愛すべき人々 ~独身寮~
豚に絵を描く大阪の某服飾専門学校を卒業し、とあるメーカーに就職した頃、
私は姫島に在る独身寮に住んでいた。
そこは学生、社会人向けの独身寮で、食事付き(朝、夕)、トイレ、洗面、風呂は共同、
8畳洋室で月80,000円。
学生の時から引き続き住んでいたが、色んな人達がおりました。
同じ敷地内に女子寮があり、お風呂も共用。
もちろん、使用時間は区切られていましたが…。
結構女子寮とも行き来してました。(出入り禁止だったが…。)
ある日、風呂に入って頭を洗っていると後ろの方で 、
『じょろろろろろろぉ!』
何事かと思い振り返ると、一人の男が風呂の壁に向かって立ちショ○をしていました。
男: 「こんばんわぁ。今日引っ越してきたサトちゃんです。」
私: 「こんばんわはええけど、お前何しとんねや!」
サトチャン: 「すんまへん。わし風呂入るとつい、出てしまうんですわぁ。」
私: 「ついやあれへんがな!勘弁してくれよぉ!」
サトチャン: 「ほんま、すんまへん。」
私: 「ほんま、たのむでぇ…。」
妙に筋肉質の体と、目の焦点が合っていないの彼の顔をを見ると、私はそれ以上何も言えなかった…。
風呂の中で話を聞くと、彼は去年までプロボクサーだったらしく、全日本の2位までいったとの事。
(後遺症丸出っしゃなぁ…) そう思いながら、
私: 「ボクシング言うたら、わしの隣りの奴、沖縄から来たらしいけど、
ボクシングの高校チャンピヨンやったらしいで。」
サトチャン: 「ほんまでっかぁ?あとで紹介してください!」
もう一人のボクサーくずれは、ちゃー坊といってボブサップを二廻り小さくしたような奴で、
危険度はサトちゃんといい勝負であった。
(こいつらコンビ組んだら、めっちゃあぶないなぁ…。)
一抹の不安を覚えながら、3階のちゃー坊の部屋へ…。
二人はたちまち意気投合し、みんな呼んで酒盛りをやることになったが、
時刻は夜の12時前で酒屋はすでに閉まっている。
私: 「酒屋、しまってんで…。」
ちゃー坊: 「だいじょぶ!わしにまかせとき!」
サトチャン: 「どうすんのん?」
ちゃー坊: 「まかせときって!」
酒屋は寮から10m位のところにある。
3回の窓から見いていると 『ガンガンガンガン!』
ちゃー坊: 「おっちゃん!わしやわしや!開けてーなぁ!」
…シャッターを思いっきり叩いている…。
…思わず窓を閉めた。
なにやら店主ともめている声が聞こえていたが、
しばらくすると、ビールを1ケースかかえてちゃー坊が帰ってきた。
私: 「無茶ぁしよんなぁ…。」
ちゃー坊: 「だいじょぶ、だいじょぶ!」
サトチャン: 「よっしゃ!ほんなら飲もう!」
みんな: 「かんぺぇ~い!」
いつのまにか他の部屋や、隣りの女子寮からも参加者が増えている。
みんな結構酔っているが、何かゲームでもしようと言う事になった。
女の子: 「トランプ持ってへん?」
ちゃー坊: 「花札やったらあるで。」
女の子: 「そんなんあかん。あたしの部屋にあるから取ってくるわ。」
ちゃー坊: 「部屋何処やねん?」
聞くとちょうど真向かいの3階の部屋だった。
ちゃー坊: 「それやったら、わしが取ってきちゃる!」
女の子: 「ええよええよ。私取ってくるから。」 (どこにあるかわからんやろ!)
ちゃー坊: 「3階やったら飛び移った方がはやいやん!」
そりゃそうだが、向かいの女子寮の通路まで3mはある。
しかもここは3階である。
冗談だろうと思っていると、ちゃー坊はふらふらと立ち上がりベランダに向かって行った。
ちゃー坊: 「ほんなら行ってくるわ! なまからんじちゅ~ん♪」
止めるまもなく、ちゃー坊はベランダの柵に立ち上がったと思ったら、足をすべらせ落ちてしまった。
みんな「!!!!!」
サトチャン: 「下とちゃうでぇ~!」
私: 「落ちよった!!!」
女の子: 「嘘やろぉっ!!!」
みんなで恐る恐るベランダから下を覗いてみた。
サトチャン: 「そっちちゃうでぇ。向かいや!向かい!」
(酔っ払いはだまっとれ!それどころやないっちゅうねん!)
しかし、ちゃー坊は3階から落ちたにもかかわらず、地面に横たわったまま手を振っていた。
ちゃー坊: 「落ちてもたわぁ。だいじょぶ!だいじょぶ!」
(い…生きとる。 なんで平気やねん…。 でもよかったぁ…。)
それから1ヵ月後、私は会社の用意してくれた寮へと引越しをした。
不死身のちゃー坊、年中酔っ払いのサトチャン、いまでも元気だろうか…。