流星
二人は良太を見るなり、二人そろって「お兄さん、おはようございます」と挨拶をしてきた。良太も反射的に「お、おはようございます」と戸惑いながら挨拶を返す。
二人は二の句を次ぐことなく、無表情で良太を見上げていた。二人とも人形のような整った顔つきをしていたが、無表情なためか、良太はわずかに居心地の悪さを感じた。
良太にはどう見ても二人は双子にしか見えなかった。加えて着ているシャツは同じ、履いている靴下と靴も同じ、目や鼻の形もよく似ている。違うのは髪型と、下半身がズボンかスカートくらいという、顔以外も似せようと意識した格好をしていた。
良太は二人を見た瞬間、この二人が誰なのかすぐに見当がついていたが、念の為二人に向かって「君たちは、なんていう作品から出てきたの?」と尋ねた。
「僕たちは、『星を見る双子』のリュウとセイです」
良太の予想は正しかった。
『星を見る双子』は、今目の前にいるリュウとセイが主人公の、星空がよく見える田舎を舞台にした作品だ。二人は両親から買い与えられた望遠鏡で、毎晩星を見るのが毎日の楽しみという設定だ。
ある日二人は見たことのない星を見つける。二人はその星に自分たちの名前を取って、『リュウセイ』という名前を付ける。そしてその星は徐々に大きくなっていき、二人『リュウセイ』を見るのが一番の楽しみになっていた。
だが、実はその星は巨大な隕石だった。そして最後は『リュウセイ』は地球に……という結末の予定だったが、それよりはるか手前で良太は書くのをやめてしまっていた。
「君たちも、作品を完成させてほしくて現れたんだよね?」
良太の問いかけに、二人は無言で小さく縦に首を振った。
「分かった。まあ、立ち話もなんだから、上がっ……」
そこまで言ったところで、良太は重要なことを忘れていたことに気がついた。
「佐藤さん、こんな朝から何してるんですか?」
寝起き直後のためか、不機嫌そうな表情で目をこすりながら清水が玄関にやってきた。
「……この子達、誰なんですか?」
見知らぬ子供が玄関にいることに気づいた清水は、半開きの目を見開くと良太に視線を送った。
「えっと、それは……」
良太は返答に困り、押し黙った。ここは単純に『いとこ』と言ってしまう考えもあった。しかしそれはすでに沙希の時に使ってしまっている。何度もいとこがやってくることを怪しまれてしまうかもしれない。
良太が答えを見つけられず固まっているうちに、清水は二人の前にかがみ込むと、「君たちお名前は? お父さんお母さんは?」と穏やかな声で尋ねた。
二人は顔を横に向け、お互い見つめ合うと、
「僕たちは、リュウとセイです」
「私たちは、良太さんの書きかけの小説からやってきました」
見た目には不釣り合いなほどハキハキと、そしてよく通った声で答えた。
清水は「あはは、君たち面白いこと言うね」と、二人があまりにも堂々としていたからか、苦笑を浮かべながら立ち上がり、良太の方を振り向くと、
「佐藤さん、この子達、いとこですか?」
困惑した様子で言った。
良太は安直すぎるからと二人はいとこだと即答せずに悩んでいた自分がバカバカしくなってきていた。
この流れならいとこだと言っても信じてもらえただろう。しかし、良太はそうはしなかった。
「清水さん。二人の言うことは本当だよ。その子達は俺が昔書いた小説から出てきたんだ」
「ちょっと佐藤さん……」
「本当だよ」
清水が何かを言い始める前に良太は言い切ると、二人を部屋に上げ、リビングへ向かった。相変わらず無表情の双子と、納得していない表情の清水が後ろに続く。
「なぜだか分からないけど、少し前から途中で投げてしまった小説の登場人物が『作品を完成させてくれ』って現れるようになったんだ」
良太は机の上に置かれたノートPCを開くと、『星を見る双子』というファイル名のテキストファイルを開いた。ファイルの更新日時は二年前だ。
「これちょっと読んでみてよ」
良太は机の前から離れるとノートPCを顎で指し、清水は釈然としない表情で席に着き『星を見る双子』を読み始めた。しばらく読み進めたところで清水は斜め後ろに立っていた良太に視線を向けると、
「この子たち、この作品の登場人物のコスプレしてるんですか?」
以前良太が倉田に向かって言ったのと同じようなことを言った。
「そんなことして、この子たちにメリットがあると思う? 人気小説のキャラクターならまだしも、無名の、しかも未完の作品のコスプレなんて」
これまた良太も以前倉田に言われた事とよく似た言葉を返す。事実なのだが、言っていて少し悲しくなり、清水の「確かに!」という反応でさらに悲しくなった。
「はい、僕たちの格好はコスプレじゃありません」
リビングの入口付近でセイとともに直立不動で固まっていたリュウも続く。
「う~ん……。正直言って信じられないですけど」
清水は硬い表情でリュウとセイを一瞥した。
「だけど、こんな朝早くから子供だけで出歩かせる親なんていないでしょうし、小説から出てきでもしない限り佐藤さんにこんな可愛い子の知り合いがいるわけ無いですよね。信じます!」
さり気なくひどい事を言われている気がするが、とりあえず清水が信じてくれたことで良太は話を続けることにした。
「それで、はっきりした日数はわからないんだけど、どうやら小説を完成させないと現実に現れた登場人物と、PCに入ってるファイルが消えちゃうみたいなんだ。そのせいで沙希は消えてしまった」
良太は悔しそうな表情でノートパソコンのディスプレイに視線を向けた。画面上には清水が操作したため、良太が今まで書いた小説のファイルが置かれているフォルダが表示されている。以前はその中に沙希が主人公の『キッチンナイフガール』もあったのだが、今はない。
「沙希ちゃんもだったんですね」
なんとなく予想がついていたのか、清水はさほど驚いた様子ではなかった。
「そうだよ。しかも、消える直前には認知症になったかのように、現実世界での記憶がどんどん抜け落ちてしまっていた。清水さん、続きを書きたいから」
良太は立ち上がり清水の横に立つと、清水を見下ろした。
「あ、はい」
清水は素直に良太に席を譲った。
「君たちの小説は絶対に完成させるから安心してよ」
良太は後ろを振り返りリュウとセイに向かって言うと、すぐに向き直りキーボードを叩き始めた。




