61話
「姉ちゃんよく今の学校でイキリ陰キャとか言われないね。私あのまま成長してたら絶対関わることなかったよ。なんだっけあの口癖、というか魔法みたいなやつ、モエールモエールえもももも!ってやつやってゴハッ。」
「ち・が・う・でしょ!それは萌が変身するときの効果音でしょ!魔法は火、契約者の色は赤、繰り出すは混沌。バーニングバニーアタック!!でしょ。ちゃんと忘れないで覚えておいて、今度の中間試験に出るわよ。」
てっきり黒歴史をさらして誤魔化すつもりだったが、黒歴史を黒歴史で上塗りしてきやがった。試験に出るのはせいぜい混沌くらいだ。
「もういい、イチャイチャ終わり!それで御影君にはそう見えていたのね。私は御影君にその何かな……した後、すっと意識が消えて、なんか誰かの声がしたわ。声というか何というか、懺悔に近いものを感じたわね。それと帰ってきてくれっていう、意思みたいなものを感じたわ。これ、御影君でしょ。」
帰りを望んでいたことも、懺悔をしていた記憶も知ったことではないが、これは状況証拠的に見て、やはり私と考えるのが妥当だろう。
「ちょっと待ってくれ、それは本当に感覚的に伝わってきたのか、それとも言葉が直接聞こえたのかどっちだ。」
「せっかく濁してあげたのに、いやごめんなさい。そうよね、せっかく素直になれたのに、これからもそうでなくちゃいけないわ。御影君のお姉ちゃんに対する愛、ちゃんと届いたからね。そのおかげで私、何の疑いもなくあなたを弟だと思っているもの。」
なんだかとてつもなくウザく感じてきた。なんで愛とかそういう恥ずかしい言葉使えちゃうのかな。姉ちゃんの羞恥心の基準がよくわからない。
「それでその後、ようやく見つけた弟をそのままにしておくのもかわいそうだったから、膝枕をしてあげて、おでこもこすってあげたわ。あなたの方はどうなのかしら。」
私は改めて姉ちゃんの記憶が戻ってきたこと、同時に小学生の時の自分の記憶が戻ってきたことを説明した。しかしまあ、こうなった以上、私たち二人は認めなければならないだろう。
「そう…、私たちはやはり何というべきか、神隠しにあったとでもいうべきなのかしら。とにかく超常現象体験をしてしまったということなのね。」
姉ちゃんはいつになく目をキラキラさせながらそんなことを言っていた。私はてっきり姉ちゃんも超常現象を嫌っているのかと思っていたが、どうにも調べているうちに本当に好きになってしまったように見えた。
このような結論に至ってしまったのはとてつもなく不服なことだが、やはりそう考えるほかないというか、正直それくらいしか説明をつけることができなかった。人というものはこうしてどうしようもない、自分たちでは説明の使用がない現象に見舞われたとき、そこに超自然の存在を見てしまうものなのかもしれない。
何であれ今だけは少し超常現象に感謝している。まあこの出来事をひとえに奇跡体験だとか、神隠しとして片づけてしまうのなら最終的な結果も両者嬉しいものであっただろうから、そこで考察を終えてしまってもよいと思えてしまうのだが、さすがはかれこれ10年近く超常現象を研究してきたであろう姉ちゃんの筆が止まることはなかった。とりあえず遅めの昼食を作りながら姉ちゃんの話を聞く。61