79話 会議はステマニア国で その一
ここはイリアーノ国にある商店街。日差しが良くポカポカした陽気なお天気だ。そんな中、色とりどりの鮮やかな野菜を並べた八百屋、新鮮な川魚を取り扱う魚屋、今にも涎が出そうなほど綺麗な霜降りの肉、様々な種類の肉、それに加え、ソーセージやハム等の加工品も取り扱う肉屋、他では雑貨の店、調味料の店、食器の店、酒を取り扱う店etc、その全ての店員が元気よくお客さんに呼びかけている。そしてそのお客さん達も皆んなウキウキだ。それはそうだろう。数ヶ月前まで存在していた理不尽な額の消費税が廃止されたのだ。買い物が楽しくて仕様が無い。久しぶりにちょっぴり贅沢が出来ると、皆考えている事は同じようでいつもより人が多く、商店街は賑わっている。
「すみませーん!この霜降りの肉を四切れください。」
「あいよ!この肉はステーキにするには丁度良い!なんだい?今日はご馳走か!」
「えぇ。なんだか日常が戻ってきた!って感じで嬉しくて…。ちょっと奮発しちゃうわ。」
「あぁ、一時はどうなるかと思ったが…。王様を倒そうって動きもあったしな。俺はてっきりレギオン様が独裁者になっちまったかと思ったが…。まさか化け物に操られていたとはな…。ステラ様がそれに気づいて良かった。」
「それなのよ。いくら日常が戻ったとはいえ…。また化け物がこの国に入り込んでくるかもって思ったら、怖くて…。」
「それなんだがよ、なんだ聞くところによると、ステラ様が隣国に行ってその化け物の正体を突き止めようとしてるらしいぞ?」
「隣国?隣国ってステマニア国かい?」
「あぁ、そうさ。兵士がちらっと話してるのを盗み聞…、耳にはいってきたんだがな。ステマニア国が警戒している魔国の王なんじゃねぇかって話だ。その魔国だけ王がいないとされてたんだが、遂に現れたんじゃねぇかって噂だ。」
「仮にそうだとしてなんでこの国に来たってのさ?」
「それは俺にも分からんけどよ…。それも含めてステマニア国と話し合いするんでねぇの?」
「まぁ、そこら辺の事はステラ様に任せましょ。あの方は賢いお人だから。…それにしても今後はこのお店周辺で変な話は出来なさそうね…。」
「別にそんな普段から盗み聞きなんてしてねぇよ!?」
「あら、聞こえてたの?」
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ところ変わってステマニア国へ向かっている道中のステラ御一行。馬車一台、護衛の騎兵が六名と少数精鋭だ。ステラはその馬車の中にいる。ステマニア国に向かうのに特に警戒するものはない。魔物は出てくる事はあるが大した強さではない。警戒すべきは盗賊の方だが、目撃情報から道中では出現しない確率が高い。ただし、その目撃情報も無事に持ち帰る事が出来るのもほんの少ししかなく、全く警戒しなくても良いという訳ではない。しかしステラは警戒を全部護衛任せにし、ミツネの事、謎の魔物、そして白い少女の事を考えていた。今ステマニア国に向かっているのはこれらの件を話し合う為だ。ステラ達以外にも、フィーラン帝国、ラブクルス聖教国の使者が参加する事になっている。このラブクルス聖教国が他国に対して動くのは魔物関連しかない。以前動いたのは52年前の事。聞いた話によるとゴブリンやオーガ、オークにトロールといった亜人達の大軍勢が各国に攻め入ったらしい。その数はかなりの量でどの国もその物量に押されたとか。その時にラブクルス聖教国が勇者と呼ばれる人物を立てて対抗したと聞く。その勇者は複数の仲間を集めて進軍する魔物の群れを率いていた指揮官を次々と倒していき、最後に元凶であった魔王を倒したらしい。その時の魔王はオーガだったと文献に残っている。この話はレギオンからも聞いている。指示を出す者が居なくなってしまえば、あとはこっちのもの。元々あまり知能が高くない奴らなので魔物の群れはパニックになり、そこを各国の軍が全滅していった。その当時この騒動を起こした魔物達は全滅したも同然だと思われていたが生き残りがいたらしく、今ではどこでも目撃されるように数を増やしている。まったく、奴等の繁殖力は恐ろしいものだ。それに、その時の勇者とその仲間達が今はどうしているのかは分からない。それに関する情報が一切ないのだ。残されているのは魔王を討ち倒した活躍だけ。その出自、それまでに何をしていたか、その後どうなったかの一切の文献がなく、本当に勇者なんていたのかと疑う者もいるくらいだ。人によっては他の魔王から報復を受けて殺されたのでは?という者もいる。真相は分からずじまいだ。だが一つだけ確実な事がある。それはその魔軍侵攻を食い止めた後、事態収集を積極的に行ったのがラブクルス聖教国だったという事。基本的に他国に絡む事は殆ど無いのだが、この時ばかりは違ったらしい。魔物絡みの騒動ということもあったのだろうが、それにしてもそのやり方は過剰と呼ばれる程、他国に干渉したらしい。各国の教会の立場を上げる目的があったのでは?と言われているが、実際に教会の立場は高くなっている。そんなラブクルス聖教国だが、実はレギオンが幼い頃に一時的に住んでいたそうだ。経緯は話してくれなかったが、一度聞いた事がある。国の至る所に教会の力が及んでおり、施設や店、一般家庭の家族構成まで把握していると言っていた。国民は教会で祈る事により、国から守護されるという。家族構成は出生時に教会で執り行われる祝福の儀によって自動的に登録され、有事の際に連絡を取る手段として役立てるらしい。しかし、幼い頃のレギオンは教会の何か良くない部分を感じ取っていたらしい。その話しをしてくれた時はラブクルス聖教国の事はあまり信用するなと言っていた。今回の会議、警戒すべきはラブクルス聖教国だろう。
ガタゴトと揺れるあまり派手ではないお忍び用の馬車の中で様々な事を考えるステラ。そして、その馬車を護衛する兵士達は気付いていない。その遥か上空に監視者がいる事を。
「順調に進んでいるな。馬車を狙う者もいない。このままステマニア国に着くな。」
レムリア国の魔天狗、名をシュンガイ。烏天狗の血を強く受け継いだ天狗であり、人型の烏のような見た目をしている。魔天狗とは日本ではなく、この世界で生まれた天狗の事を言う。他の天狗との違いは妖力を持っていないという事だ。因みに、天狗以外にも妖力を持っていない妖怪は存在する。その理由は何を力の源にしているかだ。妖怪が存在していられるのは妖力のおかげだ。妖力によりこの世に姿を留め、力を行使出来る。そんな妖力は人間達からの畏怖によって力が強くなる。しかし、人間達は得体の知れぬ現象を解明していき、妖怪達を次第に恐れなくなっていった。その結果、妖怪達の力は段々と落ちていき、御伽上の存在となりつつある。レムリアが日本に来た時、その事を感じ取り、その力の源を妖力ではなく”魔力”に変換させた。その結果、人間の畏怖等関係なく今日まで存在出来ている。さらに魔法も扱えるようになり、命の源では無くなった妖力はただ単純に攻撃のみに特化した力となった。そんな妖怪から産まれたのが魔天狗であり、その他妖怪達である。そんな妖怪達は総じて若い。つまり魔天狗とは妖力は操れないが魔法が使える妖怪の事である。
「国外での初仕事、見事完遂してみせる!」
彼の仕事はステラ御一行の道中を監視し、無事にステマニア国まで向かわせる事。襲撃者がいれば、秘密裏に排除せよと命令されている。普段は哨戒の仕事ばかりの為、かなり張り切っている魔天狗シュンガイはこの後一切の襲撃者が居なかった事に少しガッカリしつつも無事に仕事を遂行した事を上司に報告するのであった。