42話
「ふふっ、こうしてデートするのは2回、いや3回目ね。よかったわね月山君、これでデート数だけならお祭り男と同レベルくらいになれたんじゃないかしら。」
「いやそんなことないですよ、先輩はほら乙女っていうかブサメって感じですから、女の子には入らないからノーカンです。残念だな。」
「そんなに私に流鏑馬されたいのならいいでしょう、とっておきの電子データを放ってあげるわ全世界に。」
ぐっ、そういえばこの人に王手をかけられていることをすっかり忘れていた。この人の奴隷的な扱いを受けさせられることになるとは。
「まあせいぜい私のことを守って頂戴ね。今からこの古の都京都が誇る最強の心霊スポットに行くのだから。」
とてつもなく聞き捨てならないことを聞いてしまった。何だって、最強心霊スポット?控えめにいってオオバカ?というか巫女さんが二人もいてなぜ一般人の私を盾にしようとした。もっと適任者がいる…、
とも思えはしなかった。しかしこのままでは全世界に私が流鏑馬されてしまう。心霊スポットなんかよりもずっと恐ろしいのはやはり人間だ。
「ところで月山君、夜の京都を行くタクシーにとある場所まで連れて行ってとお願いした場合、断られる場所があるのを知っているかしら。」
いやそんな場所は聞いたこともない。観光地である京都のタクシー運転手が乗車を拒否するだなんて、そんなことあり得るのだろうか。
「そう、今から行くのはその場所なのよ。大丈夫安心して頂戴、これが意外と山の中とかにあるわけではないの。タクシーを使わなくても頑張ればなんとかなるわ。」
いやそんな物騒な場所にそもそも行こうとしている時点で、決して大丈夫ではない。いや、この人にとってはむしろ幽霊に幽閉されるくらいが丁度よいのだろうか。もう本当に闇の住人になってしまえばいいのに、いや私もこのままだと闇の住人になってしまう。
「分かりました、じゃあとりあえず何かあったら先輩と二人っきりにしてあげますからごゆっくり楽しんでください。」
これは先輩の趣味趣向に合わせた最大限の私なりの気遣いである。
「何を言っているの月山君、私たち最強の陰陽師になるって決めたじゃない。式神であるあなたが逃げ出してどうするの、せいぜい敷き紙のように紙としての能力を果たさずして一生を終えさせてあげるから安心して頂戴。」
まあこれだけ出かける前から闇墜ちしていれば、同類だと思われて寄ってこないだろう。最悪の場合この災厄の元凶を差し出せばきっと収まりがつくと信じていた。しかし幸いなことに今はまだ昼間だ。夜でもなければそこまで怖くもないだろう。
きっと心霊スポットなんてそこがそうだといわれているから恐怖するものなのだ。何も言われずに先輩について行ったら、変態の恐怖以外何も感じなかったはずだ。しかしなぜだか手に汗握る展開が電車の中でも歩いている最中もひっきりなしに続いていた。一話一話展開が目まぐるしくて疲れるアニメと一緒である。別に気をそらしたいわけではないが、何となく気になったことを聞いてみた。
「先輩って霊感…は無いですよね。あったらこんな冷やかししないですもんね。」
「何を言っているの月山君、レイカンがあるからこそ場が冷めるってものじゃない。こういうのはそういうの、なしの方がいいの。」
先輩のことを私のレイガンでぶち抜いてやりたい。だからあの二人を連れてこなかったのか。霊感のある二人にはその霊感で先輩の頭を冷やしてほしかった。
「それにあなたが無いとも限らないじゃない。もしかしたら転生特典が付与されているかもしれないわよ。それにもう一つ、あなたは盛大な勘違いをしているわ。私、本当は超常現象なんて信じてないの。」
先輩だって場を凍らせるのが得意だから霊感もちではないか。
「え、先輩あれだけ研究してて信じてないんですか!?じゃ、なんで続けてるんです?」
「私は超常現象も超能力者も否定したいの。だからこそ疑い続けているの。どうしてもそれが必要なの。」
先輩はいつになく思い詰めた表情をしていた。きっとこれから行く心霊スポットに怖気づいているのだろう。
「そうですか、なんかすごく意外でした。深くは聞きませんけど、何かあったら相談してくださいね。」
「ここは普通話を深く掘り下げて、ちょっと仲良くなってドキ!みたいな場面だと思うのだけれど、まあいいわ。ちょうど目的地にも着いたみたいだし。」