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第21話 可愛さはやはり正義

パンを食べてからルナティアは10分ほどだけ体を休めて出発した。


腹を満たしたが、ほとんど体を休まらなかった。

それでも今は少しでも距離を稼がなければならない。


1日くらいは睡眠を取らずとも問題なく動けるが、それでも流石に4日も5日も睡眠無しで歩き続ける事はルナティアでも不可能だ。

どこかである程度まとまった睡眠を取る必要があった。



「いいタイミングで洞窟か何かあればいいんだけど」



普段のルナティアならば睡眠中でも魔物か魔人が近づけば恐らく気付く事ができるが、それも絶対ではない。

今はただでさえ疲労がたまっているので、できれば安心してなられる場所が欲しかった。



さらに少し歩いていると、ルナティアは小さな小川を発見した。

ルナティアは近づいて小川の水を少しだけ掬ってみた。



「……大丈夫そうね」



魔界ではなぜか人間界と違い、川や泉の水が汚染されていることが多々ある。


それだけ水は魔界では貴重なのだ。


ルナティアは空に近くなった水筒に小川の水を一杯まで補充した後、長い髪をかき上げて小川に顔をつけそのまま飲んだ。


女性としては問題かもしれないが、今は誰も見ていない。


手のひらで掬って飲むのも面倒だし、水筒に入れた水を飲めばまた水を入れなおさないといけなくなる。

普通に考えれば大した手間でもないが、勇者ルナティアは大雑把なのだ。


だが、そんな大雑把な行動が時に致命的な隙になることもある。


水面に顔をつけたルナティアは突如背後に気配を感じ取った。

流石に気配だけでは正体が何者かまではルナティアには分からないが、確かに背後に何かがいるのは間違いなかった。


背後の何かが動く気配はなかったが、奇襲されてからでは遅い。

ルナティアは反射的に振り返り声を上げた。



「誰!」



「う、うわ!」



そんなルナティアの動きと声に驚いたのか背後にいた者は驚きの声を上げ、尻もちをついていた。



「えっ、子供?」



ルナティアの目の前で尻もちをついていたのは頭の上から耳を生やした小さな少年だった。

恋愛対象としてではないが、ルナティアのストライクゾーンど真ん中だ。



(うっわ、可愛い子。獣人ってやつかしら?)



くりくりの目に犬っぽい耳を生やした少年はつぶらな瞳でルナティアを見上げていた。



「綺麗な人。エルフ族の方ですよね?」



不意に犬耳の少年がそんな事をルナティアに言ってきた。



(え、エルフ? 私が? ていうか今、綺麗って言った? 言ったよね?)



ルナティアが魔界に来て綺麗と言われたのはこれで2回目だ。



(もしかして私って綺麗なのかしら?)



今までルナティアはそんな事など考えた事すらなかった。

確かに人類を可愛い系と綺麗系だけで分類するなら自分でも綺麗系に属する人間だという自覚はある。

だがそれはあくまで選択肢が2つしかない場合の話だ。

よくよく考えてみると綺麗といえなくもないというのがルナティアの自己評価であり、他人から面と向かって綺麗だと言われるほどルナティアは自分が綺麗だと意識をしたことがなかったのだ。



(ていうか私をエルフと間違える? エルフって言えば……)



金髪ボンキュッボン耳ぴっきーんがルナティアのイメージだ。

もちろんルナティアの偏見が強く、全体的に細身のエルフもいればぽっちゃりエルフももちろん存在する。

だが確かにルナティアの偏見もあながち間違いではなく、一般的なエルフはルナティアのイメージ通り、金髪ボンキュッボン耳ぴっきーんの傾向が強いのも事実だ。


そんなエルフのイメージとは確かに違い、ルナティアは赤髪きゅっきゅっきゅっの耳まるーんな容姿をしている。



(意外と他種族の容姿は見分けがつかないものなのかもしれないわね)



そう思い、ルナティアは獣人の少年に聞いてみた。



「なんでお姉さんがエルフだと思ったの?」



「だってエルフって色白で綺麗な人が多いって聞いたから」



(めっちゃいい子! そして素直! やっぱり私って綺麗だったのね! ミーニャの時も思ったけどやっぱり可愛い子は正義だわ)



ど真ん中ストライクな可愛い少年のド直球に思わず、今が逃走中であることなど忘れそうになったルナティアだったが、心の中で喝を入れる。



(ダメダメ、今は逃げてる最中なんだから! ……うへへ、でもやっぱり可愛いわね)



心乱されるルナティアの緩み切った顔を見つめながら、獣人の少年は尻尾をフリフリするのだった。


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