第12話 衝撃の事実
「さて、そろそろだぞ」
ルナティアと魔王はあの後も緩やかな登りの森を更に歩くと、魔王は目的地が近いとルナティアに告げた。
「ふーん、まだ全然日も出てるし、夜景と言うわけではないのよね?」
それはそうだろう。
いくら魔界とはいえまだお昼頃なのに、日が暮れるわけはない。
ミーニャから預けられたお花柄の可愛い包みに包まれたお弁当は魔王が持っている。
一応は女性でしかも怪我人のルナティアに対する配慮だろうが、お花柄の弁当包みを持つ魔王はかなり滑稽だった。
「配下の魔人に見られて笑われてしまえばいいのよ」
「心の声が出ているぞ」
「心の声じゃないから大丈夫よ?」
流石に心の声を口に出すほどルナティアは間抜けではない。
わざと口に出していったのだ。
流石にこれくらいのディスり方では殺される事はないとルナティアも理解し始めていた。
当初は殺されても本望だわくらいの気概で臨んでいた魔王ディスりだが、それが功を奏したのか魔王ディスり方が分かってきたルナティアだった。
「まぁよい……ここだ」
魔王の視線の先にあるのは一面に広がる花畑だった。
ルナティナが知るものから知らない花までその種類は多岐に渡り、明らかにそれは人の手が入ったものにルナティアには見えた。
「き、綺麗……」
ルナティアは自然とそう呟いていた。
魔界は人間界で一般的に育つ植物が育ちにくい場所だと言われている。
教会の偉い人曰く、魔人や魔獣が蔓延っている所為で土地が穢れてしまったとかいう話をよく聞くが、ルナティアにはよく分からない。
ただルナティアも魔界に入ってからは人間界でよく見るような一般的な植物は見ていなかった。
無駄に巨大な植物であったり、異臭を放つ花など人間界でまず見る事のない植物であふれていたのである。
「なんでここだけ? ていうかアンタがなんでこんな場所を知ってるのよ?」
魔王に花を愛でる趣味があるとも思えない。
ミーニャから女子受けのいいデートスポットでも聞いたのだろうか?
それにしてはここまで一切の迷いもなく一直線に向かっているように思った。
まるで何度も来たこともあるかのように。
「ここはな、母様が作られた場所なんだ」
「へぇ、アンタにも母親がいるのね」
それはそうだろう。
魔人といっても何もない場所からいきなり発生する訳がない。
あんな美少女のミーニャがあのいかついグラガドの娘だということに未だ納得できていないルナティアだったが、魔人も人間と同じように異性と恋に落ち、子を産み、育てることくらいは分かっている。
「当たり前だろう。俺をなんだと思っている?」
「魔王、私達人類の敵」
ルナティアがはっきりと言い切ると魔王は溜息を吐いた後、「まぁいい」を小さく呟いた。
「母様は美しく強い女性だった」
いきなり魔王はそんな事を言い始める。
どうやらマザコンだったらしい。
まぁ魔王がマザコンだというのはその辺にとりあえず置いておくとして、ルナティアは魔王の言い方に違和感を覚えた。
「……だった?」
魔王は見た目に似合わず数百年を生きている強大な魔人のはずだが、寿命を迎えるにはまだまだのはずである。
魔人は歳を取らないわけではない。
寿命が長い分、見た目の老化が限りなく遅いだけで寿命が近づくにつれて老人になっていくし、その時を迎えれば死ぬ。
つまり20代後半にしか見えない魔王の寿命はまだまだのはずでその魔王の母親も寿命を迎えるにはまだ早いはずだった。
だが、次の魔王の一言でルナティアの違和感が正しかった事が証明される事になる。
「母様は亡くなったのはずいぶん昔の話だ。俺がまだ60歳を迎える前の事だな」
それを聞けばまるで人間の話かのように思えた。
人間も普通に生きれば子供がそれくらいの歳になる前に天寿を全うすることになる。
魔人はほとんど病気になることはない。
恐らく事故か戦いに巻き込まれた不運の死だったのだろう。
そう思いルナティアは恐る恐る魔王に聞いた。
「……お母さんは事故か何かで?」
肯定かそれに近い答えが返ってくると思っていたルナティアに魔王は衝撃的な事実を告げる。
「いや、そうではない。母様は人間だった」
「……えっ?」




