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第29話 ジャン

事態が緊迫してまいりました。そろそろ面白くなってきますかな?

木にもたれ掛かっていた魔人がパチパチと拍手をしながら、魔王軍兵の魔人達を取り囲む魔人盗賊の元に歩いてくると、2勢力の魔人達は一斉に戦闘を中断させた。



「いやー、お見事っすね。流石は栄光ある魔王軍の兵士っす」



軽薄そうにそう言った男を見て、魔王軍の兵士の一人が声を上げた。



「そう思うのなら、無駄な抵抗などせずに投降してくれたら無駄な手間が省けるのだがな」



「ホントっすね、そうしたいのは山々なんすけど、一応こっちも命令を受けて動いているからそう簡単に捕まるわけにはいかないのが悲しい所なんすよね」



(なにあいつ? なんであんなに余裕なの?)



木々の陰から覗きながら思わずそう思ったルナティアと同じことを思ったのか魔王軍兵士の男はきつい口調で言った。



「えらく余裕だな。お前が何を思おうとお前ら全員捕縛させてもらう。シュトライゼン様は甘くはないぞ! 今から覚悟しておくんだな!」



「あはは、怖い怖い。でもそのシュトライゼン様とやらはそんなに暇なんすか? どうやら宝物探しに忙しいみたいっすけど? 宝物は見つかったんすか?」



緊張感の欠片も見えない男が笑いながらそう言うと、魔王軍兵士の男は驚きの表情を浮かべ男に問う。



「……盗賊風情がなぜそんな事を知っている?」



魔王軍兵士の驚きの表情を見た男はヘラヘラしながら兵士の問いに答えた。



「そりゃ、俺達が只の盗賊団じゃないっすから。……シャドウアイって知ってます?」



「なっ、シャド——!」



魔王軍兵士の男は驚きの声を上げたが最後まで言い終えるよりも早く事態が急変した。



突然男が魔王軍兵士の前から消えたのだ。


そして、男が消えた直後、魔王軍兵士の後ろでバタバタと人が倒れるような音が聞こえて、魔王軍兵士の男はゆっくりと振り返ると。



「い、いつの間に……」



男が視界から消えたと思った瞬間に男は背後に立っていた。


いつの間にか倒された2人の魔王軍兵の傍で嘲笑うかのように。


男は興味を失ったのか後ろを見ないままふわりとバックジャンプし、盗賊達の円の外に静かに着地した。



「あとは任せてもかまわないっすよね?」



「すんません、ジャンさん。もう大丈夫です」



盗賊の一人が男に頭を下げながら言うとジャンと呼ばれた男はこの場から歩き始めた。



「いいんっすよ、困った時はお互い様っすから。俺は先にお頭のとこに行っとくっすから終わったら君達も来てくださいっすね」



ジャンが森の中に消えたのを確認した盗賊達は魔王軍兵士の方を見てニヤッと厭らしい笑みを浮かべた。



「さて、続けようか。兵士さんよぉ」



一瞬で形勢を逆転された兵士は思わず後ずらりそうとなるが、仲間が倒れた今となっては後ろを守るものはもういない事に気づく。



「くそっ!」



魔王軍兵士が吐き捨てるように呟くが、事態は変わらない。


ジリジリと盗賊達が魔王軍兵士に詰め寄っていく。



(どう考えてもまずいわよね? これ? ていうかさっきのジャンって男は何? 突然消えたと思ったら、既に兵士の人達倒れてた)



単純な身体能力によるものだとするならあり得ないほどの速度であるが、ルナティアはそうは考えなかった。


あれが身体能力だけに由来するものだとするならあのジャンという男は魔王を守るときに出したシュトライゼンの速度に匹敵する速度で移動したことになる。


そんな事は普通に考えればありえない。


シュトライゼンは魔王を除けばこの広い魔界においても最強と噂されるほどの強大な魔人なのだから。


それにジャンという男は不気味な雰囲気を持つ男だったが、シュトライゼンと相対した時のような絶望感を感じなかった。



(ってそんなこと考えてる場合じゃないわ。どうしよう? このままだと兵士の人やられちゃう! ロジィ君達が危ない!)



ジャンという男はお頭の所に行くと言っていた。


つまり他にも仲間がいるということだ。


このままロジィ達がいる村に戻ったとしても村を守り切る事は難しいだろう。


どうにかして、魔王軍の兵士の男を助けて魔王軍に連絡を入れてもらわなければならない。



(だけど、魔王軍はやっぱり私を探してるみたいだった。このまま出て行って兵士の人を助けたら……)



十中八九バレるだろう。


何も知らなかったロジィやロナとは違うのだ。


ジャンが魔王軍の捜索隊の事を把握しながら、この一帯で活動していることから恐らくルナティアの捜索隊の捜索範囲から外れているのだろうが、特徴くらいは伝え聞いていてもなんらおかしくはない。


だが、どうしてもロジィ達の事を見捨てる決断をできないルナティアはじわりじわりと盗賊達が兵士に近づくのに焦りながら何かないかと無我夢中で持っていたカバンを大急ぎで漁っていると——。



(あっ、これ!)



緊迫する状況の中ルナティアはダメ元でソレを顔周りに覆い被せて、魔人達の元へと飛び出したのだった。


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