72話 それぞれの仕事
「お前達も知ってるだろう。女だけで結成された盗賊団。奴らと俺達の縄張りが近い事もあって、度々獲物を奪われる事がある。ハッキリ言って邪魔な存在だ。何度も排除しようとしたが、神出鬼没なうえ逃げ足は早い。俺達が駆けつけた頃にはもういなくなってる。そのくせして強さは本物だ。俺の部下が数名手も足も出せないままやられた事もある。このまま奴らにこの一帯をのさばらせる訳にはいかない。そこでだ。奴らを排除してこい。どういう理由があるか知らんが、お前達のそのヘンテコリンな力があれば余裕だろ。それを見事達成したら、今回の事は水に流してやる。」
「別に許してもらおうなんて思ってもないし、受ける理由もない。俺達になんのメリットがある?」
「勘違いするな。これはお前達が掟を破ったからだ。そのケジメをつけろ。安心しろ。これを無事達成したら、俺達が今後お前達に関わる事はない。これは強制だ。その男を連れて行け。さっきお前達と戦ってその強さは証明されているだろう。奴らのアジトの大体の目星もついているらしい。何か変な動きをしたら、分かってるな…?まぁ、頑張れや。」
こうして吸血トリオは強制的に敵対勢力の盗賊団排除の任務を引き受けた。謎の人物に連行される三人を見送った後、盗賊団員の一人が団長に問いかける。
「団長…。どうしてあの三人を行かせたんですか?」
「奴からの提案だ。この三人を使って厄介な敵対組織を潰すのはどうかとな。その任務後ドサクサに紛れて始末するとな。あいつらはもう人間じゃねぇ。奴に任せるのが一番だ。これで厄介者が居なくなれば一石二鳥だ。さぁ、戻るぞ。」
「へい!」
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その頃レムリア国西区域。
「よし、これから私達はピオニーの所に行く。それまでに、話を進めておいてくれよ。」
「よろしく!」
この国の魔王レムリアとその友人ジララが笑顔で結界を通過して行く。それを見送るそこに残された者達。一人だけ不満な声を漏らす。
「何だよ!人を呼び出しておいて後はこっちに丸投げかい!皆んなも何か言ったらどうよ!」
「いえ、レムリア様に文句はありません。」
「特に不満はないので…。むしろレムリア様の為に働く事が出来て光栄です!」
「というか、レムリア様に文句言えるのアメジストさんくらいなもんですよ。…あとはラピス様、ハウラさん…。」
「まぁ、私はこの国の者ではないから何とも言えません。」
「同じく…。」
「はぁ…まぁ、良いわ…。じゃ、とりあえず打ち合わせしておきますか。レムリアから説明されてるわよね?…え、されてないの?」
今現在集められているのは、アメジスト、ゴール、ユディアと呼ばれているモルフォ蝶の人型妖虫、ネフラ、アスリオーネ国のロサ、同じくカエデラード。そして、妖虫数匹と土蜘蛛数名。ロサの付き人であるエルフ二名、ドワーフ数名。彼等にここに集められた理由をアメジストが話す。
「聞いてないとは驚きだわ…。まぁ、良いか。今日集まってもらったのは、ここにゲートを建てる為。レムリア国とアスリオーネ国の往来を簡単なものにするのよ。そこで貴方達の出番よ!」
ゲート建築レムリア国側をネフラ率いる土蜘蛛達が、アスリオーネ国側をカエデラード率いるドワーフ達がそれぞれ担当する。そして、結界を繋ぐゲート通路をアメジストが担当。その後のゲートの管理、警備をゴール、ユディア、ロサで打ち合わせる。建築場所、規模、建築にどのくらいの人数がいるか、材料はどの位いるのか等を話し合った。
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そしてその話し合いが行われているなか、フェアリズム城では、レムリア、ジララ、ピオニーが談笑していた。
「え、あのサンダーランドに行ったの?あの下品な国に?」
「まぁ…。酷いもんだったよ。でもそのお陰で、ディアナ達が戻ってきてくれたけどね。」
「ディアナ、ディアナ……。あー、あのディアナさん!狐の!懐かしいわね。綺麗な人だな〜って思ってたわ。まぁ、顔は覚えてないけど。それだったら他の人達ももしかしたら戻ってくるかもしれませんね。」
「他の人ですか?」
「もう、ジララちゃん。余所余所しいわよ。昔はあんなに『お姉ちゃん』って慕ってくれてたのに。…まぁ良いけどね。レム姉が亡くなった後で何名か国を出た人がいたのよ。あまり覚えてないけど。」
「まぁ、戻ってきたら暖かく迎えるさ。最近はゴブリン達も住み着いちゃってるけど。」
「え?ウチには寄越さないでね?ところで、さっきロサがカエデラードさん連れてそっちの方に行ったけど、何かあったの?」
「あー、レムリア国とアスリオーネ国にゲート作ろうと思って。それの打ち合わせに行ってるはずだよ。」
「え、聞いてないけど?」
「ほら、やっぱり言った方が良いって言ったじゃない…。」
「あれ…。そだっけ?………ごめん。最近書類整理が忙しくて、報告忘れてたかも。」
「そんなに書類あるんだ?」
「今色々やってるからね〜。温泉街作ったり、対侵入者襲撃チーム作ったり、神社建設計画とか。」
「忙しそうね。良かったら手伝うわよ。」
「ありがとう。今のところはゲートの方を手伝ってもらうと助かるかな。」
「はーい。…ジララ、もしかしてハーブティー苦手?」
「ちょっとだけ…。」
「無理して飲まなくて良いわよ…。」
人外の女子会は楽しい時間が進んでいく。
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レムリアには影武者(になる予定)がいる。といっても、そっくりという訳ではない。顔は似ているが、背丈はアメジストと同じくらいで角が一つ。その名もフェナカ・ゼオラ。元々は一角ラビィと呼ばれる兎型魔獣だ。見た目は女の子だが、実は男の子。ただし、レムリアは少女だと思ってる。彼は今、南区域を出た所の森にいる。あまり遠くには出ておらず、三魔獣が活動している範囲内をぶらついている。
「あー、暇だなー。何か面白い事ないかな…。」
いつもだったらこの辺をテキトーにぶらついていると三魔獣の誰かと遭遇する。しかし今彼等はアルバートの特訓に参加している。自分もビシバシと鍛えられた。懐かしいなぁと思いつつ、散歩しているとちょっとした広場にたどり着く。そこには体長約7メートル程の体がライオン、人間の頭を持った石像が置かれていた。ジェムシリカが作り出した石像だろう。南区域に冒険者たちが攻め込んだ後、警備を強化する為に砦周辺にこのような石像を数体置く事になった。この石像は敵意ある者に反応し、自動で攻撃する。確か、スフィンクスという名だ。今は動かない。よく出来た石像をじっくり眺めていると、妙な視線を感じる。そちらの方を見ると、なんと一角ラビィの群れだった。群れといっても、その数五匹。フェナカは見た事ない顔ぶれだった。一角ラビィ駆除を逃れた残党だろう。同族に声を掛けてみる。
「こんな所で何してるの?」
話を聞くと、色々話してくれた。自分が同じ存在だと向こうも気付いているらしい。要約すると、以前はライム村周辺にいたが、冒険者達の一角ラビィ狩りが激化し、最近この周辺に逃れてきた。デカい魔獣達がこの周辺を巡回していたが、迷惑を掛けなければここら辺に住んで良いと言われた。との事。
かつての同族に会えた喜び、そして同情が湧き、彼等を連れて帰ろうと決める。
「じゃ、ウチにおいでよ。」
姉様になんて言われるか分からないが、見過ごしてはいられない。言い訳を考えつつ、五匹を引き連れて城へ戻るフェナカだった。
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東区域・霊廟地下居住スペース。
東区域の青龍、ハウラ・ボーツワーグが自室でワインを嗜んでいた。ゆっくりとゆっくりと、その味、風味を楽しむ至福の時間。音楽を流す魔道具を使い、優雅な時を過ごす。自分が夢見た生活。大昔は色々やる事があったが、今は全て弟子に任せている。魔石の研究もやらねばならない仕事だが、自分のペースで良いと言われている。休息というのは必要だ。そもそもアンデッドなので、疲労等はないのだが、こういう時間が物凄く好きだ。
「四天王に指名された時は、どうなるものかと思いましたが、案外やる事なくて安心しました。こうして、自分の時間を大切に出来ますしね。いやー、東の四天王も良いものですね!……いや、こんなんで良いのだろうか…。逆に不安になってきましたね…。特訓の様子でも見てきましょうか。」
そう言いながら、上質な紫色のクッションが敷かれている椅子に深く腰掛け、ワインを味わうハウラだった。