70話 それぞれの思惑が
地面に向かって炎を吐くヘルハウンド達。中には、足を一生懸命、地面から離そうとしている個体もいる。しかし、全てのヘルハウンドがその場から動けないでいた。その原因が、彼らが今戦っている相手。その相手は地面に薄く伸び、ヘルハウンド達の足に絡みつき離さないでいた。
「やっと、捕まえたわ。」
「一時期はどうなる事かと思ったぜ!」
「残念だが、こうなってはもう離れねぇよ。」
「オレ達と戦うなら、こういう事にきをつけねぇとなぁ!」
「そう!我らスライムに!!!」
最後のセリフはスライム一同ぴたりとハモる。そして、ヘルハウンド達を完全に覆い封じ込める。妖怪達の戦闘の邪魔にならないように。
「ふっ、どうやら部下はリタイアのようだよ?大将さん?」
「ふん!貴様らを倒して、解放するのみ!」
お互いに距離を取りつつ、火炎と水流弾を撃ち合う戦闘。隙があれば、アクアがスーツの機動力と、自身の魔力と伸び縮みする手足を上手く使い、ボスヘルハウンドに肉薄していく。パワーをアップさせたスーツにより、打撃攻撃も斬撃攻撃も威力が上がっている。さらに、アクアだけでなく他の河童達も同スーツを装備している為、かなりの戦力になっている。俊敏に動き回る河童に翻弄されつつも、一匹ずつ仕留めていこうとするボスヘルハウンド。火炎だけでなく、前足、後ろ足で蹴りや爪での攻撃を行い、防御する。さらに、その周りでは土蜘蛛達が糸を吐いて妨害している。その効果は徐々に現れ始め、ボスヘルハウンドの動きは鈍くなっている。
「そろそろ大人しくなってもらうよ。」
アクアは肩の砲に銃弾型のカプセルを装填する。
「俺が大人しくなると思うかぁ!」
全身に力を込め、糸を引きちぎりながら回転し、周囲に火炎を放射する。その瞬間、河童達は水流弾を放ち、火炎放射を妨害する。辺りは水蒸気で包まれた。
「グアルルルガガアアア!!!」
口に火を溜めながら、アクアに向かい突進するボスヘルハウンド。その瞬間を見逃さなかったアクアはその顔面に向かい、銃弾型カプセルを撃ち込む。そしてすぐに回避行動を取るが、ボスヘルハウンドの爪攻撃に当たってしまう。
「くっ、なんて硬さだ…。こいつめ…。」
「ふん。甲羅は硬いんだよ。」
カプセルを撃ち込まれたボスヘルハウンド、身体が痺れてきて動けなくなる。アクアが撃ったカプセルの中には、キイロスズメバチの妖虫から分けてもらった毒が入っている。この毒は体内に回ると麻痺を起こす。絶妙な調合により、生命に支障はない程度まで弱められてはいるが、数時間はまともに動けなくなるほどだ。それはボスヘルハウンドでも例外ではなく、すっかり大人しくなっていた。
「ふぅ。やっと大人しくなった…。それじゃあ、我々の目的を言うから、静かに聞いていてくれよ?」
こうして、アクア達の温泉街計画の力説を始める。
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その頃、吸血トリオ達はライム村から数キロ離れた森を探索していた。森といっても、そこまで木が密集している訳ではないので、歩きやすい。
「やっぱり、そうそう居ないよなぁ。少ないはずなのに、魔物の方が会うぞ…。」
「ちょっと暴れたらやってくるんじゃないっすか?」
「いっその事、アジトに近づいてみます?」
「お前それテキトーに言ってるだろ。」
「バレました?正直言ってこの時間が無駄に思えてきました。今日の所は引き上げません?」
吸血トリオの頭脳担当イオル。彼がどの盗賊かも分からない状態でアジトに行こうという発言に対して、アリオスは彼が本気で言っていない事に気付いていた。
「まぁ、確かにこのまま歩き回るだけってのもなぁ。とりあえず、蝙蝠達に探索させるか。」
そう言い、三人は数匹の眷属である蝙蝠を召喚する。
「さぁお前達、この辺に出没するという盗賊を発見して来い!攻撃はするなよ。行動開始!」
「キキィーー!!」
奇声を上げて飛び立つ蝙蝠達。橙色の空にバタバタと飛んでいくその影は、見る者に家に帰りたくなるようなナスタルジックな気持ちにさせる…。そんな雰囲気だった。
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「なぁ、…兄貴見たかよ今の!」
「なんだようるさいな!」
「あの空の鳥達!一斉に飛び立っていったぞ。不吉の前触れか!?」
「あれは蝙蝠だろ…。しかし、不気味だな。俺達が一昨日見た時は居なかったぞ。確認しに行くか。」
吸血トリオ達がいる森を見る盗賊団。彼等は皆、各々特徴的な得物を持っている。そいつの具合を確認し、森へ向けて歩み始める。
「絶対に見つけてやるからな。」
盗賊団団長は無断で消えた部下を探していた。あの変人三人組を。