63話 サンダーボルト
「それで?結果を聞こうか。」
サンダーランドの王、レッド・ブラックがイリアーノ国から戻ってきたレムリアとスモーキーに問いかける。フローラ、ウィンドウと妖狐たちは先にレムリア国に戻っている。
「結果的に言えば、身内が引き起こしていた。実は…」
レムリアはレッドに事の顛末を話していく。レッドの顔は次第に険しくなっていき、話終わる頃にはレムリアを睨んでいた。
「つまりはあれか?もうお菓子は手に入らないと?」
「そうだ。」
「ふざけてんのか?結局はお前の部下がしでかした事だろうが。この責任どう取るつもりだ?」
レッドはゴブリンとは思えない程のオーラ遠放つ。
「騙していた事は申し訳ない。お詫びとして、一年間お菓子を贈る。」
「お菓子は当たり前だ。問題はこの俺を騙していた事。表出ろ。お前をぶちのめさなきゃ、気が済まねぇ。俺が勝ったらお前を一生こき使ってやるからな。」
「レムリア様、大丈夫でしょうか?」
「ん、簡単にやられないように頑張るさ。ラピス相手に戦ってるしな。たぶん大丈夫。」
「いえ、逆ですよ。逆…。」
「え?」
「やり過ぎないでくださいよ?」
スモーキーは知っている。レムリアがラピスと喧嘩した後の場所が更地になっている事を。まだ、国外でやり合っているので、国がめちゃくちゃになる事はない。スモーキーが心配しているのは、うっかりレッド・ブラックを倒してしまいサンダーランドとの抗争にならないかという事だ。サンダーランドの住民達一人一人はあまり脅威ではないが、レムリア国と比べて圧倒的に数が多い。持久戦になるとこちらが不利になる可能性がある。なるべく穏便に済ませたい所。
「ふふふ、安心しろ。お前達が思ってるほど俺はヤワじゃない。それよりもお前の国王の心配をしときな。」
ニヤリと不敵に笑うブラック。
「レムリア様。思い切り暴れて頂いて構いません!」
それを聞いてキレるスモーキー。
そして、3人は城の外へと出る。向かった先は城から少し離れた闘技場…のような場所。長年手入れされていないこの場所はかなりボロボロだった。
「さぁ、地面に背がついたら負けだ。死んでも負け。勝ったら一つ敗者に命令出来る。準備は良いか?」
「いつでも良い。」
両者、適度な距離を取り対峙する。
観客席にはこの国に住む亜人達が二人の戦いを見物しようとしていた。皆、血に飢えているようで騒がしい。観客同士で喧嘩を始めている者もいる。そんな中、スモーキーは静かに見守っている。
しばらく睨み合っていた二人。ここでブラックが動く。ゆっくりと右手を上げ、人差し指をレムリアに向ける。その瞬間、指先から電撃が放たれた。その電撃は一瞬で距離を詰め、レムリアの身体を貫く。そしてその場で膝をつくはずだった。
「やはり魔王。このくらいでは効かないか。」
「雷にしては遅くないか?」
「今のはちょっとした挨拶さ。なぜこの俺様がサンダーボルトと呼ばれているか、たっぷりと味わわせてやる。」
両手を広げ電撃を放つ。レムリアはそれを確認し、すぐに回避する。逃げたレムリアを追うブラック。身体に帯電させ、身体能力を上げている。走りながら電撃を放っており、このままレムリアを追い込む算段だ。しかし、レムリアはそれをひょいひょいと躱していく。
いつまでも逃げ続けるレムリアに苛立ちを覚えたブラックは電気の出力を高め、レムリアに急接近し、バチバチに帯電させた右拳で殴りにかかる。その瞬間、今まで背中を向けて逃げていたレムリアが急に振り向きその拳を素手で受け止める。
「おうおうおう!面白えじゃねーかよ!」
普通であれば感電しながら吹っ飛ぶ攻撃を、難なく受け止めるレムリアを見てテンションが上がるブラック。すぐに蹴りを入れる。レムリアも同じく蹴りを入れ、ブラックから距離を取る。
「サンダーボルト…なるほど。なぜゴブリンが魔王なのか、と思っていたが、その理由が分かったよ。確かに強い。しかし、その電撃なら対処出来るぞ。」
ブラックの電撃は喰らうとビリビリくる。しかし、レムリアは電撃の受け流し方をアメジストから伝授していたのだ。
「なら、やってみろやぁ!」
ブラックは両手を前に出し、電撃を乱れ撃つ。それに対しレムリアは左手を前に出し構える。ブラックから放たれた電撃は全てレムリアの左手に吸い込まれ、身体を通り地面に流される。レムリアは全身の痺れを感じつつも、身体の具合を確かめるかのように各部位をゆっくり動かす。
「ふっ、面白え。じゃぁ、こんなのはどうだ?」
ブラックは全身に電気を張り巡らせる。そしてすっと脱力した瞬間、レムリアへと一気に距離を詰める。そのスピードは宛ら稲妻のようだった。一瞬のうちに距離を詰めたブラックはそのままのスピードでレムリアのお腹に正拳突きを繰り出す。この攻撃を防ぐには、そのスピードに勝る速さで防御するか、鉄壁の防御力で耐えるか。ブラックはこの最速の攻撃に自信を持っていた。これを防ぐ事が出来るのは魔王クラスの者。目の前にいるこのレムリアがこの攻撃を防ぐ事が出来なければ、魔王失格。そのまま倒し、自国へ奴隷として迎え入れるつもりだ。
ブラックはレムリアを気に入らなかった。見るからに弱そうな見た目で千年前に一度死んでいるという。つまりは敗者だ。そんなレムリアが堂々としている事が許せなかった。ブラックは、力こそ全てという考えの持ち主。一度負けた奴に発言権は無いと思っている程だ。だからこの戦いで目の前にいる一度復活した魔王を見定めようとしていた。目の前にいる少女の姿をした魔物が本当に魔王なのか否かを。