81話 会議はステマニア国で その三
スローペースですが、これからもよろしくお願いします。
ステマニア国に六名の騎兵を引き連れた一台の馬車が入国する。それを気に留める者は誰もいない。その馬車は派手ではないが、箱型のものである為、中に誰が乗っているかは分からない。窓にはカーテンが閉められている。普通の農民が乗るような簡素な馬車ではないので、そこに乗っているのは何処かの貴族だろうと考えられるが、この国に貴族が馬車で出入りするのは珍しい事ではない。故に誰も気にしない。その馬車は一国の王女を乗せて、人々が往来する大きく開けた道を国の中心部にある目的地へ向けて真っ直ぐに進んで行く。
そして、時同じくしてその中心部。ステマニア国のホワイトロック城。その名の通り、白色の石造りでできた城だ。所々に金色の装飾が施されており、美しい。他より小高い場所にある為、国全体を一望できる。その一室、大きい机を複数の椅子が囲んでいる会議室でこの城の主がとある男を迎えていた。
「皇帝ノア・ベティ殿。相変わらずお早いですな。流石ですね。」
白色の扉を開けて入ってくる老人は身体付きが良く背筋をピシッと伸ばし、力強い足取りでその年齢を感じさせない。ただ、顔の皺、銀の長髪、そして髪と同じ色の長く伸びた顎髭と口髭がその人物が永い時を生きてきた事を物語っている。そしてその人物、ノア・ベティは力強い眼差しでこの城の主である国王を見つめる。
「なぁに。たまたま早く着いただけさ。他の者達はまだのようだね。」
「ええ。今門番の方から、ステラ王女が到着したと知らせを受けました。ラブクルス聖教国の使者はもう少しで着く予定です。」
おそらく、鍛えているだろうノア・ベティとは対照的に、でっぷりと太っているステマニア国の王、ロドリウス・ドーファント。対照的なのは肉体だけではなく髪の毛もで、彼のはキラッキラの金髪だ。二人は先に席に着き、残りの者を待ちつつ雑談をする。机の周りにはメイド達が待機しており、飲み物の準備をしている。
そのうちの一人がカップを用意しつつ、部屋の上の方に注意を向ける。複数のハエのような虫が飛んでいるのだ。彼女は他のメイドよりも敏感でそれが気になって仕方ない。王を含めて他の者達は気が付いていないようだ。気にせずに飲み物を用意する。それからしばらくしてドアがノックされ、メイドの案内でステラ王女が入室する。
「すみません。遅れてしまったようで…。」
雑談していたノア・ベティとロドリウス・ドーファントが目に入り、入室した第一声が謝罪となってしまったステラだが、時間的にはもちろん遅れてなどいない。
「遅れてなどおりませんよ、ステラ殿。大変な中、足を運んでくださりありがとうございます。さて、あとはラブクルス聖教国だけですね。」
「ステラ殿、久しぶりだね。どうかね?国の方は」
キリッとした佇まいで力強い目力ではあるものの、とても優しく包み込むような柔らかい雰囲気でステラに話しかけるノア・ベティに、ステラはまるで久しぶりに会うおじいちゃんに話しかけるような気持ちになる。ステラもそうだが、レギオン、そしてロドリウス、彼らが小さい頃からこのノア・ベティは皇帝という座に着いており、三人が幼少の頃は遊び相手となり、王の座に着いてからは、アドバイザーになっていた。因みに、彼ら三人の両親、つまり先代の王達もノア・ベティには何かと助けてもらっている。このニ国の王達はノア・ベティの事を慕っている。
「お久しぶりです。ノア・ベティ様。えぇ、国の方は何とか持ち直し、国民の信頼も回復しつつあります。お恥ずかしい話です…。」
「気になさらず、今日はその話の原因となった者についてだろう?」
表情は崩さないが、長い間このノア・ベティという男を見てきたステラとロドリウスは本気でステラとその国、そしてレギオンを心配しているのだと分かる。
「そうです。それに関してはステラ殿の方からお話願いましょう。ラブクルス聖教国の使者がまだ来ていないので、今しばらくお待ちください。」
こうして三人はラブクルス聖教国使者を待つ事に。その間、メイド達は後ろに控え、天井では羽音が微かに響いていた。
そして会議室に向かう男が一人。
「あまりよろしくない氣を感じるな…。面白そうだねぇ。」
微かに感じられる人とはまた少し違う雰囲気を察知したその男は不敵な笑みを浮かべる。