49話 防衛戦.前編
長くなりそうだったんで、前編と後編に分けます。中編になるかは分かりません。
レムリア達がステマニア国にて諜報活動を行なっている頃、冒険者達がレムリア国へ向かっていた。
「なぁ、ギルドからの情報って本当なのか?魔王が復活したかもしれないって…」
「あぁ、だが確信が持てないらしいな。んで、俺達に調査させると、そういう事だ。まぁ、報酬は高いしな。その確率は高いだろ。」
「しかし、それが本当だとして俺達だけで大丈夫か?冒険者チームでも低ランクだぞ俺達…」
「大丈夫でしょ。なんせ今までずっと魔王不在だった国よ?魔王が復活したからといってそんな直ぐに魔物達が強くなる事なんてないでしょう?ギルドから説明を受けた時もあまり強い魔物はいない、との事だったしね。」
「それにCランクチームが二組いるんだぞ?」
「あぁ、炎扇団と血刀組だな。どちらも手練れだ。この二組がいれば心強い。」
魔国へ向かう冒険者達は皆チームを組んでいる。3〜5人で構成されたチームが合計9チームだ。彼等は2チームを除いてEランクの冒険者チームだ。冒険者はその実力によってランク付けされる。一番高いのはSランク。そこからA、B、C、D、E、Fとなる。Fが最低ランクだ。冒険者になるとまずFランクから始まる。それからはその働き、討伐したモンスターによって、昇格していく事になる。
そして、今回任務についている冒険者チームにはCランクが2組いる。それが、4人で構成された炎扇団。そして3人で構成された血刀組だ。もちろんEランクチームとは違い強い。何かあれば、彼達が頼りになると皆が思っていた。しかし、実際は戦闘が始まればそんな考えを捨てる事になる。
そんな話をしているうちに、とある草原まで歩いてきた。数キロ先には森が見える。
ガサガサガサガサガサガサッ!!
「戦闘態勢!前方に大蛇だァ!!!」
先程まで会話していた冒険者達は一斉に戦闘態勢をとる。視線の先には自分達より遥かに大きい大蛇が鎌首をもたげていた。その大蛇とはラリマの子供、ラブだ。
早速弓を装備している者達はラブに狙いを定めて矢を射る。しかし、硬い鱗に阻まれ矢は身体を貫く事が出来ない。それを魔術師達が確認した後、すぐさま魔法詠唱を始める。詠唱が終わり自身の最大魔法を放とうとした時、邪魔が入る。
「ギィィイーーー!!!」
「グギャアアアーーー!!!」
魔術師達の死角から黒い影が凄まじいスピードで迫り、攻撃を加える。そのスピードに誰も反応する事が出来ず、まともに攻撃を喰らってしまう。何人かはバリアを張っていた為、無傷だった。
「今度は、特大のネズミと同じくらいデカい蜥蜴かよ…」
「ちくしょー!この蛇攻撃が効かねぇ!」
「シャァァアアーーー!!!」
「こっちの蜥蜴もだ!かてぇ!」
このネズミと蜥蜴というのもラリマの子供達、ラドとライの事だ。
近接武器を持っている者達は必死に3匹に斬りかかっていくが、ラブとラドには硬い鱗によって致命傷を与える事は出来ない。
「このネズミには斬撃が効くぞ!まず、このネズミを狙え!!」
冒険者達は狙いを1匹に絞り追い詰めて行こうとする。しかし、子供達もただでやられるわけではない。冒険者達がライに狙いを切り替えた事で、作戦を変更。ライを囮にし、ライに気を取られている冒険者を残り2匹が倒していくという戦法をとった。
これにより、冒険者達の数はかなり減った。
「これ以上、被害を増やすわけにはいかねぇな!」
炎扇団のリーダーがライの前に飛び出す。手にはフランベルジュが握られている。このフランベルジュというのは刀身が波打っており、この剣で肉を切り裂くと止血が難しくなる為、殺傷能力が高いというとても凶悪な得物だ。炎扇団リーダーはこの剣に更に炎を纏わせている。
「はぁぁぁ!!!」
飛び出した勢いそのままに普通のネズミとは思えないサイズの魔獣、ライに向かって行く。ライはそれを待ち受けるかのように構える。ライの武器は齧歯、爪、尻尾、そして瞬発力。その内の尻尾をいつでも振るえるように力を溜める。彼はこの尻尾を鞭のように扱い戦うスタイルを取る。
二人がぶつかり合うその瞬間、炎扇団リーダーの姿が陽炎のように揺らめいた。ライはそれを気にせず、尻尾をしならせ相手に叩き込む。最高の力とスピードで繰り出された尻尾の一撃は空振りで終わった。
リーダーはライの攻撃によって、消え去ってしまった。それはまるで蜃気楼のように。そしてライは右側から殺気を感じ、右前足で顔を守る体勢にはいる。ライの爪はかなり硬く、剣や弓矢などを弾く事ができる。ライはこの爪で防ごうとしたのだ。
しかし、ライの右前足に痛みが走る。何が起こったのか確認すると、視界に自分の物であろう前足が炎に包まれ、宙に浮いているのが入ってきた。そう、この男に斬られたのだ。切断面から血が噴き出す。ライは動揺する。今まで沢山の冒険者達を葬ってきた。捕食してきた。しかし、この目の前の男は自分の防御を掻い潜り、自分に傷を負わせた。強い。ラブとラドに援護してもらおうと2人を見るが、彼等も苦戦しているようだった。炎を武器に纏わせ戦っている3人がいる。こいつの仲間だ。周りの冒険者達もこれに勢い付き、仲間を追い詰めている。
「何をよそ見している?あいつらはお前の仲間か?どちらかと言えばお前は奴等に捕食される側だと思うが…ふん、まぁいい。これ以上、人間を捕食する事は許さない。ここで終わらせる!」
そう言い、炎扇団リーダーは地を蹴り一気にライへと突っ込む。ライは動けないでいた。生まれて初めて恐怖というものを感じていた。自分の顔は見えないが、おそらく引き攣っていたと思う。こんな屈辱は初めてだ。迫り来る恐怖にライは死を覚悟した。
炎扇団リーダーがライを斬りつけようとしたその時、ライの背中から緑色のドロっとした物体がグニャリと現れて、弧を描くようにしてライの前を覆うように被さり、そのままライを斬りつけようとしていたフランベルジュを受け止める。自身の攻撃を防がれたリーダーは後ろへ飛び退く。
「な、なんだ…こいつ?」
「おいおい。あまり調子こくなよ?小僧…この子が傷つきゃ、親分が怒るんだわ。本当はお前をぶち殺してやりたいが、あたいには最優先事項ってのがあるんでね…お相手出来ないのが残念。この事はきっちり親分に報告するんで…覚悟しな。」
その緑色の物体はそう言うと、ライの右前足切断面に覆い被さった後で、身体全体を包む。炎扇団リーダーはこの物体が言葉を発した事に驚いていたが、我に返り攻撃を試みる。しかし、その物体は斬った感触がなく、段々と小さくなっていくそいつをただただ斬り続けるしかない。やがて掌サイズ位になったそいつはかなりのスピードで森の奥に消えていく。急いで追いかけようとしたその時、足元から殺気を感じ、思わず飛び退く。
するとそこには先程の物体のような青色の物がいた。
「スライムか…」
先程の緑色もスライムだろう。スライムが魔物を庇った…そして奴の言う親分とは…?そいつが魔王なのか?分からない事が多い。しかし今は目の前のスライムを対処しなければ。こいつは先程魔獣を連れ去った個体よりは弱そうだ。後方にいる仲間を見る。大蛇と大蜥蜴を相手にしているはずだ。ネズミが逃げた為、必要があればそちらの援護にまわるつもりだった。しかし、そこにいたのは複数のスライムだった。おそらく、ネズミと同様に撤退したのだろう。となればやはり森の奥に向かうしかない。他の冒険者も10数名は残っている。ここは彼等に任せて炎扇団で先に向かった方が良いかもしれない。
「リーダー!あの蜥蜴と蛇がスライムに捕食された!!ここら辺はスライム達の縄張りみてぇだ。ウヨウヨいるぞ!おそらくあの魔獣達を食ったのがここらのボスだ。追うか!?」
捕食?いや、違う。このスライム達とあの魔獣達は完全にグルだ。手を組まなそうな連中が連携しているところを見ると、そいつらを操っている奴がいる。そいつの存在だけでも確認できれば…
「あぁ、追う!無理のない範囲でだ!例のスライムを追うのは炎扇団!それ以外はここのスライム達を討伐してくれ!!」
「了解だ!だが、一つ気掛かりがある!いつの間にか血刀組が居ねぇ!あいつらも居たらこんなに負傷者を出す事なんてなかったはずだ…」
「そ、そうだ!そういえば、魔獣と接敵した時から見当たらなかったぞ!逃げ出したのか?あいつら本当にCランクなのか!?」
冒険者達は皆騒ぎ出す。炎扇団と同じCランクチーム血刀組がいれば結果は変わっていたはずと。しかしここに彼等は居ない。居ない奴の事を考えていても仕方がないと気持ちを切り替える炎扇団リーダー。
「居ない奴の事は後だ!今は目の前の問題を片付けるぞ!ここのスライム達は任せた!炎扇団、行くぞ!!」
「「「おう!!」」」
こうして炎扇団4人は飛びかかってくるスライム達を斬り、焼き付けながら森の奥へと向かう。
冒険者達とスライム達が戦っている平原の上空。そこに戦闘の様子を観察している3人がいた。夜を支配し美女の血を啜り闇に生きる魔物、吸血鬼。このレムリア国の魔王の眷属であり、ステマニア国ではCランク冒険者チーム血刀組として諜報活動をしている者達だ。それぞれ名をアリオス、イオル、ラフィという。彼等は日光の下でも行動できる。始祖に近い存在だ。
「イオル、お前の予想通り炎扇団の連中が奥へ向かったぞ。」
「えぇ、やはり妖虫さん達に後方で待機してもらったのは正解でしたね。しかし、1チーム見当たりませんね…確か彼等は後方待機で異常事態があれば引き返してギルドに報告するとなってるはずですが…」
「まさかもう引き返しちまったか?」
「いや、それはないっす。さっきから後ろをずっと見てたっすけど、そんな奴等誰も居なかったっすよ。」
「じゃ、ここらにはいるな。探すか…どうせすぐ見つかる。」
「はい。そのチームにしましょう。半殺しは。」
「殺さないんすか?」
「ラリマ様から言われていたでしょう?皆殺しにしたら向こうが持つこちらの脅威度が必要以上に高くなると。我々だけでなく、本当の冒険者の情報もギルドに報告させて、混乱してもらうのが狙いです。まぁ、放置してそのまま死んでしまったらそれはそれで仕方ありませんがね。」
「ようし、お喋りはここまでだ。仕事に移るぞ。烏天狗に見られたら絶対チクられる…」
「了解です。」
下で戦っている冒険者達は知らない。自分達に明日は無い事を。