61話 両者ぶつかり合い
もっと表現力を身に付けたい…。
ミラトリノ城の大広間にて、レギオン王につく兵士と、ステラ王女につく国民、そして兵士達が争っている。
争っているといっても、殺し合いをしている訳ではない。暴動を抑える為、ステラ王女達を拘束したいレギオン側兵士達。ステラ王女を守る為、レギオン側の兵士を足止めしたいステラ側、国民&兵士達。
「レギオン王に歯向かうとは、愚かな…!」
「我々はステラ王女の考えに賛同したまでだ!最近のレギオン王はおかしい!お前達も気付いているはずだ!」
「どんな命令があろうと、従うまでさ。よってこの場にいる全員逮捕する!」
レギオン側の兵士の方が数は少ないが、1人もこの大広間を突破させてはいない。1人で数人を相手にしているが、疲れた様子を見せないその姿にこのままでは埒が開かないと思ったのか、ステラ側のリーダー格の兵士が叫ぶ。
「ステラ王女!今我々が足止めをしている隙に向かってください!ここはお任せを!」
「…すまぬ!皆、無事でいてくれ!」
それを聞いたステラが後方集団から飛び出す。手には青白く輝くカトラスを持っている。このカトラスは昔、とある冒険者と行動を共にした時に入手した氷属性が付加された武器だ。そう、ステラ王女は戦えるのだ。その剣術もなかなかのものだ。というのも昔、レギオンと剣術の稽古をしていた事がある。
ステラは兵士達の攻撃を往なしつつ前に進む。しかし、ステラが飛び出した時からレギオン兵士達がそちらに向かい、思うように前に進めないでいる。
そして、ステラ兵士への戦力は手薄状態だ。しかし、ステラ側につく国民と兵士達に割く人員が減っているはずなのに、ステラ王女に助太刀しに行けない。向かおうとすれば攻撃を入れられる。しかもこちらは国民を護りながらの戦闘だ。思うように動けないでいる。先程、ステラ王女にお任せくださいと言ったばかりだが、状況はあまり良くない。そもそも目の前で複数人を相手している兵士達がおかしすぎる。ここまで我々と戦力差があるだろうか…?
状況は変わらない…。
ステラについている国民達の疲れが見え始めた頃、いきなり奇妙な音と、空気が凍りつくような冷気を感じた。その音のした方を確認すると、カットラスを右手に持ち薙ぎ払ったと思われるステラがいた。そのカトラスから放たれたと思われる斬撃がそのまま氷となり、向かう先の相手を凍らさんとばかりに迸っている。
その向かう先にいるのはレギオン側の兵士達。この技により、氷の斬撃が当たるとその当たった箇所を凍らせてしまう。かなり強力な技だ。しかし、これに当たる兵士はいなかった。その斬撃の軌道上にいた兵士達は全員避けた。誰一人として当たる者はいない。
「ふふ。やはりな…。お前ら全員ミツネの部下だろう?正体を表せ!」
ステラは自分の攻撃を避けた者達を睨む。
「何を言っているのです?我々はレギオン王の部下です。さぁ、大人しく捕まってもらいますよ。」
「いや、やはりお前達はこの国の兵士ではない。何故なら、この国の兵士が自分達の事を指すのに使う言葉は『レギオン様に仕えし兵士』と謎の韻を踏む!そして、本当の兵士達は…」
ステラが言いかけた時、外に通じる廊下の扉が勢い良く開けられる。
「お待たせしましたステラ様!ただいま帰還いたしました!」
「良いタイミングだ、お前達!」
「何故、あいつらが!?村に派遣したはずなのに…。」
ドンと勢い良く開けられたドアから兵士達が雪崩れ込んでくる。その兵士達はミツネがゴブリン襲撃を警戒して送り込んだ者達だった。この場に来るはずのない兵士達の姿に動揺するレギオン側の兵士達。
それを見たステラ側兵士達と国民が勢いを取り戻す。
「どうだ驚いたか!周辺村への派遣を王の命令と言っていたが、そういうのはレギオン様直々に言い渡す!怪しいと思って呼び戻したのだ!」
「さぁ、分かったらそこをどけ!私はレギオンに会いに行く!」
「ふん!会えるさ…。牢屋の中でな!」
両者、剣を交えるその瞬間…上の階へと続く階段から静止の声が掛かった。
「待て!よく来たな。こんなに人数を集めて…。その様子だと、わしに文句があるのだろう?…さぁ、聞いてやる。言ってみろ。」
それを聞いた瞬間、体が勝手に動き出すステラ。怒りに身を任せ、レギオン王に向かって走り出す。そして怒りの雄叫びをあげ、レギオン王の顔面に拳をストレートで打ち込む。
「痛いではないか…。」
「私は言いたい事がいっぱいだよ!」
カットラスでレギオンに攻撃するステラ。レギオン王はその攻撃を自身の武器である斧で受け止める。片手剣程の大きさで装飾過多な斧。一見するとただの観賞用のようでもあるが、レギオンはこの斧で数々の戦果を挙げてきた。
「ふん、政治の事だろう?我はこの国の為に動いている。それが何故分からん!」
「分かるか!この国は他と比べて豊かだ!農業も安定している!増税なんてしなくても問題ない!意味不明な徴収もやめろ!国民を苦しめるだけだ!だからこそ今日、皆ここに来たんだ!」
ステラとレギオン。お互いの主張を武器を交えながら言い合う二人。その姿にその場にいた者達は圧倒されていた。
「ステラ様があんなに怒ってるの初めて見たかも…。」
「俺もだ…。」
「お前は何も分かっていない!」
レギオン王は攻撃の手を止め、懐に手をやる。取り出したのは手の平の大きさの石だ。
「国宝・豊穣の奇石この国の農業はこの石があったからこそ実現したもの。そして繁栄してきた。しかし、どうだ?この石はこれからも力を発揮し続けるのか?その保証はあるか?…もし万が一、そのような事が起こった場合一体どうする?今ワシが増税や徴収などを行っているのはもしもの時に備えての事。この国の民皆が笑顔で居続ける為のものだ。」
「ちゃんと、皆を見ろよ…。笑顔なのか?話を聞いたか?この国の繁栄はこの国に住む者達によるものだ!皆が皆努力して作物を育ててきた結果だ!そんな石によってもたらされたものではない!いい加減目を覚ませ、レギオン!あんたが見なきゃいけないのは国民だろうが!耳を傾けるべきは国民だろうが!あんなインチキ占い師なんかじゃない!」
「…ステラ……。お前…。そうだ。そのはずなんだ…。ワシはずっとお前の言う、全員が笑顔に。という言葉通り、この国を良くしていきたいと思ってた…。それが、それなのに…。どこからおかしくなったのか…。ミツネの言葉が正しいと思い込んでいた。すまん…!」
「謝るべきは国民だ。一緒に謝ろう。大丈夫、また私が側にいるから。」
「まだ、ワシの側に居てくれると言うのか…。このワシの…。」
「当たり前だ。間違った事をしたら、正しい方向へと導く。それが夫婦だ。」
自然と涙が溢れるレギオン。その表情はどこか穏やかなものだった。憑き物が落ちたようにも見えた。
しかしそんな時、無情にもその空間は壊された。
「やっと出してくれた〜。この時を待っていたのよ、私。」
「え…レギオン?ねぇ!なんで…レギオン!」
「ステラ…落ち着け…。この程度では……死なん……ごはっ。」
レギオンは、背後からミツネによって腹を素手で貫かれていた。そのミツネの手には豊穣の奇石が握られていた。