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第4話 言ってみるもんだ

食事後にミーニャから「少しお喋りしませんか?」とお誘いがあった。

ルナティアとしては美少女からの誘いを断る理由ない。


「うん、いいよ」とルナティアが二つ返事で快諾すると、少しして食器などを片付け終えたミーニャが部屋に戻って来た。

ミーニャはそのまま椅子へと腰かけるとルナティアの事を興味深そうに顔で見つめ始めた。



(うへへ、美少女猫耳メイドいいなぁ)



そんなミーニャにルナティアは勇者らしからぬ感想を抱く。

今はそんな呑気な事を考える状況ではないのだが、それ以上にルナティアは美少女に甘かった。

お喋りするという話だったのに、2人見つめ合うという謎の状況になってしまったが、ミーニャの質問からお喋りタイムの幕は上がった。



「ルナティア様はどこから来たんですか?」



「え…っと人間界よ」



「人間と聞いたのですが本当ですか?」



「えぇ、まぁうん」



「勇者っていうのは?」



「うん、ホント」



字面だけ見ればお喋りタイムと言うよりもむしろ尋問に近かった。

だがルナティアはまったく不快にはならなかった。


ミーニャが美少女というのも大きな要因の一つだが、それ以上にミーニャの表情がまるで物語を読み聞かされる子供のような表情をしていたからだ。


ルナティアが人間という事で魔人であるミーニャに嫌悪感を抱かれるかとも思ったが、ミーニャの表情からそんな様子も全くなかった。



「ミーニャは人間が嫌いじゃないの?」



「えーっと、好きという訳じゃないですけどそこまで嫌いではないですよ」



(多分ちょっと嫌いなのかな?)



そこまでという言葉が出たのでそうなのだろうとルナティアは解釈した。

それでもルナティアがこれまで戦ってきた魔人と比べればかなりソフトな部類だ。

大体の魔人は「おのれ、人間が」とか「地獄に落ちろ」などそんな捨て台詞を吐く魔人が大半を占めていた。

それから比べるとミーニャは人間に対してそこまでの悪感情を持っていないようにルナティアには思えた。


ルナティアがそんな事を考えていると、ミーニャは思い出したように付け加えた。



「あっ、でもルナティア様は嫌いではないですよ。魔王様のお妃様ですから」



「いや、違うから。アイツが勝手に言ってるだけだから」



「魔王様をアイツなんて……。出会って一日も経っていないとお聞きしましたが、お二人はもう既にそこまで心を通わせておられるのですね」



(ダメだ。何を言っても通じなさそう)



ルナティアがそう判断した理由はまたもミーニャの表情だった。

別に本人が恋したわけでもないのにミーニャの表情は恋する乙女のソレだ。


否定しても無駄だろうが、かといって肯定すれば後で不味いことになりそうなのでルナティアは話題を変える事にした。



「そういえばシュトライゼン以外の四天王に会った事ないけど、他の四天王って魔王城にいるの?」



ルナティアは初戦で手も足も出せず負けてしまった為、会った事がある四天王はシュトライゼンただ一人だ。

なので、他の四天王が普段どこで何をしているのかをルナティアは知らない。


人間界にもシュトライゼン以外の四天王の話はあまり伝わってこない為、話題転換以外にも情報収集の意味合いも兼ねている。


答えられないなら答えられないでルナティアは仕方ないなと思っていたが、特に機密でもなんでもないのかミーニャは特に考える様子もなく話し始めた。



「普段は皆さんは魔王様から与えられた領地を治めていますよ。有事の際には魔王城に集まって、魔王様をお守りすることになっていますが、今は平和ですから」



(へー、勇者が攻めてきてるのに平和なんだ? まぁあいつらにとっては勇者なんてその程度の存在なのね)



事実、ルナティアはカーナたちと3人がかりでも魔王はおろかその配下であるシュトライゼンに手も足も出なかった。

魔王が当代の勇者であるルナティアの名を知らなかった事から少なくとも魔王個人は勇者の事など何の脅威も抱いていない事が分かる。



(むかつくけど、人類にとっては幸運なんでしょうね。私達にすら手に負えないような化け物が少なくとも5体。今の人類じゃ魔人にはまだ勝てないわ)



その事をルナティアは昨日、身を持って知った。

他の四天王がシュトライゼンほど強いかは分からないが、それでも彼に手も足も出なかったルナティア達が勝てる相手だとは思えなかった。


人間で歴代最強と言われるルナティア達でさえ勝てない相手に他の冒険者達や各国の騎士団がまともに太刀打ちできるはずがない。

数の上では人類は魔人を圧倒しているが、それでも総力戦になれば人類に勝ち目はないと、ルナティアはそう考えた。


ルナティアがそんなことを考えていると、ミーニャは思い出したように言う。



「あ、でも明日、会議があるらしくて皆さん集まるみたいですよ。父上がそう言っていました」



「へぇ、そうなんだ」



(ていうかミーニャのお父さんって結構偉い人なのかな? 魔王城のメイドだし、貴族なのかもしれないわね)



メイドの全てはそういう訳ではないが、人間界でも王族に使えるメイドや使用人の親戚が貴族だという事はままある話だ。

王族の身の回りにどこの馬の骨か分からないものを置けないという事もあれば、時には地方を治める貴族に対する人質的な側面もあるらしい。


そう考えれば、魔王城のメイドであるミーニャの父親がそれなりの地位に就いていたとしても別段おかしな話ではなかった。



その後も人間界や魔界の暮らしや互いの事を少しお喋りした後、ミーニャはルナティアの部屋を後にした。



(もっと、お喋りしたかったのに……)



情報収集を置いておくとしても、これがルナティアの本音だった。

ミーニャとしては気を使ってくれたのかもしれない。

確かにルナティアも一人の時間が欲しくないわけではないが、今はまだ昼過ぎで特に部屋の中でできることもないのでかなり暇だ。



「仕方ない、寝るか」



結果、やる事がなくなったルナティアは布団を被ってそのまま眠りに入ったのだった。



そして魔王城に来てから2日目の朝が来た。



「ふわぁ、よく寝た」



相変わらずのふかふかベッド。

人間界のそこそこ程度の宿では太刀打ち不可能なふかふかぶりだ。


とはいえ、流石に昨日の昼過ぎからずっと眠りに就いていたわけではないわけではない。

たまに起きて寝てを繰り返して、夕方には夕食を取り、その後やってきた魔王を適当にあしらいまた眠りに就いた。


普段のルナティアからすれば、ありえない堕落的な一日だったが、2日前の激闘を言い訳に惰眠を貪る事にした結果である。


ベッドの上で体を起こすとルナティアは僅かな違和感に気づいた。



「あれ、昨日より痛くないな」



ルナティアはけがの回復はかなり早い方だがシュトライゼンにやられたのは1日とちょっと前の事だ。



「昨日の夕食には回復薬が混ぜてありましたのでその効能かと」



びくっと体を震わせたあとドアの方を見ると、笑顔のミーニャが立っていた。



(うわ、びっくりした。昨日もそうだけどこの子、気配を消すのが異常に上手いわね。アサシンか何かしら)



「おはようございます。ルナティア様」



「うん、おはよ。ていうか回復薬って?」



「魔界で取れる体の回復を促す薬草を昨日のご夕食に入れておきました」



ルナティアはそんな事に一切気づいていなかった。


これでは毒を混ぜられていたとしても気づかず食べていたかもしれない。

とはいえ、実力で簡単に排除できるルナティアを毒殺する意味もないので毒を警戒していなかった事もあるかもしれないが。



「そうなのね、人間界では回復薬って結構高い物なんだけど、魔界ではそうでもないの?」



人間界では回復薬はかなり高価な物だ。

一般的な冒険者ではなかなか手を出しにくい物で緊急時用に一つ持つのは基本ではあるが、常用できるほど安易に使える物ではない。


勇者であるルナティアももちろん所持しているがそれでも気軽に普段使いできるほど安くはない。


そんなルナティアの疑問に当然というようにミーニャは笑顔で答えた。



「魔界でも高価ですよ。魔王様はたくさんお持ちのようですが」



惰眠を貪った結果、ルナティアは忘れかけていたが、ここは魔王城でその主は魔王だ。

ルナティアにこんな部屋をあてがえる魔王が金を持っているのは当たり前で、いくら回復薬が希少で高価でもそれなりに常備しているのは当たり前の話だった。



「余裕ね、勇者である私の食事にそんなものを混ぜるなんて」



忘れてはいけないが、ルナティアな勇者だ。


魔王がルナティアを好きだろうが嫌いだろうが勇者は魔人にとって敵以外の何物でもない。

今はまだ無理にしても、怪我が完治すれば逃げ出す可能性もある。



「ルナティア様への愛の賜物かと」



ミーニャは平気な顔で当たり前かのようにそんなことを言いだした。

余程魔王は配下の魔人にルナティアへの愛を語っているらしい。



「あ、そ、そう。それで朝食なのかしら」



「はい、軽いお食事ですが」



そう言ってミーニャがいつものように朝食の準備を始めた。

その間に、ルナティアは昼前と夕方に魔王に言われた話をミーニャに尋ねてみる事にした。



「午後、魔王から呼び出しを受けているのだけど、それまでは部屋の外に出てもいいのかな?」



敵情視察は大事である。


昨日は身体中の痛みでベッドから出る事が難しかったが、もし無事に帰れたら魔王城の中の様子や魔人達の数などは有用な情報となるだろう。


正直ルナティアはダメ元で聞いてみたのだが、ミーニャは悩んだ様子もなくそれに答えた。



「魔王城の中でしたら構いませんよ。というより是非見せてやってくれと魔王様から仰せつかっています。ただし魔王城の外には絶対に出ないようにと。私がルナティア様のご案内するよう言われておりますので、あとで一緒に行きましょう」



言ってみるものだとルナティアは思った。



(くっ、余裕ね、今に見てみるがいいわ、魔王め)



ルナティアは内心でそんな野望に燃えながら、ミーニャの提案を受け入れる事にする。



「そ、そう、じゃあ朝食が終わったら案内を頼もうかな」



その後、ルナティアはパン、サラダ、ハムエッグなど簡単な朝食を食べた後、ミーニャと共に魔王城探索へ向かうことになった。

魔人でも美少女猫耳メイドはアリな勇者ルナティアでした。


だって可愛いんだもの、仕方ないじゃないかぁ~

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