63話
そういうわけで今日は金下さんの神社にやって来た。今日は三人一緒に来ている。先輩と部室に帰ってきて、土中さんはめちゃくちゃ泣いていた。なんでも男に拉致されたとか何とかいう噂が流れていたらしい。
なるほど今の時代神隠しより、拉致事件の方がよっぽど信憑性が高いわけだやってくれたなあの先生。そういうわけで3人でキャリーバックを返しに来た。金下さんと会うのは旅行ぶりである。再びバス停に降り立って、癖の強い看板を目印に歩くこと数分。金下さんのいる神社にたどり着いた。
この前はここで土中さんが突っ込んできたが、何やら既視感を感じる。神社の方向から雪崩が発生している。おいやめとけ姉ちゃん、なんか前回よりも大きい気がするぞ。やめろ、やめとけって。そして我が姉は再び土煙に巻かれた。
「ごめんんさい、ごめんなさい。私はこの神社の巫女をやっているものでして。何やら血なまぐさい気配と犬のような気配を感じましたので偵察に来たのですが、あまりのスピードで突撃してしまいました。けっして怪しいものじゃないのです!」
「大丈夫よみやびん。いつものことだわ、それに久しぶりね。」
「ん、この変幻自在百戦錬磨の乳袋をもつこの声は……、ひがみん!よかった本当に帰ってこれたんだね。待ってたよ!」
そこは声だけで判断できないものなのだろうか。私はこの神社の看板に土砂崩れ注意か猪出没を立てるべきだと思った。この神社の参拝人が少ないのはきっと立地条件だけじゃない、いやすべては立地条件が原因なのか。
「金下さん久しぶり、今日は先輩を見せに来たのとこれを届けに来たんだけど、どうすればいいかな。」
金下さんは何か不思議そうな顔をしながら、ハッと思い出したかのようにキャリーバックに飛びついた。
「そうそうそうこれこれ!忘れてたの。家に帰ったら下着という下着がなかったからまさかひがみんにやられたと思ったんです。連絡しても全く反応がなかったからこれは確実にお縄についたかなと思って面会可能になったら見せびらかしてやろうと思っていたのです。それにしてもよくもまあこんなに早く出所できましたね。さすがはひがみん。」
全くこの駄姉は何も説明していないらしい。おそらくこの状況を楽しんでいるのだろう。それと加えて金下さんは駄姉が出所してきたことを喜ぶべきではないのではないだろうか。全く女の子というものは理解できない。
「何いってんの雅ちゃん!むしろ逆、逆だよ盗られたんだよ会長は。学校でもう有名だったんだから。」
「そうよ私はそこの思春菌をまき散らす舎弟に大切なものを奪われてしまったの。」
こいつどんどん話をややこしくしてきやがった。このままだとまずい、土中さんがヤンデレ化し始める。それから要所要所に挑戦的なワードを入れてくるんじゃない。いらないからそんな匂わせ。
「ちょっとまて落ち着け。金下さんちょっとそのバカでかいキャリーバック地面に置いてもらっていいですか!それからそこのヤンデレ犬、今からそこのキャリーバック投げるから下までとってこい!」
この駄姉のせいで洗いざらい全部話すことになってしまった。姉ちゃんが神隠しにあったこと。私が姉ちゃんの記憶を取り戻したこと、私は昔イケメンだったことなどである。最後の方は自分で説明しておいて「じゃあ今は?」と純粋に聞いてきた土中さんに刺されて心苦しかった。
「それじゃあここにはいろいろとこみこみでやって来たわけですね。とりあえずキャリーバックに鍵をかけておいて正解でした。」
なぜだろう、一番力を入れて弁明したところが全く伝わっていない気がする。
「それで、ひがみんは今回のこと、私にどう思っているか聞きたいのですね。といっても私も大層なことは言えたものじゃないけど。」
理解が早くてとても助かる。