18話 呪い
「[透視]」
もう一度コートに向かって、魂を視ることを意識しながら透視スキルを使う。
「うっわ。なんだこれ」
すると透視スキルによってコートに宿っている邪神の魂の欠片を視ることができた。できたのだが……それが予想していた形と全く違う形になっている。
これまで見てきた魂は全て球体だった。そのため魂の欠片はどこかしら球体の要素を含んでいると思っていたのだ。しかし邪神の魂の欠片はそんな要素などくそ食らえとでも言うように、違った形をしていた。宿っているコート全体に植物の根のように黒く輝く魂の欠片が張り巡らされているのだ。
「とりあえず……どうしたらいいんだ?」
この欠片と言う言葉からかけ離れた形をしている邪神の魂の欠片。これが呪いの核であるから壊さなければならないわけなのだが、どうやって壊すかが問題である。とは言っても壊す方法は見当がついているのだ。しかしその方法を実行するには、今のままでは少しばかり厄介だ。せめてこの根が一纏まりになってくれたら……あ、そうか。
「一纏まりにしたいんだから、そうすればいいのか」
僕はコートの右袖の端に手を伸ばし、そこから魔力をコートに流す。その際僕の魔力をただコートに流すのではなく、ピンセットのような形で流す。
そしてピンセットのような形にした魔力で袖の端にはりついている邪神の魂の欠片をつまみ上げ、ベリベリとコートから剥がす。意外と簡単に剥がれたな。そして剥がした部分をコートの胸の中央に持って行き、ひとまずそこに置く。
そして次は左袖の部分に根を張っている魂の欠片を取り除く。
「む?」
しかし今度はまるで邪神の魂の欠片がそこから離れまいと抵抗するように剥がれにくくなっっていた。とは言えその抵抗は弱々しいものであるためさほど苦労することない。左腕部分に張り付いていた魂の欠片は剥がすことができた。この剥がした部分も同様にコートの胸の中央辺りに置いておく。
次に首もと、そして胴体部分に張り付いている邪神の魂の欠片もこれと同じように剥がしていく。そして剥がした魂の欠片をこれまた同様に胸の中央に置く。
「ふぅ。なんとかできたな」
首もとと胴体部分に張り付いていた魂の欠片も少し剥がしにくかったが、それでもなんとか剥がすことができた。
「これで後はこの一纏めにした魂の欠片を壊すだけなんだけど……いっそのことこの魂の欠片も剥がせないか?」
いくら邪神の魂の欠片が呪いの根幹を担っているとはいえ、コートから離れてしまえばそれも意味をなさなくなるだろう。
なんていったって邪神の呪いの内容はコートの使用者、つまり着用者の生命力を奪うというものなのだから。
というわけで早速やってみる。
「よっこらせっとー……お?」
しかしこれまでと同様にコートから魂の欠片を剥がそうとしても、その魂の欠片がなかなか放れてくれない。
「ふぬぬぬぬぬぬ! ……っはぁ。だめか」
気合いを入れて、そして魔力を多めに流して邪神の魂の欠片をコートから剥がそうと試みる。しかしまるで接着剤のアロンベータで張り付いているのではないかと思うほど、それは強固にコートに張り付いている。
「やっぱり魂の欠片自体を壊すしかないかぁ」
そこで邪神の魂の欠片をコートから剥がすのは諦め、当初から想定していた通り、魂の欠片を壊すことに専念する。
壊す方法は単純。[彫魂]で邪神の魂の欠片に傷をつけまくるのである。
傷をつけまくることは即ち寿命を減らすこと。つまり僕がこれから行うのはこの邪神の魂の欠片に傷をつけまくるこによって、これの寿命を全てを削り切ろうというものである。
「まずは魔力を彫刻刀の形にしてっと」
コートに流し込んでいる全ての魔力を使い、彫刻刀を形成する。そして一カ所に集めた邪神の魂の欠片に向かって、その彫刻刀を半ば突き刺すように勢いよく彫る。[彫魂]だ。
「うお!?」
するとそれまで特に動くことのなかった邪神の魂の欠片が、まるでタコが毒を盛られたようにクネクネと蠢きだした。
「気持ち悪っ!」
その異様な蠢き方に思わず後ろに下がって引いてしまう。それほどこの蠢き方に嫌悪感を覚えた。
「……あれ? 止まった?」
するとある時を境にしてその奇怪な動きは止まった。まるで何事も無かったように再び動きを止めたのだ。
「……もう一回やってみるか」
それからしばらくの間、邪神の魂の欠片から距離をとってその様子を観察していた僕は、それが動きを完全に止めたことを確認する。
そしてもう一度その魂の欠片に[彫魂]を施す。
「うわ! やっぱり気持ち悪い!」
するとまたしても邪神の魂の欠片は毒を盛られたタコのように、不気味に蠢きだした。
そしてしばらくの間その気味悪い動きを観察していると、再びそれは不気味な挙動を止める。
そうして僕は動きを止めた邪神の魂の欠片に[彫魂]を施し、不気味な蠢きが止まるまで待つ。そして止まれば再び[彫魂]を施す、といったサイクルを延々と続けた。
そして体感で三時間程過ぎた時。
僕の[彫魂]によって、傷をつけられていない場所が無い程ボロボロになった邪神の魂の欠片は、とうとうその植物の根のような形を崩壊させ始めた。
「やっと、終わったぁー……。疲れたぁー……」
それが崩壊していく様子を観察しながら、僕はそばのベッドに腰掛ける。
[彫魂]は体力も魔力あまり使わないので、邪神の魂の欠片に傷をつける作業はそれ程苦もなくこなすことができた。しかし単調な作業を繰り返ししていると多大な精神力を使う。そのためこの作業を終えた僕の体には消費した精神力による疲労が貯まっていた。
しかしその疲労のかいがあったというもの。邪神の魂の欠片は僕が睨んだとおり傷をつけまくるこによって、こうして崩壊している。
そしてその崩壊も魂の欠片全体に及び、コートに宿っていた邪神の魂の欠片自体がこの世から無くなっていく……あ、無くなった。
それと同時に何の前触れもなく無機質な声のアナウンスが僕の頭の中に流れた。
《邪眼スキルを獲得しました》
「はぁ!?」
なにそれ!? 邪眼スキル!? 超かっこいい響きなんですけど!?
「す、ステータス!」
思いも寄らぬスキルの獲得に興奮して、どもりながらもステータスウィンドウを目の前に表示させる。
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ヒムロ レイ Lv.100
ジョブ [霊魂術士]
ジョブ履歴 無し
スキル
アクティブスキル
[剣術] Lv.10
[格闘術] Lv.10
[霊魂術] Lv.10
[解体] Lv.10
パッシブスキル
[魂撃耐性] Lv.10
[増進] Lv.10
[反射神経強化]Lv.10
[腕力強化] Lv.10
[脚力強化] Lv.10
エクストラスキル
[透視] Lv.10
[邪眼] Lv.1
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するとそこには確かに[邪眼]と書かれた文字があった。