60話 イリアーノの国王
「報告します。ステラ様が複数人の国民を引き連れて城に侵入してきました。入り口前で抑えてますが、突破されるのも時間の問題かと…。」
玉座にどっしりと構えるレギオン王は耳を疑う。
「は?すぐ制圧しろ。ステラはともかく相手は国民だろ。」
「それが…、ステラ様が引き連れているのは国民だけでなく、兵士もいるのです。今、イリアーノ国周辺の村にほとんどの兵士を派遣していますので、戦力差が出ております。」
「なぜステラに兵士がついてる!?村に派遣したのはミツネか…?」
「はい。ゴブリンを警戒しての措置だったのですが…。まさかステラ様が来られるとは…。」
「くっ。お前も加勢に行け。この騒ぎを抑えなければ…。ステラに分からせなければ…あいつが言った事を……わしは………。」
「国王…。」
「さっさと行け!」
「は!」
兵士は足早にその場から離れ、騒ぎが起こっている城入り口へと向かう。
兵士が部屋から出た事を確認すると、頭を抱え蹲る
「やはり、説明せねば。ここまで事が大きくなってしまったのだ。どうしてこうなってしまった…。わしは、ただ…。」
王は昔を思い出す。それはまだ彼が王位に就いたばかりの頃。その当時のイリアーノ国はまだ農業が盛んではなく、人々の生活は貧しいものであった。周辺の村ではゴブリン等の魔物の被害もあり、今以上に危険と隣り合わせだった。レギオンはこの人々の生活をどうにかせねばと躍起になっていた。
しかし、レギオンはあまり頭が良くなく彼が考える政策はことごとく失敗する。そこで、側近の一人であった聡明な男を摂政とし、国の改革に取り組む。その結果、一時期は国民の暮らしの水準も高くなったが、それと同時に、レギオンの体調が悪くなっていった。摂政が執務を行いつつ、看病していたが、一向に良くならず悪化していく一方だった。
そんな時、幼い頃一緒に遊んでいた女性が現れた。それがステラだ。その当時の彼女は城で働いている身だが、身分が違うので、必要以上の接触は彼女の方から避けていたのだ。しかし、日に日に弱っていくレギオンを見て、居ても立っても居られず看病を申し出た。その後は医者と共に献身的な看病の甲斐あって、レギオンは回復していった。
その後の調べで、摂政がレギオンに毒を盛っていた事が判明、逮捕された。レギオンを殺害し、王位を奪おうとしていたらしい。
事件後、落ち着いてからレギオンとステラは話し合った。昔の事、近況報告、これからこの国をどうしたいか。
今も昔も変わらず同じ場所にいたはずなのに、遠く感じていた二人。この日からとても近い存在となった。
それからは二人でいる事が多くなった。レギオンと違い、ステラは頭が回る。レギオンのサポートをするようになってからは国も少しずつ良くなっていった。レギオンはステラの支えで執務を頑張れた。
「急ぎ足じゃなくて良い。自分のペースで良い。時には他人を頼って欲しい。なんでも自分でやろうとしないで…。周りには助けてくれる人が沢山いるのだから。貴方はこの国の人達を助けて欲しい。皆んなが笑顔になれるような国を目指して欲しい。」
ステラのこの言葉は忘れない。その時の笑顔を忘れない。この時の自分の気持ちを忘れない。
そのはずだった…。しかし、今はどうだ?大喧嘩して、国民を巻き込んで……。
今のわしは何がしたい?何がこのようにさせたのか。わしはあのステラの笑顔をもう一度見たかったのだ。それなのに、わしはひどい事を言った。さらに国民を苦しめている。いつからだ?あの石を入手した時から?
いや、それは違う。あの石はわしが毒殺寸前までいった事件のすぐ後に、イリアーノで逮捕した闇商人から押収した物だ。あの石を所持した年から我が国に豊穣と富が訪れた。それからあの石を「豊穣の奇石」と呼んでいる。
あの石からこの国が豊かになったのは確かだ。ではどこから歯車が崩れた…?
いや、今は考えてる暇はない。話し合おう。今のわしなら冷静になれるはず…。今のこの状態であれば……。
王は立ち上がり、ゆっくりと部屋を出て行く。激しく揺れる気持ちを抑えながら、向かうべき人のもとへ。
それを見ていた人物が一人。
「さて…どうするつもりかしらね?国王。」