71話 吸血鬼と変面師
「お!早速見つけたか。」
眷属である蝙蝠を出してから数十分後、例の盗賊団を見つけたと連絡が入った。
「この感じですと、案外近くに居たのかもしれませんね。」
「早く見つかって良かったじゃないっすか。」
「あっちの方面らしい。こっちに向かって来ている。」
「じゃあ、来るまで待ちますか。」
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「蝙蝠が出た方はあっちだな、急げ!」
吸血トリオ達がいる森へ向かう盗賊団。その周辺を気付かれないように蝙蝠達が一定の距離から取り囲んでいる。しかし、その気配に気付いている者がいた。その者は派手な衣装に奇妙な面を被っており、表情を読み取る事は出来ない。おまけに無口な為、誰もその事に気付かない。
森を走り奥へ向けて進んで行くと、そこに三人の人影を確認した。
「いた…。奴らだ。こんな所で何やってるんだ?」
「まぁ、良い。きっちりと落とし前つけさせてやる。お前ら、準備は良いな。」
そして、一斉に茂みから飛び出す盗賊団。
「久しぶりだな。お前ら!おい、今まで何してたんだ?」
「お久しぶりです。団長。」
「アリオス。お前ら美女を見に行くとか言って出ていったそうだな?どうだ、見つかったか?」
「そうですね。とびきりの美女が。」
「ほう、そいつは良かった。じゃあ、そいつを連れて来い。そしたらお前らが戻って来なかった事を許してやるか考えてやる。まさか逃げ出したとかじゃねぇよな?お前ら以上に変人な奴なんていねぇ。そんな奴らに逃げられるとな、ムカつくんだよ。逃げてねぇよな?」
アリオスの肩にカットラスの刃先を置き、脅す団長。
「まず、紹介するのは断ります。そして、あんたから逃げ出した訳じゃねぇ。ここであんたとの盃、返させてもらいます。」
刃先を素手で抑え、言い放つ。
「あ?それがお前の答えか?じゃ死ね!」
思い切り力を込め、首を斬ろうとする団長。しかし、全く動かない。
「は?なんでびくともしねぇ!?」
「団長。もう昔の俺らとは違うんですよ。」
盗賊団団長に向けて、自身の武器である爪を振りかざした時、目の前に人影が現れ攻撃しようとした腕を掴まれ投げ飛ばされる。
「お前は…?」
それを何事も無かったように着地し、その謎の人物に問いかける。
「最近雇った用心棒さ。お前らがどんなに強くなろうが、手も足も出ないぜ。」
団長がベラベラと答える。相当強い人物なのだろう。
その人物はマントをはためかせ、右手を高く上げる。そして、目にも止まらぬスピードで手首をくるりと回すと、何処から現れたか鉄扇が握られていた。バサっと扇子を開き、それをクルクル回しながら顔の下まで持ってくる。まるで舞を披露しているかのような動き。そしてゆっくり扇子で面を隠す。再び扇子を下ろし、面を見せる。右側が黒左側が白で人の顔が描かれている面だ。そしてまた、扇子で面を隠したかと思うと、すぐに面から扇子を離した。
「なんだ…こいつは。」
吸血トリオは驚いていた。目の前の奇妙奇天烈摩訶不思議人物がしていた白黒の面が一瞬で、燃えるような赤色の面に変わっていたのだ。驚いた隙をつき、その人物が口から炎を吐いて攻撃を仕掛ける。
「うぉっと!」
それを難なく躱し、反撃に出る。それまで後方待機していた二人も戦いに参加する。
二人同時に手刀を繰り出す。それを体を逸らす事で躱す。鉄扇を振り翳しイオルとラフィを翻弄する。二人も負けじと応戦していく。謎の人物は拳に炎を纏わせ殴る。二人は吸血鬼持ち前のスピードで追い詰める。拉致が空かないと判断した謎の人物は高火力で火炎放射し、三人から距離を取る。そしてマントで面を一瞬隠す。次に面が露わになった時には、また別の面になっていた。先程の赤い面よりも紅い面。人の模様が描かれたその面の口には二本の鋭い牙が確認される。
「なるほど、俺達の正体が分かったか。だが面を変えただけで俺達のスピードに付いて来られるか!」
アリオスが剣を取り出し、構える。それに対し謎の人物はマントで全身を一瞬隠す。次に翻した時には、右手に中華剣が握られていた。
「ふん。どんな仕掛けか知らねぇがそんな剣で俺に対抗出来るかぁ!!」
そして二人が一斉に動き出す。アリオスの吸血鬼としてのスピード。それにピッタリとついてくる謎の人物。今までの動きからは想像出来ない程、スピードが上がっている。イオルはその原因が面にあると勘づいていた。盗賊団達が視認出来ないスピードで鎬を削る二人。そのスピードは更に上がっていき、やがて鍔迫り合いになる。お互いに力を込め、相手にぶつける。その勢いはお互いの身体にも現れ、無意識の内に額同士をぶつけていた。更にヒートアップしていく二人。その時、アリオスは相手の目がギョッと見開くのを見逃さなかった。面で顔を隠していてもその目から驚いている事が分かる程だった。
その後すぐに距離を取る謎の人物。戦闘体制を解き、マントで全身を隠す。次に出た時にはその手からは中華剣が消えており、面も女性的な顔つきのものに変わっていた。
「どうした!なぜ止めた!?」
急に戦闘を止めた謎の人物に問いかける盗賊団団長に、しゃなりと近付き広げた扇子を見せる。
「なるほど…。それも面白い。やらせるか。」
ニヤリと不敵に笑う盗賊団団長。そして厄介ごとに巻き込まれるなと悟るアリオス。何を企んでいるか分からない謎の人物。それを見守っているイオルとラフィ、そして盗賊団達。先程の激しい戦闘から一転して微妙な空気に包まれた。