73話 山の麓に廃村
レムリア国から南西に大きな山がある。その山に吸血トリオがある謎の男と共に向かっていた。なんでもそこには女性だけで構成された盗賊団がアジトにしているらしい。だが、その話は信じられるものではなかった。確かにその山の麓には、廃村があるのだが、盗賊とて住みつけるような場所ではない。周りには魔物が徘徊し、夜になると不気味な現象が確認されるという。とても普通の人間が正気を保って生活出来る場所ではない。吸血トリオが人間だった頃の上司だって進んで住もうとは言わないはずだ。
「本当にそこに居るんだろうな?」
アリオスの問いに謎の男は鉄扇を開いて見せる。そこには「行けば分かる」と書かれていた。
「まぁそれに関しては良いが、何故喋らない?」
「訳あり」と鉄扇に書かれていた。
「……。あまり突っ込まねぇよ。そもそも何でお前みたいな奴があんな男の言う事聞いてんだろうな。」
「いずれ分かる。」と鉄扇に。
その後しばらく四人は山の麓に向かって歩いていた。その道中、魔物が襲って来る事はなかった。居ない訳ではない。これがただの人間であれば、魔物達は嬉々として襲いに掛かるだろう。しかし、吸血トリオは人外の者。襲おうとする魔物は居なかった。そんな事もあり、何事もなく目的地に到着。そこには噂通りの怪しい廃村が広がっていた。人の手が入っていないのであろう。建物はボロボロで、いつ崩れてもおかしくない状態の物や既に崩壊してしまっている物まで。とても人が住める状態ではない。独特な臭気を感じる。
「本当にこんな場所に居るんですか?我々をはめた訳ではないですよね?」
少しイラついた雰囲気を出し始めたイオルを制止し、半壊した建物の隅を指さす謎の男。その指先に視線を移すと、そこには一匹の狸がいた。
(…狸?……ん、狸?)
三人とも頭の中で同じ疑問を持っていた。何故こんな怪しげな場所に狸なんて住んでいるのだろう。そもそもここら辺に狸なんていないはずだ。生息圏が違う。普通は人が住んでいる村の近くにいるはずで、こんな廃れた場所に住む事なんて考えられない。そんな事を思っていると、そこにいた狸が瞬間移動したかのように消えた。次に現れた時にはその鋭い爪で謎の男を攻撃していた。謎の男は鉄扇で受け止めていた為、ダメージはない。そのまま狸を宙に押し投げた。ただの狸ではない事を今の動きで察知した三人。一気に警戒度が増す。投げ飛ばされた狸はクルクルと身体を回転させ、体制を立て直し着地する。地に足がつくその瞬間、「ドロン!」と効果音と共に煙幕で包まれ、中から眼をギラつかせた女性が出てきた。
「変身能力か!」
戦闘体制に入る吸血トリオ
「おいおい、ルビルさんよ!何しに来たんだ?その三人は何者だ?また姐御の邪魔しに来たのか?」
怒鳴り散らし威圧する者に対して動じず、さっと鉄扇を広げて見せる謎の男、もといルビル。
「はぁ!?ざけんなよ?今までアタイらの邪魔ばかりしてきた癖に素直に会わせろだぁ?テメェら!」
その一言で周囲にいた狸達が一斉に現れ、人間に化けていく。
「そこの三人。変な事したらすぐに殺す。着いて来い。」
そして化け狸達に囲まれながら奥の大きい建物へと連れて行かれる四人。崩れかけているその建物の内部は洞窟へと続いており、さらにその奥に連れて行かれるのであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
その頃のレムリア城。烏天狗が温泉街建設予定地からの伝言を伝える為、フローラの元へ来ていた。
「と、言う訳でアクアさんがその原住民のヘルハウンド達を連れて来ます。」
「…事情は分かりましたが、今レムリア様が不在ですので、到着後はしばらく待機してもらう事になります。報告ありがとうございます。それはそうと、順調なのですか?その…温泉というのは。詳しく知らないのですが…。」
フローラが温泉を知らないと言った瞬間の烏天狗の目付きが変わる。この国で温泉の良さを一番知っているのは妖怪達だ。それはこの烏天狗も例外ではなく、温泉に対しての力説が始まる。それはまるでボスヘルハウンドに温泉の良さをみっちりと説いたアクアのよう。
「良いですか?フローラ様。まず温泉というのは…」
いつも笑顔のフローラ。その表情は崩れる事はないが、心の中ではやばいスイッチを入れてしまったのかもしれないと思うのであった。