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虚夢‐ウツロメ‐  作者: みかみや
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4話

 退院後、私は真っ先に自宅に向かった。自宅は普通の住宅地の普通の一軒家だった。大きな豪邸やマンションを期待していたわけではなかったが、少し残念だった。私は黒服から渡された遺品のうち、それらしきカギを探した。


 鍵を開けてまず思ったのは、意外と中がきれいだったことだ。まあ旅行前には家をきれいにしておくものかと、深くは考えなかった。しかしこの家もまた、病院と似たような部屋ばかりだ。写真やアルバムを探してみたが、そのようなものはどこにも存在しなかった。

 なのにもかかわらず家族旅行には行くのかと、まあ写真が嫌いな人もいるだろうと。


 そう思うことで、頭の中を真っ白にする。考えてもどうしようもない。記憶が戻っても人まで戻ってくるわけではない、涙を流すこともできない、悲しくもない。なるほど道理ですべてが淡泊に見えるわけだ。


 私は部屋を物色する。女ものの多い部屋が一つ、男物の多い部屋が二つ、あとは風呂やトイレやキッチンと、いたって普通ではないだろうか。見る限りスーツの多いこの部屋は私の部屋ではないだろう。ということはこの部屋が私の部屋になる。


 勉強机にベッドにクローゼット。全体的に木目の多い家具で構成さえているその部屋に暖かさを感じることは無かった。ベッドの下を確認しても何もない。本棚には教科書。教科書の裏には何もない。机の裏は、やはり何もない。なるほど媒体派かと、パソコンやスマホ、タブレットなどを探すも、何もなかった。これでは個性の一つもわかりはしない。



 家の中を探し回っても、スポーツ用品や特徴的な書籍類、趣味に関係するようなものは一切なかった。あまりにも物が少なすぎではないだろうか。しかしまあ病室に誰も来なかった理由は分かった気がした。


 さて、これからはここで一人暮らしをしなければならない。金はある。家事とはどんなものかについて記憶もある。一人で生きていくことも十分可能だろう。だがしかし、この街のことを私は知らない。この街のことも落としてしまったのだろうか。


 たしかにこの街で暮らしてきたのならば、自分と家族に関わる記憶も多いはず、ならばその記憶を落としてしまっていても仕方ないのだろうか。ともあれ退院したのだから学校に連絡を入れなければならない。学校の入学案内パンフレットを片手に電話を掛けた。


「はい、私立神代高校です。」

「こんにちは、お忙しいところ失礼します。私、1年E組へ入学予定だった月山御影と申します。E組担任の森先生お願いします」


 少々お待ちくださいと音楽が流れ始め、しばらくすると森先生につながった。


「月山君、退院おめでとう。退院できたってことは、特に体に問題はないのね。それで、宿題はどう?できたかな。」


「ああはい、特にわからない問題はありません。ほとんどの範囲は中学校の復習でしたし。それで私は何をすればいいのでしょうか。」


「そうですね、まずはとりあえず明日学校に来てもらえるかな。」

「はい、わかりました。では明日、えっと職員室で大丈夫ですか?」


 と、とりあえず明日は学校に行くことになった。なんにせよまずは食事だ。とりあえず食材を買いに行くついでにこの街を見に行くことにしよう。もしかするとどこか見覚えがあるかもしれないし。


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