65話 帰還
レッドは一瞬だけ全身に電気を流す。レッドの頭を掴んでいたレムリアは思わず手を離してしまう。頭が自由になったレッドはさっと立ち上がる。
「チッ!分かった…分かったよ。てめぇの勝ちだ。約束通り、雑魚共が流れないようにしてやる。だがな、それもいつまで保つか分からん。お前達も早くここを離れな。」
「ん、どう言う事だ?」
「見ろ…あいつらを。」
レッドの視線の先には、観客席からただならぬ殺気を放ちながらこちらを見てくるゴブリン達がいた。
「王が負けた。」「次は俺がなる。」「いや、俺だ。」「倒す…。」
一斉に距離を詰め出すゴブリン達。その中にはもちろん、オーク、オーガ、トロール等も含まれている。走る度に地鳴りが起こり、大地が震える。
「この国は弱肉強食。弱い者はいらん。王が負けた時、そいつを倒す事で次の王になれる。俺が魔王になった時もそうだった。こいつらは次の王座を狙ってくる。巻き込まれるぞ。」
不敵な笑みを浮かべるレッド。ここでレムリアはある事を思いつく。
「スモーキー、煙幕!」
「御意!」
レムリア、レッドの前に出るスモーキー。手をかざし煙幕を張る。
「なんだこの煙!」「前がみえねぇ!」「ぐぎゃゃー!!」
突然の煙幕に前が見えなくなり、イラつく亜人達。見えないながらも煙の中を突き進んでいくが、そこにいたであろう三人は既に居なかった。
「ここだ!」
「い、いつのまに!?」
レムリア、レッド、スモーキーの三人は闘技場の柱の上にいた。
「いいかお前達。まずこのレッドはお前達に負けた訳じゃない!今までお前達がこのレッドに勝った事があるのか?そもそも勝負を挑んだ事があるか?他人が倒したから自分でも倒せるとでも思ったのか!?はっきり言う。お前達は卑怯だ!王座が欲しけりゃ最初から自分の手で掴みに行け!そもそもレッドは強い!この私に勝たないと倒せないぞ。私に勝ってからレッドに挑め!私は挑戦ならいつでも受ける!」
静まり返る闘技場。あれだけ威勢の良かった亜人達は皆一瞬で大人しくなった。レムリアが放った殺気により、動けなくなった。
「どけ、借りを作るのは嫌いなんだよ。あいつら調子に乗ってやがるからな。一度教育し直してやる。」
柱から飛び降り、バチバチと雷鳴を轟かせ地面に着地するレッド。その瞬間全方位に向け怒りの雷を放つ。その射程内にいた者はビリビリと感電しその場に倒れる。
「レムリア…今日はもう帰れ!とりあえず、お菓子の件はまた次回だ!」
「お菓子の件はチャラだろ!今後はこういうことはもうやめてくれよ!」
そういうと、レムリアはスモーキーに触れ自国へと転移する。
「さぁ、来いよ。お前ら俺より強いのか?証明してみろよ!」
レムリア達が去ると、レッドの「矯正教育」という名のバイオレンスが始まる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
レムリア国・レムリア城
「久しぶりだね。ディアナ!」
「うそ、エレス!?変わらないわね!」
約千年ぶりに会うアメジストとディアナ。そして妖狐達。お互いに再会を喜んでいた。この千年の間の出来事をそれぞれが報告し合う中、突如として部屋が眩く光り、その中から二人が現れる。レムリアとスモーキーだ。
「お帰りなさいませ。レムリア様。」
「あぁ、ありがとう。フローラ。スモーキーもお疲れ。」
「従者としての務めを果たしたまでです。私はメイド長に報告して参ります。失礼します。」
深くお辞儀をし、部屋を去るスモーキー。それを見送ってからアメジストの方を振り返る。
「やぁ、おかえり〜。色々と大変だったろうけど、報告したい事があるんだよ。」
「それと、ディアナさん達の事もお願いします。」
「あぁ、分かってる。まずはアメジストから聞こうか。」
アメジストが今までの柔らかい雰囲気から仕事モードへと切り替える。
「まず、国内の動きから。河童と土蜘蛛達が南区域の砦強化に取り掛かった。これにはドワーフ達の協力を得ている。更に必要に応じて、私や師匠が防衛魔法を施すのと、ジェムシリカのガーゴイルを設置する予定。因みに、これは定期的に報告させるから。西区域からの報告は、捉えた冒険者達について。これは私が資料に纏めてるから後で確認しておいてほしい。北区域からの報告なんだけど、国内を烏天狗が定期的に巡回し、警備と伝令の役目を担う事になった。更に今回の冒険者襲撃の件を踏まえて、働いてない妖怪達で対襲撃チームを結成する流れとなった。それと、″温泉″を発見したと報告を受けてる。東区域からの報告では、特に異常事態は起きていないけど、魔獣達に訓練を受けさせるのはどうか、と師匠から提案を受けているわ。実は、レムリアがサンダーランドに向かった後で、またゴブリン達が増えたんだけど、もし彼等をここに置いておくつもりなら、訓練を受けさせて、この国の戦力にするにはどうかと思ってたのよ。それで、許可降りるのであれば、東区域の魔獣達と一緒に訓練して強くなるか、検証したいとの事よ。そして、吸血トリオからの報告。彼等は今、ギルド長から疑いの目を向けられていて、冒険者の活動自粛中よ。情報収集は続けているからそこは安心してほしい。まぁ、ギルド長には要注意ね。それと、西区域にゴロゴロ転がっている魔力石の活用方法を私と師匠で模索中よ。それに伴い、魔力石回収を妖虫とエルフ達で行っているわ。保管、管理をアスリオーネ国に任せている。理由は簡単、あの国は結界で守られているからね。今回のような襲撃が起きて、仮に西区域の森に侵入したとしても魔力石は取られないようにする為ね。研究は数個あれば大丈夫だから。いくつか活用方法も見つけてるから、そこは河童達と相談かな。それとね、少し別の話なんだけど、観光客が少しずつ増えているわ。恐らく、レムリア復活が関係してるんでしょうけど、北の関所の方で騒いでたわ。大体こんな感じね。以上!」
手に持っていた報告書を纏めて、バン!と机に出すアメジスト。
「ありがとう。後は休んでて。」
久しぶりの代理も疲れるなぁと部屋を出て行くアメジストを横目にディアナ達に向き合うレムリア。その瞬間、跪く妖狐達。
「久しぶりだな、ディアナ。そして皆。探し物は見つかったかい?」
「レムリア様より授かりし妖魔石。しっかりと奪い返しました!お久しぶりです。我ら妖狐一同、再びレムリア様にお会いできた事、大変嬉しく思います!」
その瞳からは涙が溢れていた。