並走
すっかり遅くなってしまった。
部活が長引ていつも乗る電車より2本遅い電車を私はホームで待っている。帰宅ラッシュでもないこの時間のホームはそこそこ空いていて、いつも見る顔もいない、新鮮な感じがした。
アナウンスがホームに響き、時間通りに電車が来た。私は空いている席に腰かけ、携帯を見る。いつもより帰りが遅くなるのは母には連絡済みだ。
電車は出発し、私の体を心地よく揺らす。1駅2駅と過ぎ、いつもより遅い電車に乗っているという以外何も変わらぬ時間が過ぎる。
ふと、聞きなれぬ音に顔を上げると向かいの窓に電車の先端が見えた。ああ、隣の線路を並走しているんだ。この時間は並走する電車が見れるのか。
隣の電車は速度を上げ、私の乗っている電車と完全に隣り合う。しかし、その電車には誰も乗っていなかった。回送電車かと思ったその時、人影が見え始めた。なんだ、普通に人が乗っているじゃないか。私は好奇心から隣の電車を見続けた。すると、私の高校と同じ制服の子が立っているのが見えた。スカーフの色からすると同じ学年だ。もしかすると知り合いかもしれない。誰なのかを見極めようとしてジッとその子を見続ける。その子は携帯を見ていて顔が分からない。あれ、私と同じ携帯を持ってる。ストラップまで同じなんて…。でもおかしい。あのストラップはオーダーメイドで、私しかもっていないはず。ていうか、あの背格好って。私は背筋が凍った。そこにいたのは紛れもない「私」だったのだから。
向かいのガラスに映った私と隣の電車にいる私の位置がちょうど重なった。すると向こうの私はゆっくりと顔を上げ始めた。私は見てはいけないような気がして顔を下に向けた。冷汗が止まらない。
怖い、でも確かめたい。勇気を出してもう一度顔を上げた。すると隣の電車は速度を上げ、私の乗っている電車を追い抜いて行った。私は気が抜けて思いっきり背もたれに背中を預ける。
最寄り駅に着き、自宅へと向かう。
「ただいまー」
リビングを開けると母が怪訝な顔をして私を見る。
「なに、どうしたの」
「あんた、何であんなに何回も連絡してくるのよ」
「え、なにが?」
母には、今日帰りが遅くなると一本メッセージを送ったきりだ。
「遅く帰るって送ってきたと思ったら、いつも通りの時間に帰るねって…。しかも送ってきた時間は全然いつも通りじゃないし。一体どういうこと?」
母がなにを言っているのか全く理解できなかった。母の携帯を見ると確かに私からのメッセージがある。しかし、これは私が送ったものではない。
「まあ、無事に帰ったのならいいわ。ご飯の支度するわね」
私は並走する電車に乗っている私を思い出し、嫌な感じがして母に話した。
「あ、あのね…お母さん…。今日帰りに並走する電車があってね…」
「並走する電車?何言ってんの」
あの路線は、対抗する電車の線路以外に線路なんかないわよ。