意図的に嘘をついているなら問題だ。自分の名誉のためではない。魔物災害の軽視に繋がりかねない危険な過ちだからだ。だが、


「貴様の知ったことではない! 何度も言わせるな! 貴様は首だ。さっさと出て行け! おいアメリア、とっととコイツに書類を渡せ!」


 マイルズは怒りに顔を歪めて怒鳴りつけると、さっさと奥に引っ込んでしまう。

 そして受付嬢が再び窓口に現れると、冒険者ギルドの正式な除名通知書を差し出してくる。


「今までお疲れさまでした。……どうぞ、お健やかにお過ごしください。」


 受付嬢から哀しみと失望の眼差しを向けられ、ロットはそれ以上事情を尋ねるのは不可能だと悟った。

 世界を救った大賢者は、蔑みの視線を一身に浴びながら冒険者ギルドを後にするしかなかった。



   ×   ×   ×



「まいったな。どうしよう……」


 ギルド本部から追い出されてしまったロットは、路上で困惑のため息をつく。

 降って湧いた災難だが、ギルド側の言い分も分からなくはない。ただ、潔白を証明するのは難しく、一度下った除名処分を撤回させるのは不可能だろう。

 おまけに、彼は「黒の世界樹」との激闘で所持品のほとんどを失ってしまった。

 収納空間に残っているのは少々の現金と日用品ぐらいで、このままでは生活するのもままならない。その時、


「――ん?」


 途方に暮れるロットの前で、豪奢な四頭立ての馬車が止まる。そして


「お戻りになられましたのねロット様! ギルドから除名されたなんて本当ですか!?」


 華やかなドレスを纏った金髪碧眼の美少女が飛び出してきた。




お読みいただきありがとうございます。

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