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1話 透視スキル

 生きている間ずっと、邪魔者扱いされてきた。



 お前はいらない。

 消えてくれ。

 近づくな。



 何もしていないのにこの有り様だ。

 親からは疎まれ、クラスメイトからは侮辱され、教師からは蔑まれる。

 毎日毎日その繰り返しだった。

 だけどその日々はある時を境にして終わりを遂げた。



 学校の屋上からジャンプしたんだ。



 何も怖く無かった。

 一瞬だった。

 それまで生きていた日々が一瞬で終わった。



 そこからは僕も何があったのかよく分からない。

 ただ言えるのは女神様のはからいで僕が生き返ったことだけ。



 このスキルとレベルがある世界、インフィニットで。




 それと同時に僕は決意した。

 この世界では前世と違い、強く生きよう、と。



 そして僕がこの世界で生き返ってから、早くも数時間が過ぎた。




「お金が……ない」




 ようやく借りることができた安宿の一室で一人そう呟く。

 今手元にある物は女神様から貰ったこの世界標準の服と片手剣だけ。

 元々は、女神様からしばらくの間安定して生活できるお金もしっかりと貰っていたのだ。

 だけどどういうわけか、このルナイの街に来てからそのお金が消えたのである。

 ……十中八九財布をすられたか、落としたんだろうけど。



 いきなりそんな不幸に見まわれた僕は、どうすれば良いのかすぐに門兵に相談した。

 するとその門兵は、冒険者ギルドが魔物の素材を買い取ってくれるので、外壁近くにいる最弱の魔物、スライムを倒してその魔石を売ったら良いと教えてくれた。

 それを聞いて急いで街の外に出てスライムを十数匹倒し、冒険者ギルドでその魔石を全て売り払った。

 ちなみに冒険者ギルドが魔物の素材を買い取ってくれるのは冒険者ギルドに登録された冒険者だけらしく、僕は半ば強制的に冒険者になった。



 そうして僕はなんとか安宿で一泊できるだけのお金を得、今いるこの部屋を確保することができたわけだ。



 しかし問題はそれで解決したわけじゃない。



 明日までにまたお金を稼がなければ路頭に迷うはめになるのだ。

 それは嫌なのでお金を稼がないといけない。




「仕方ない。またスライムを狩りに行ってくるか……」




 僕はため息を吐いてから腰を上げ、再び街の外へ向かう。






「よっと」




 太陽が天高く輝いている。

 その下で僕は剣をブオン! と勢い良く振り下ろす。




「ピギィ!?」




 すると僕の剣は、丸くて青い半透明の魔物、スライムを真っ二つに両断した。

 それから僕は両断したスライムの死骸に手を突っ込み、その中にある魔石を取り出す。

 スライムの体内は何とも言えない気持ち悪い感触がする。

 しかし流石に十匹以上スライムを狩るとこの感覚にも慣れた。

 今では何も考えずに手を突っ込む事ができる無の境地に達している。




「おい! 見ろよ! あいつスライムなんて狩ってやがるぜ!」




「うっは! まじかよ! バカみてぇ!」




 取り出したスライムの魔石を冒険者ギルドで貰った小袋に入れていると、遠くの方からそんな声が聞こえてきた。

 そちらの方を振り向くと二人の冒険者が僕の事を指差してバカにしている。

 それを見て何も思わない訳ではないが、今の僕にはスライムを倒すことしかできない。

 スライムの次に弱いと言われているゴブリンでさえも、戦闘系のスキルを持っていない僕からすれば脅威に値するのだ。

 オークなんて言わずもがな。

 だから僕はそうやってバカにしてくる冒険者達を無視し、再びスライムを探しだす。



 そうしてさらに二時間程経った。

 太陽は既に傾き始めており、空はオレンジと水色の綺麗なグラデーション模様になっている。




「今日はこのへんで止めにするか。これだけあれば充分だろ」




 夜になると街を囲っている外壁の門が閉まり、街に入ることができなくなってしまう。

 そのため僕は今日の狩りは切り上げて冒険者ギルドに向かうことにした。

 スライムの魔石を売ってお金を得るためだ。






「おいおいおい! お前はさっきスライムを狩ってたガキじゃねぇか!」




「よう! あれからスライムだけで何キラ稼げたんだよ? えぇ? たったの十三キラかよぉ! ギャハハハハ!」




 冒険者ギルドの受付でスライムの魔石を全て買い取って貰い、ギルドを後にしようとした時。

 後ろからそう声をかけられ、次の瞬間には腕を肩にまわされた。

 顔を見れば昼間僕のことをバカにしてきた冒険者だ。

 この態度に若干イラッとしたものの、ここで怒ると逆に腕っ節で負けて伸されるだけだ。

 なので精神力を総動員して怒りを抑える。

 すると後ろから別の男の声が聞こえてきた。




「おいガース、止めてやれよ。そいつ、お前にびびってチビってるじゃねぇか」




 チビってないわ。

 どうやったらそんな結論になるんだよ。

 頭おかしーーおっと、平常心、平常心。

 ここで怒っても何も良いことがない。

 そうやって僕が怒りを抑えているとギルドの至る所からヒソヒソとした、されど確実に僕の耳に入る声の大きさでこんな言葉が聞こえてきた。




「あいつスライムなんて倒してんのか?」




「あんなの一キラにしかなんねぇのに、そんなもん狩ってんのかよ」




「ありゃあ、臆病者かバカのどっちかだな」




「ただのバカだろ」




「せめてゴブリン狩れよな」




「冒険者辞めればいいのに」




 ほうほうほう……。

 そうかそうか……。

 なるほどねぇ……。






「絶対に見返してやる!」




 右拳と左手のひらを目の前でパン! と叩きつける。

 そして僕は帰ってきた部屋で一人そう決意する。

 まさか転生初日で前世と同じような扱いを受けるなんて思わなかった。

 どこに行っても僕は邪魔者なんだ……という暗い考えは無視する。

 僕は強く生きると決めたんだ。

 なんとかして奴らを見返さないと。

 でなければまたあのような日々を送ることになる。

 それはごめんだ。

 僕はベッドの端に座ってこれからどうやって奴らに見返してやるかを考える。




「やっぱり同じ冒険者として奴らの度肝を抜かすのが、見返すには一番良いよな」




 同じ冒険者として。

 それはつまりスライムをチマチマ狩るような事ではなくてもっと強い魔物、それこそゴブリンやオークといった魔物を狩って、圧倒的な実力を見せつけてやればいい。

 となれば、それができるようになるためにはレベルを上げて強くならなければいけない。

 そしてレベルを上げるにはより強い魔物を狩るのが一番だ。

 だけど僕は戦闘系のスキルを持っていないから強い魔物と戦うのは……まてよ?

 僕が唯一女神様から貰えたスキル、透視スキルを使えば何とかなるんじゃないか?



 透視スキルは見えない物を見ることができるスキルだ。

 だから物陰に隠れて自分の姿を完全に隠し、透視スキルを発動させれば、一方的に相手の場所や様子を把握できる構図を作り出すことができる。

 そして相手が隙を見せたと同時に剣でグサッとやってしまえば、どれだけ強大な魔物相手でも勝てる気がする。

 ……まぁ透視スキルをまだ一度も使ったことがないからできるか分からないんだけど。



 せっかくだから試しに一回使ってみるか。

 たしか隣の部屋は若い男が使っていたな。

 僕はそちらを向いて透視スキルを使う。




「[透視]」




 すると僕の視界は薄い紫色のもやに包まれた。

 そして奥に視線を向けると隣の部屋を使っている若い男とその男の体内にある白く輝く球体のような物が。

 透視スキルを使っただけなのに、何故こんなにも見える景色が変わるんだ?

 そう訝しんでいると突然視界に半透明の板、ウィンドウと呼ばれる物が出現した。




「これって……ステータス?」




 そのウィンドウには男の物と思われるステータスが書かれている。

 何故急にこんなものが見えるようになったのか考えていると、別の内容が書かれたウィンドウが一度に多数出現した。

 そこには剣術スキルの詳細な説明であったり、男の寿命であったり、男が着ている服の値段であったり、と。

 およそ共通点が無い内容が書かれたウィンドウが、視界いっぱいに広がった。

 そして次の瞬間。

 そのウィンドウを遮るようにさらに多数のウィンドウが出現し、さらにさらにそれを遮るようにウィンドウが出現し、そしてさらにウィンドウが……。



 すると僕の目の奥から脳にかけて激痛が走った。




「いたっ!?」




 激痛が走った瞬間、思わず両手で両目を抑え、透視スキルを中断させる。

 なんで急に激痛が走ったんだ……?

 僕はズキズキと痛む両目を手で抑えながら、痛みが走った原因を考える……が、どう考えても透視スキル以外に思い当たる節は無い。



 しばらくして痛みが収まった頃。




「ステータス」




 僕は両手を目から離して自分のステータスウィンドウを表示させる。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ヒムロ レイ Lv.3


ジョブ 無し


ジョブ履歴 無し


スキル

 アクティブスキル

  無し


 パッシブスキル

  無し


 エクストラスキル

  [透視] Lv.10

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……透視スキルってエクストラスキルだったんだ。しかもスキルレベルが上限値の十になってるし」




 エクストラスキルとは普通のスキルよりも遥かに強力な効果を発揮するスキルだ。

 まさか透視スキルがエクストラスキルだったとは思いもしなかった……。

 あ、もしかして透視スキルはエクストラスキルだから痛みが走った、とか?

 いや、まだそれは決まった訳じゃない。

 僕はウィンドウ上の[透視]と書かれた文字に触れる。

 こうすることによって透視スキルの説明を読むことができるのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

透視スキル


 見えないものを見ることができるスキル

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……ん?」




 見えないものを見ることができるスキル?

 説明ってこれだけ?

 たしかさっき透視スキルを使った時に出てきた剣術スキルの説明には、もっと具体的な事が書かれていたよな?

 なのに透視スキルの説明がこれだけっていうのは流石におかしくないか?

 あ、もしかして透視スキルを使えばもっと詳細な説明を読むことができる、とか?

 とりあえずやってみよう。




「[透視]」




 透視スキルの説明が書かれたウィンドウを凝視しながら、再び透視スキルを使う。

 そして激痛が走った時のことを考えて、いつでもスキルを中断できるよう意識する。

 すると目の前に新たなウィンドウが出現した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

透視スキル


 全てを見通すことができるスキル。

 見たいと思う物を頭の中で思い浮かべながらこのスキルを使うと、それを見ることができる。また知りたい内容を思い浮かべてこのスキルを使うと、その内容が書かれたウィンドウが出現する。なお、見たい物を思い浮かべずにスキルを行使した場合、ありとあらゆる情報が書かれたウィンドウが表示される。これによって脳の情報処理速度が追いつかなくなった場合、目の奥から脳にかけて激痛が走るので注意が必要。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……まじかよ」




 予想していたとは言え、これは思った以上の収穫だ。

 まさか透視スキルの説明だけじゃなくて、このスキルの使い方まで書かれているなんて。

 それに激痛の原因まで書かれている。

 そうか、さっきの痛みは脳の情報処理速度が追いつかなくなったから起きた事だったのか。

 次からは気をつけることにしよう。

 それにしても見たい物だけを見ることができるんじゃなくて、知りたい内容もウィンドウで見ることができるなんて。

 流石エクストラスキルといったとこか。



 それから何度か透視スキルを使って試してみたところ、最初にこのスキルを使った時に見えた光景の中で不自然だったものの正体が分かった。

 まず薄紫色のもや。

 これは大気中や生物の体内に存在する魔力らしい。

 そして次に隣の部屋にいる男の体内にあった白く輝く球体。

 これはどうやら魂みたいだ。

 まさか魂まで見ることができるなんて、流石エクストラスキルだ……ん?

 あれ? これって、もしかして……。




「上手くいけば……もしかしたらいける、か?」




 僕の中でこの透視スキルを使って強くなることができるかもしれない方法が頭に浮かんだ。




「[透視]」




 僕はもう一度透視スキルを使って、隣の部屋にいる男を視る。




「……やっぱり!」




 そして予想通りそれを確認できた僕は、抑えようのない嬉しさと興奮に包まれた。

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