11話 返り討ち
「ハッハァ! 今すぐ荷物と女をこっち渡せぇ! そしたら命だけは助けてやらぁ!」
外からそんな声が聞こえてくる。
馬車の中から透視スキルを使って数えた盗賊の数は、全部で九。
普通の盗賊がどれだけの数で人を襲うのかは知らないが、九人もいればまずまずではなかろうか。
「盗賊は全部で九人。内一人はぐったりして座り込んでいるみたいだから実質八人。どうする?」
状況が状況なので簡潔に、必要な情報だけを伝える。
するとそれを聞いたローズさんは腕を組み何かを考え始めた。
「そのぐったりしてるのは恐らく魔力切れだろう。これだけデカい石壁を作ったんだ、無理もない」
独り言のようにぶつぶつと声を出してそう分析するローズさん。
こんな状況で何故そんな悠長なことができるのかと問いたくなるが、今はそれどころではない。
盗賊に襲われた経験が無い僕からしたら、この状況にどう対処すれば良いのか全く分からないのだ。
そのためどうすれば良いのか判断を仰ぐために人数を報告したのだが……あ。
いや、待てよ。
単純に考えて全員倒したら良いんじゃない?
そしたら盗られる物なんて無いよね?
そんな脳筋的アイデアが頭に浮かび上がったと同時にクレアさんが口を開いた。
「レイ、あんたは一度に何人の相手ができる?」
「……いや、対人戦はやったことがないから分からない。けど……」
「けど?」
僕はもう一度透視スキルを使って奴らのステータスウィンドウを一通り見る。
「これくらいなら、僕一人で十分だよ」
「……え?」
僕は馬車の後ろから飛び降り、盗賊達の前に姿を現す。
「クレアさん達はそこから出ないでね。すぐに終わらせるから」
クレアさん達がどのくらい戦えるのかは分からない。
ランクアップ試験の試験監督として街の外に出てくるぐらいだからある程度戦えるんだろう。
だけどこの程度の相手なら僕一人で十分だ。
剣術スキル持ちが五人、槍術スキル持ちが三人、そしてスキルレベルは二から三が殆ど。
せいぜい一番高いスキルレベルで槍術スキルのスキルレベルが五だ。
その次が剣術スキルのスキルレベルが四のやつか。
「あぁ? おいてめぇ、どういうつもりだぁ? さっさと女と荷物出せって言ってんだよ。殺されてぇのか!」
槍術スキルのスキルレベルが五の奴がそう吠える。
こいつが一番強いからリーダーかな?
「黙ってねぇで何か言ったらどうだ!? それともびびっちまって声も出ねぇってか!? ギャハハハ」
すると二番目に強いやつがそう言って醜い笑い声を上げる。
それに続いて他の盗賊達も同じように笑い出した。
陣形は、馬車の前にいるぐったりした一人を覗いて左右に三人、後ろに二人。
そのうち一番目と二番目に強いやつは馬車の後ろにいる。
「チッ。無視すんじゃねぇよ!」
すると二番目に強いやつが剣を持って切りかかってきた。
その剣を半身を下げることによって避け、カウンターで盗賊の腹に拳を一発食らわせる。
「ぐほぉ!?」
僕の拳を食らったその盗賊はそんな声を上げて体をくの字に曲げる。
そして剣を両手から離し、両手で腹を抑えた後……地面に崩れ落ちた。
反射神経強化スキルがあるおかげでその剣は非常に遅く見え、腕力強化スキルがあるおかげで素人の拳でも大ダメージを入れられる。
やっぱりスキルの力は偉大だ。
そんなことを考えているといつの間にか盗賊達の醜い笑い声が消えていた。
「な……副リーダーが一撃で……」
「嘘だろ……ありえねぇ……」
「あ、あの人がこうも簡単に殺られるなんて……」
いやいや、殺してないよ?
気を失わせただけだよ?
そんなことするわけないじゃん。
するとリーダーと思われる一番強い男が大声を出して部下達に命令を下した。
「おい! てめぇら、怖じ気付くんじゃねぇ! 一人で行くから殺られるんだ! 全員でかかれぇ!」
だから殺ってないって。
まぁ、良いけど。
すると周りから一斉に盗賊達がかかってきた。
首を狙った斬撃。
腹を狙った突き。
姑息にも足を狙ってくる槍。
それらを全て躱し、払い、いなす。
「がはぁ!」
「ぐぁ!」
「ごほぉ!」
そして隙だらけの奴から順に拳や肘、膝や脚を食らわせる。
「ふん!」
「ぎゃあああ!」
そして突き出された槍を躱し、その柄を持って盗賊ごと振り回す。腕力強化スキルのスキルレベルが十だからこそ成せる技だ。
「こ、こいつ、やべぇ!」
「逃げろおおお!」
「逃がすと思う?」
「ぐあああああ!」
そして最後には背を向けて走り出した盗賊達の意識を一人ずつ順に狩っていく。
そうして戦闘が始まってから一分も経たずに盗賊達は皆地に伏し、意識を失った。
完勝である。
「すごいわね……まさか一人で全員倒すなんて……」
すると馬車の中からそんな声が聞こえてきた。クレアさんだ。彼女は馬車から降りてそんな感想を呟くと共に、つま先で倒れている盗賊をちょいちょいと蹴っている。
「……死んでる」
あんたもかい。
「いや、生きてるよ。意識を奪っただけだからね」
ここにいる僕が戦った八人の盗賊達は皆、地に伏している。だけど死んだわけではない。
まぁ腕力強化スキルのスキルレベルが十だから本気を出せば余裕で殺せただろう。こう、パンチの威力だけで体を貫通させたりして。
でもそれはしない。
その理由はもちろん殺人ができるだけの覚悟が決まっていないというのもある。だけれど一番は殺人を犯したくないという純粋な思いからだ。
ただし大事な人が危険にさらされていたり、僕自身の命が危うい場面ではその限りではないけどね。
「たしか馬車に縄があったよね? それで盗賊達を縛ろう」
いつまでもここで話していてはせっかく気を失わせた盗賊達が起きてしまうかもしれない。なので馬車の中に積まれていた縄で盗賊達を捕縛するよう提案する。
するとその案に乗ってきたのはクレアさんではなく、今まで一人でぶつぶつと思考に耽っていたローズさんだった。
「ならばそれは私がやろう。クレアは盗賊の仲間や魔物が来ないかの監視を頼む。レイは石壁を作り出した魔術師をこっちまで引きずってきてくれ」
「りょうかい」
「分かりました」
キビキビと指示を与えるローズさんの勢いについ乗せられて、素直に従ってしまった。まぁ的外れな意見ではないので、僕とクレアさんはそれぞれローズさんに言われた通りの役割をこなす。えーっと魔術師はたしかこの辺にいたはず……あ、いた。
「ひ、ひぃぃぃ!」
僕の姿を確認した魔術師は己の仲間が全滅したと分かったのか、すぐさま逃げようとした。けれど魔力切れで体が上手く動かないのか、四つん這いになって逃げようとしている。
それでは僕相手じゃなくてもすぐに追いつかれるのは分かっているだろうに。
その首もとをムンズと掴み、僕はローズさんの言われた通りに彼女の下まで魔術師を引きずっていく。
そして魔術師含め、襲いかかってきた盗賊全員を縄で縛り終えた。これからこの盗賊達のアジトの場所を聞き出すために尋問を始める。尋問対象は魔術師。他の盗賊達は未だに伸びているからね。