13話 絶魂
明けましておめでとうございます。
魔術師に吐かせたアジトの場所まで一人できた。今僕の視界に映るのは複数人の盗賊のみ。数は……十一か。
一通り数を確認した後、今度はステータスウィンドウを視る。このアジトの戦力を知るためだ。
「魔術師の言った通りだな」
一番強いのがボスと呼ばれている男で格闘術スキルのスキルレベルが八。その次に強いのが剣術スキルでスキルレベルが六。他は先程襲ってきた盗賊達と同じくらいだ。この二人は飛び抜けて強い。特に格闘術スキルを持っている奴は今のままだと手こずるだろう。もしかしたら反射神経強化スキルだけでは攻撃を凌ぐことはできないかもしれない。
《格闘術スキルを獲得しました》
というわけで早速格闘術スキルを取ってスキルレベルを十に上げた。これで万が一のことが起きる可能性はグンと減る。ちなみにこれで残りの寿命が十一年と半年まで減った。またレベルを上げないといけない。
次に再び透視スキルを使い、捕らわれている人がいないかを確認する。うん、いないな。
それじゃあとっとと始めて終わらせますかね。
僕は隠れていた木の陰から出て盗賊達がいる洞窟の中へと足を踏み入れる。
まだ昼だからか洞窟の見張りは誰もいなかったので、すんなりと入ることができた。
ただ、すんなりと行けたのはそこまで。
「な!? 誰だてめぇ!」
入ってすぐに盗賊の一人に見つかってしまった。
まぁあらかじめ透視スキルでこいつがここにいることは確認していた。そのためさほど同様する事なく対処する。
「[絶魂]」
「がは!」
ドガッ! と盗賊の腹に拳をめり込ませる。それと同時に霊魂術スキルを発動させ、[治魂]でこいつの持っているスキルを全て消す。
霊魂術スキルのスキルレベルが十だからこそ可能な早技。それが[絶魂]。
ドサリと音をたてて崩れ落ちる盗賊。
格闘術スキルのおかげでどれくらいの力加減でどこを殴れば的確な一撃を与えられるかがよく分かる。
「おい! なんだ今の音は!?」
「何があった!?」
すると曲がりくねった洞窟の奥から二人の盗賊がこっちにやってきた。元より全員倒すつもりだったので丁度良い。
「おまえは誰だ!?」
「侵入者ですよっと! [絶魂]!」
「ぐはぁ!」
「もいっちょ、[絶魂]!」
「がふ!」
速やかに二人の鳩尾と顔面に蹴りと拳を食らわせて気絶させると同時に、持っているスキルを消去する。
[絶魂]は何も殴るだけじゃない。蹴りでも発動させることができる。
「どうした!?」
すると騒ぎの音を聞きつけてきたのか、複数人の足音がドタドタと洞窟内を反響して聞こえてきた。これまた丁度良いので出会い頭にやってきた盗賊を全て伸す。
そうしてやってきた盗賊達を全員伸した後、さらに洞窟の奥へと進む。
「……きやがったか」
悠々と洞窟の奥へ奥へと進んでいくと、ようやく突き当たりに到着した。そしてそこにはこの盗賊達の親玉である男と一人の部下が。格闘術スキルのスキルレベルが八の親玉と剣術スキルのスキルレベルが六の奴だ。盗賊団トップツーがお揃いとは。
「まさかお前一人ってなわけじゃねぇよな? 他の仲間はどうした?」
「そのまさか。見ての通り僕は一人だよ」
僕がそう言うと盗賊達は酷く驚いた顔をした。まさか本当に一人でやってきたと思っていた訳ではないだろう。
そして盗賊は顔を引き締めこちらを鋭く睨んできた。
「オレが戦う。お前はそのサポートだ」
「……わかりやした」
すると親玉が前に出、剣を持った奴が僅かに後ろに下がった。
そして二人は各々拳と剣を構え、戦闘態勢に入る。
「うらああああ! [スマッシュ]!」
飛んでくる右拳。
それを顔を傾け避ける。
チッと僕の髪の毛に掠る拳。
さすが格闘術スキルのスキルレベルが八なだけはある。
余裕を持って躱したつもりだったのだが、掠ってしまった。
だがそれはそれ、これはこれ。
今度はこちらの拳を堅く握り、それをがら空きになった親玉の腹に食らわせる。
「くっ!」
「へぇ!」
しかし親玉はその拳を体を無理矢理捻ることで避けた。
思わず感心していると、今度は親玉が捻った体の陰から剣がまっすぐと突き出される。
「よっと!」
「……ちっ」
それを一歩横に動いて躱す。
次に今度は前に一歩深く踏み込む。
それによって剣を突きだしてきた奴の懐に入り込み、顔面に向かって思いっきり拳を振りかぶる。
「くそったれ!」
「ボス!?」
すると親玉が剣を持っている奴を横から突き飛ばすようにタックルをし、両腕を交差させて僕の拳を受け止める。
「甘い」
「ぐああああああ!」
だが、甘い。
僕が格闘術スキルだけを持っていたなら、今の攻撃を受け止めることができただろう。
しかし僕はそれと同時に腕力強化スキルも持っている。
そのため交差させた親玉の両腕に受け止められた僕の拳は、勢いを失うどころかさらに増し、ボキボキと嫌な音を立てて吹き飛ばす。
「ボス! くそ! [スラッシュ]!」
すると今度は親玉に突き飛ばされた奴が剣を袈裟懸けに振り下ろしてきた。
遅いな。
僕はそれを余裕を持って躱す。
そして腕を突き出しそいつの首を掴む。
「うっ!?」
「はい、終わり。[絶魂]」
その首を掴んで[絶魂]を使った僕は、そいつを大きな円を描くように縦に回し、背中から地面に落ちるよう叩きつけた。
「がはっ!」
強く叩きつけられた衝撃で肺の中にあった空気が勢い良く外に出されたのだろう。こいつは意識を失った。
残るは両腕の骨が折れた格闘術スキル持ちの親玉だけだ。
「……くそ。てめぇは一体何者なんだ……?」
「ただの冒険者だよ」
「ただの冒険者がここまで強いわけが、ぐ、が……ぁ……」
何かを言おうとしたみたいだが、わざわざ聞いてやる必要は無い。こっちはローズさんとクレアさんを待たせているのだ。
親玉の首を右手で掴み、握力だけで締める。そして親玉が泡を吹いて気絶したのを確認した後、[絶魂]で持っているスキルを全て消す。
さて、後はここにいるこいつらを特大袋に入れて馬車まで持って行くか。あ、あとこいつらが溜め込んでいるお宝も持って行かないと。
盗賊とそいつらの宝を特大袋に入れて馬車まで運んだ後、僕らは縛った盗賊達を馬車につないで歩かせながらルナイの街に戻る。
「おい! 早く魔術を使え!」
「[アースニードル]! [アースニードル]! ダメです、ボス! 魔術が発動しません!」
「くそ! なぜだ!?」
帰り道の途中、盗賊達がスキルを使って必死に逃げようとしていたが既に全員のスキルは消してある。無駄な足掻きだ。
「レイ。あなた何したのよ? 盗賊達がスキルを使えないとか言ってるんだけど」
「あぁ、うん。スキルを使ってちょっと、ね」
クレアさんが盗賊達の状態に対してそんなことを聞いてきたがはぐらかす。スキルって言い張っておけばそれ以上探りを入れてこないのは助かるね。
そしてルナイの街に着いた僕らは騎士団に盗賊達を渡した。これからこの盗賊達は奴隷として鉱山などで働かされる事になるらしい。その際、褒美として盗賊一人当たり五百キラを騎士団から貰えた。
それが終わってから僕らは一度ギルドに帰った。そしてそこでランクアップ試験に合格したことを言い渡され、そのままランク3冒険者になったことを認められた。