第１４話 なによ、それ
ルナティアは黙って魔王の話を聞いていた。
魔王が本当は人間界侵攻など望んではおらず、作戦に賛同しつつもずっと裏から手を回していた事。
その裏工作も虚しく人間界侵攻作戦が決行される直前だったという事。
そして、その人間界侵攻作戦が実行される直前に魔界に現れたのが、ルナティア達勇者パーティーであった事。
「なによ、それ。じゃあ私と結婚するって言っていたのは人間界侵攻作戦を中止させるためだったってこと？ なんかおかしいと思ったのよね！ 第１女魔人が激カワ猫耳美少女だし、昨日の会議にも美人な魔人から妖艶な魔人までいっぱいいたし！」
話を聞き終えたルナティアは魔王を睨みつけながら次々と魔王に言葉をぶつけていた。
実際、あの会議の場には女性の魔人が何人もいた。
全員が全員美人揃いというわけではなかったが、客観的に見てルナティアよりも魅力的な女性は何名もいたと思う。
可愛さではミーニャの足元にも及ばないし、ルナティアから見てシュトライゼンの更に奥の席にいた女魔人は誰の目から見ても妖艶な美女だった。
身長が高いだけのルナティアとは違いスタイルも抜群だった上に客観的に見て容姿もルナティアよりも優れていたように思う。
席順から見て恐らく彼女はシュトライゼンやグラガドと同じ四天王の一人だろう。
魔王の妃としての身分としても申し分は無さすぎるくらいだ。
「違う、俺は本当にあの時——」
魔王が何か言いかけたが、ルナティアは魔王の発言に食い気味に更に捲し立てた。
「違わないわよ！ アンタは私個人じゃなく、人間で女勇者の私と結婚したいだけなのよ！ アンタのママと同じ人間の私とね！ 人間界侵攻作戦も中止できるんだからそりゃ口説くにかかるわよね！」
ルナティアは全てを言い終わるとシートから立ち上がった。
「おいっ、どこに行く？」
「帰るのよ！ 不愉快だわ！ 私はアンタなんかと結婚なんか絶対にしない！ 煮るなり焼くなり好きにすればいいわ」
振り返って魔王に言うだけ言うとプイっと元来た道を一人ルナティアは帰っていく。
魔王も広げていた弁当箱を元に戻してルナティアの後を追う。
魔王とルナティアの魔王城へ帰るときの空気はとても重かった。
「……ルナティア」
「………」
魔王が何を話しかけてもルナティアは全て無視し続け、魔王城に着くころには会話は全くなくなっていた。
「……ルナティア、また明日来る」
魔王がルナティアの部屋の前でそう言ったが、ルナティアはそのまま無視して部屋に入っていった。
部屋の扉を閉めるとルナティアはベッドに直行し、ダイブした。
「……何ムキなってるのよ、私。魔王と結婚しないなんてことは前々から分かりきってたことじゃない」
魔王に何を言われるまでもなくそんな事はルナティアの中では決まりきっていた事だった。
このまま適当に過ごして隙を見て、魔王城から逃げ出すという作戦だったではないか。
だが、なぜか魔王から人間界侵攻作戦の裏の話を聞いた時、ルナティアはなぜか心にチクッと何かが刺さったような気がして、黙って聞いていればいいのに思わず魔王に喚き散らしてしまっていた。
「うー、なんなのよー、これー、むかつくー！ あのマザコンがー！」
ルナティアはベッドに顔を埋めながらジタバタしていると、ふと横に気配を感じ、ばっと横を振り返ると、猫耳美少女メイドが笑顔でルナティアを眺めていた。
