77話 かつての仲間と妹のお友達
久しぶりだな!と言い、吸血鬼三人に向き直る。この三人とは本当に久しぶりだ。レムリアの眷属であるアリオス、イオル、ラフィ。彼等は普段ステマニア国で諜報活動をしてもらっている。かなり役に立っている。ただ、最近はギルド長から人間ではないのでは?と疑われているらしく、あまり活動出来ていない様子だ。そんな彼等が連れてきたのは独特なお面をつけた人物と化け狸達。吸血鬼トリオの後ろには和装の女性が胡座をかいていた。
アリオスが事の経緯を説明する。この件にはアリオス達の所属していた盗賊団が絡んでいたらしい。
「…という訳です。」
「説明ありがとう。ところで、その盗賊団はどうなった?」
「その事についてはルビルさんから説明願います。」
すっくと立ち上がり、優雅にくるりと回りお辞儀をするルビルと呼ばれた不思議なお面の人物。その面は女性の顔のようだった。黒い衣装、黒い帽子、側が黒で内が赤色のマント。そのマントには黄金の龍が刺繍されており、背景が黒な事もあってよく映える。そして帽子には長さ約二メートル程の尾羽が二対飾られており、彼の動きに合わせてゆらゆらと動くその様はまるで龍の髭のようだ。
私はこれを知っている。この姿を見て一目瞭然。生前に一度だけ見た事がある。変面だ。中国の伝統芸能の一つで、瞬時に次々と面を変えていくのだ。その所作と面が一瞬で変わる妙技の組み合わせがとても美しく格好良い。その変面師が何故この世界にいるのか。大体の察しはつく。
お辞儀後にばっと扇子を広げるルビル。その扇子には文字が書かれていた。なるほど、コミュニケーション方法はこの扇子か。ルビルの説明を纏めるとこうだ。
千年前の戦争時はサフィア、ディアナ達と共に情報収集を行っていた。ルビルは盗賊団や冒険者側に潜り込み、得た情報を魔国側に流していた。サフィアは魔国に潜り込んでいるスパイの捜索、及びその類の情報収集。ディアナは王族や軍関係からの情報収集を担当していた。ディアナはかなり有益な情報を得て貢献したらしいが、ルビルとサフィアはあまり成果は出せなかった。戦争終結後はその事もあってか、国に戻りづらかったらしい。さらに、この戦争の事は不可解な事も多く、その件についても情報収集をしていたとの事だ。因みに、ディアナは妖魔石捜索の為、ルビルとサフィア、配下の化狸達によって行われた。
以下得られた情報。
•この戦争は魔物と人間側のちょっとしたいざこざが原因とされているが、実は計画されて引き起こされた可能性がある。(当時のレムリアがそのような発言をしている。)
•魔国側で一番犠牲者が出たのがレムリア国。次いでサンダーランド(当時の国名は、ドクロ)。
•大魔国側が意図的に戦場をレムリア国周辺で起こさせた可能性があり、人間側もレムリア国周辺に優先的に侵攻していた。
•戦争後の人間国では、教会の力が倍増した。
•関係あるかは不明だが、戦争が起こる数年前に人間国で信仰している神が変わった。
•その戦争後、現在まで大規模な戦争は行われていない。
•そして、人間国に囲まれるように建国されたのがラブクルス聖教国。この地には元々大きい教会があり、その一帯は人間国内での中立の場所だったとの事。
•ルビルが関わっていた盗賊団は今後壊滅させる予定。
そしてサフィアの補足。
•現在、盗賊団は主に六組存在しており、それぞれ小規模チームに分かれて動いている。
•最近、冒険者達の国から国への移動が激しいらしい。冒険者達は国に属している訳ではない。そもそも冒険者ギルドは国と連携している訳ではなく、独立して運営されている。国への協力はするが、義務ではない。その為、ギルドに所属している冒険者達も国の為に動いている訳ではない。冒険者ギルド独断で魔国側の警戒をしてなんらかの行動を起こしているようだ。
•そしてフィーラン帝国がハートブラッド国に対して偵察兵を定期的に送っているらしい。時期的にはおそらく、魔王会議が開かた後。人間側も魔王達の動きに警戒しているらしい。
この二人からの情報を記録させ、挨拶を済ませる。私にとっては初対面だが、サフィア、ルビル、化け狸達にとっては千年ぶりの再会。目が潤んでいる者もいる。皆んなを失望させないように振る舞わなければと改めて思う。そういえば、ディアナ達もそうだが、城を含めて、変化したこの国を紹介しないとな。道路が出来たり、各区域でも新たに出来た建物、改築された建物がある。ツアー的なものをやってみても面白いかもしれない。後でフローラに相談してみるか。
「それにしても本当に会えるとは思わなんだ。もう二度とその顔を見る事はないと思っていたからな。本当に嬉しい!改めてまたよろしく頼む、レムリア•ゼオラ。」
これまでずっと人型だったが、真の姿である巨大な化け狸に戻り本当に嬉しそうに話すサフィア。
「私も嬉しいさ。こうして戻ってきてくれて。皆んなもよろしくな!アリオス、イオル、ラフィもありがとう。」
そしてその隣、フェナカに向き直る。
「お待たせ。フェナカ!」
「姉様!この子達飼っても良い?」
「いきなりかい!」
フェナカの予想外の質問に思わずツッコミを入れてしまうレムリアだったが、断る理由は特にない。フェナカは懇願の眼差しでこちらを見つめてくる。同じ一角ラビィ。仲間意識もあるのだろう。初めて会ってから共に過ごしてきた日々の中で本当の姉妹のような関係になっている。最近は一緒に過ごす事が少なくなってしまったが、大事に思っている存在だ。そしてなにより友達が出来るのは喜ばしい事だ。(飼うとか言っていたが…)許可しようではないか!
「良いよ。」
「ありがとう!姉様好き!!」
ばっと駆け寄り抱き締めてくる可愛い妹を抱き締め返しながら吸血鬼トリオを見ると、一角ラビィ達に見えないように顔を隠していた。