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15話 マジックアーマー

 防具屋のドアを開けるとカランカランというベルの音が鳴る。




「らっしゃい」




 するとそのベルの音を合図に店の奥から野太い声が。この店の店員の声だろう。

 それきり声の主は特に何かしゃべりかけて来るわけでもなく、そして姿を現すでもなく店の中に静寂が満ちた。




「さ、この中から選ぶわよ」




 その静寂を易々と破って、クレアさんは店内を歩き回り始める。防具の事は一切分からないので、僕もクレアさんの後ろをついていく。




「レイは速さを重視したいのよね? それならやっぱり革の防具かしら」




 本当ならば反射神経強化スキルがあるので防具を着けずに避けることに専念したいのだ。だけどそれを言うとクレアさんに怒られるので、僕は軽さを重視したいとあらかじめ伝えておいた。

 するとクレアさんは革の防具がズラッと並んでいる棚に向かい、一つ一つ手に持って何かを確かめ始める。僕には何を確かめているのかさっぱりだ。けどクレアさんが真剣な顔をして手にとっているので、きっと大事な事に違いない。なので僕は大人しく周りをキョロキョロと眺めておく。




「ねぇ、レイ。これなんかどうかしら? ラッシュボアの革鎧よ」




 するとクレアさんは一つの革鎧を手にとって持ってきた。ラッシュボアがどんな魔物なのかは知らないが、クレアさんが持ってきた革鎧なので性能は良いのだろう。

 試しにクレアさんに手伝ってもらいながら着けてみる。

   



「どう?」




「うーん……少し動きにくい気がする」




 防具の中では軽くて動きやすい方なのだろう。この防具屋に売っている他の金属鎧とかを見ればそれぐらいのことは分かる。だけどこれなら何も着けてない方がいいような……。




「これでもこの中で一番軽いくて動きやすい筈なんだけど……。これでダメなら、後はマジックアーマーぐらいよ? すっごく高くなるけど」




 クレアさんに手伝ってもらい、四苦八苦しながら装着したばかりの革鎧を脱ぐと、クレアさんはそんなことを口にした。




「マジックアーマー? ってなに?」




 僕が脱いだばかりの革鎧を元の棚に戻しながらそう質問すると、クレアさんは呆れたような目線を向けてきた。




「あんた、マジックアーマーも知らないの? ホントに防具のことは何も知らないのね。マジックアーマーっていうのは普通の防具と違って魔法が付与されている防具の事よ。ほら、あっちに吊されているやつ」




 クレアさんがそう言って指を指す方を見ると、そこには天井からハンガーのような物が吊されている。そしてそれには数着の金属鎧や服が掛けられている。




「……え? あれって普通の服じゃないの?」




 金属鎧の方は一目見てすぐに防具だと分かるが、服の方はどこからどう見ても防具ではなく普通の服にしか見えない。




「違うわ。あれはれっきとしたマジックアーマー、防具よ」




 するとクレアさんがその内の一つ、赤い服を手に取り、隅から隅まで調べ始めた。そしてしばらくしてから一言。




「……これは火炎耐性の魔法が付与されたマジックアーマーね」




「……よくそんなの分かるね」




「伊達に冒険者ギルドの受付嬢をしてないもの」




 少し胸を張って得意気にそう述べるクレアさん。さすが受付嬢をしていただけはあるな。

 それから彼女は並んでいる数着のマジックアーマーを手に取り、オススメの物を次々と選んでくれる。




「これらが軽くて俊敏性の高いやつよ。……どう?」




「どう? って言われても……。正直、派手だなぁって……」




 クレアさんが選んでくれたオススメのマジックアーマーは全て赤や黄色などの派手な色の物ばかりだった。選んでくれたのにケチをつけるわけじゃないけど……これはちょっと着るのに抵抗が……。

 それは選んだ本人であるクレアさんも同じように感じたのだろう。心なしか申し訳なさそうに口を開いた。




「……だよね。選んだあたしでもそう思うもん。でも残っているやつで性能がいいやつは、あれぐらいしか無いのよね……」




 そう言ってクレアさんが指を指したのは真っ黒なコート。

 選んでくれた手前、声を大にして言える訳ではないが正直そのコートの方が良い。少なくともこの派手な服より真っ黒なコートの方が数段カッコ良く感じる。




「……クレアさん的にはどうなの? あのコート」




「デザイン性で言えば一番レイに似合っていると思うわよ? ただ……性能がちょっと、ね?」




 ん? 性能? 残っているマジックアーマーで性能が良いのはこの真っ黒なコートだって言ってなかったっけ?




「その性能ってどんなの?」




「……物理攻撃完全耐性と魔術攻撃完全耐性」




「え!? なにそれ!? めちゃくちゃ強いじゃん!」




 物理攻撃完全耐性と魔法攻撃完全耐性。この世界の防具としては破格の、それこそ理想の防具ではなかろうか。しかしクレアさんは難しい顔をしながら、でも……、と続ける。




「この防具には呪いがかかっているのよね。どんな呪いだとか詳しいことまでは分からないけど」




「呪い……」




 呪い、か。

 前世の世界ならば呪いなんて無いと笑い飛ばしていたかもしれないが、神様がおり、魔法なんて物があるこの世界だ。呪いがあってもおかしくない。




「[透視]」




 この真っ黒なコートにどんな呪いがかかっているのか、そしてその呪いの解き方は無いのかを知りたいと意識して、僕は透視スキルをこっそりと使う。すると目の前にウィンドウが現れた。そこに書かれている内容を読む。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

邪神の呪い


 使用者の生命力を徐々に吸収し、死に至らしめる呪い。邪神の魂の欠片が呪いの核となっており、解呪士では解呪できない。この呪いを消すには呪いの核である邪神の魂の欠片そのものを壊さなければならない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「……!?」




 ここで驚いて大声を出さなかった僕は自分のことを褒めても良いと思う。

 まさか邪神なんて物騒な物の呪いとは思わなかった。恐らく神様も魔法も呪いもあるこの世界だ。邪神もいるのだろう。

 それにしても……邪神の魂の欠片を壊さなければ呪いは解けないのか。これなら解呪士なるものではない僕にもできる気がする。まぁ成功するかは分からないけど。でもやってみる価値はあるだろう。何せ成功すれば物理攻撃完全耐性と魔法攻撃完全耐性の超高性能防具が手に入るのだから。




「クレアさん、せっかく選んでくれたけどごめんね。僕、このコートを買うことにするよ」




「え!? あ、あたしは止めといた方が良いと思うよ!? どんな呪いか分からないんだし!」




 んー。王水に手を突っ込む人を止めるようなクレアさんのその気持ちは分かるけど、僕の心は既にこのコートに決まっているんだよなぁ。

 てなわけで購入。

 値段なんと一万キラ、日本円で十万円。

 ……ちょっとどころじゃないくらい財布にダメージが入ったが、まぁそれもしょうがない。失った金はまた稼ぐとしよう。

 ちなみにこのコートの名前は不死者のコート。なんか凄い格好良い名前なので僕の中の評価も三段階くらいグググッと上がった。

 絶対に呪いを解かねば!

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