46話 接触
なるべく間隔は空けないようにしたいのですが…
お待たせしてすみません。
さて、エレス様にも状況を報告しましたし、アクアさんの為にも街を少し散策しますかね。それに、まだ見つけていない本屋ないしは本を置いてある所を発見出来るかもしれませんしね。
ステマニア国の商店街エリアをアメジストのドール、グリーンが歩いている。料理本を入手するという目的を遂行しているのである。しかし、今の彼女は手ぶらだ。因みに、グリーンにも偽装魔法、そして制魔の指輪を装着している為、見た目は普通の人間と変わらない。
「…あの。先程から私についてきて何か用ですか?」
グリーンは数分前に本屋を出てから付きまとわれている謎の男がどうしても気になり声を掛ける。見た目はそこらの一般市民とは違う。背中には弓矢、腰には短剣を帯刀している。服装は革製の為、冒険者といったところだろう。怪しまれている可能性を考慮しつつ慎重に問いかける。ただ、アメジストの偽装魔法を見破られる者はそういない。ましてや目の前の男など、どうしても魔法に精通しているようには思えない。負ける事はないだろうが、今は問題を起こさない為、何かあれば即撤退。アクアと合流する事となっている。
「あ、いやいや。実はおねぇさんが本を数冊買ったあと、それを鞄なんかに入れるんじゃなくて、何もない所に仕舞ってたのを見たもんで…どこに仕舞ったのかな〜と。」
男は笑顔を浮かべ、ただただ疑問に思った事を聞いただけだ、というような雰囲気で優しく問いかける。
「それを聞いて貴方はどうするおつもりですか?」
グリーン達ドールズは所持品を自在にレムリア城地下の大図書館にある、それぞれに割り当てられたアイテムボックスに収納する事が出来る。ドール体内に埋め込まれている数石の魔石に組み込まれた術式でどこにいてもそのアイテムボックスにアクセス出来る。
料理本もそのアイテムボックスに入れたわけだが、何も知らない人から見ると、何もない空間に入れたように見れるのだ。グリーンは誰にも見られないようにしていたつもりだが、この一見チャラついている男に見られてしまっていたらしい。
「いや、実は俺こう見えて冒険者をやっているんだけどな?おねぇさんをスカウトしたいのよ。もちろん強制じゃない。危ない仕事だしな。でも、俺が所属してるチームはここの国ではそこそこ有名で、自分で言うのもあれなんだが結構強い。ランクも上の方だから報酬の高い仕事を受けられる。なあに、おねぇさんにはさっきの魔法かな?そいつで、荷物を収納してほしいのよ。そうすれば、任務遂行も随分楽になるだろ?なあ?」
「結構です。私はやる事があるのでこれで失礼します。」
「おいおい、いいだろ?話を聞くだけでもさぁ。俺の仲間も紹介するからさぁ。」
「いえ、本当に結構ですから。そもそも貴方強そうには見えませんし。私急いでるので。」
グリーンが足早に去ろうとするも、その男はしつこく言い寄る。思わず、風魔法をぶち込もうとしたところで、その男を止める者が現れる。
「何やってるんだ!レイル。またナンパか?うちのものがすみません…」
「いえ、私は急いでるのでこれで。」
「ナンパとはまた違うんだがよ…このおねぇさんがさ、本を空間に仕舞ってたのを見たんだよ。この能力がありゃ、今後の仕事も楽になるかな〜とな。」
「へぇ、そんな能力を…だが、それで無理くり勧誘するのは違うだろ。あんまり強引な勧誘をしているとそのうち評判悪くなるぞ。やめてくれ…」
グリーンをナンパしてきた男の他に、このリーダーと思われる大剣を担いだ男。マジックワンドを握りしめた小柄な女。そしてバスターソードを帯刀している目つきの悪い男。4人チームらしい。
これ以上関わるのを避ける為、今度こそ去ろうとするも、また失敗する。
「何をしたのかしら。貴方からは魔法を使えるような魔力を感じないけど…それにどこか雰囲気がおかしいのよねぇ。何者なのかしら。」
この小柄な女…何かしらの探知系魔法を使っているのか、こちらを妖しげに光る瞳で覗いてくる。
「こら!だからあまり詮索は…」
グリーンは完全に去るタイミングを失ったと判断し、全速力で走るという強行突破に出た。
油断していた4人は即対応する事が出来ず、その隙にグリーンを逃してしまう。
「あ、逃げたわ!逃げるという事は何か疾しい事があるのよ!追うわよ!」
「おう!絶対にチームに入ってもらうぞ!」
勧誘男と小柄女が勢いよく走り出す。
「ちょ!2人とも…まったく!」
「何やってるんだあの2人は…」
遅れて残り2人が走る。
ここから1人の少女を追いかける冒険者4人が街中で噂になる事は言うまでもない。
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ステマニア国は城を中心に、3つのエリアで構成されている。それが城下エリア、商店街エリア、住居エリアだ。そして、公式にエリア認定はされていないが、貧民街エリアというのもある。ただし、街の地下にある下水道に人が勝手に住み着いている為、そう呼ばれているだけである。
そのエリアの1つ、住居エリアの街並みを記録している少女がいる。それがレムリア国の技術者、アクアである。彼女は人間が住んでいる街並みを参考にする為に偵察していたのである。城下エリア、商店街エリアと記録して、住居エリアとやってきた。
「いやー、なるほど。建物自体も参考になるし、スペース確保、それぞれのニーズにあった建物か…闇雲に建てれば良いってわけじゃないんだな…考えてもなかったわ…」
彼女は外観、デザインに拘る節がある。それぞれの機能性はあまり考えないタイプなので彼女の目にはどれも新鮮に映っていただろう。
「大体データはとれたな…そういや商店街の方が騒がしかったけど、何かあったのかな… まいっか!」
そろそろグリーンと合流しようと商店街エリアと向かおうとしたアクア。すると、その方向から全速力で走ってくる少女がいた。アクアの目の前で止まった彼女は一切息切れする事なく、口を開く。
「アクアさん、問題発生です。変な冒険者に絡まれました。早速逃げましょう!」
「随分といきなりな…どういうことか説明くらいはほしいけど…」
その時、商店街エリアから走ってくる小柄な女とチャラついた男が見えた。
「いーーーたーーーー!逃がさないわよ!」
「意外と足速いねきみ!やっぱり仲間になりなよ!」
グリーンは有無を言わさずアクアの腕を掴み、走り出す。
「ぎゃーーーー!グリーン!!いきなり腕掴むなぁーーー!!」
「とりあえず、人目につかない所まで逃げて転移しますよ!」
アクアまでを巻き込んだ追いかけっこはその日、街中でちょっとした噂になった。
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ステマニア国の冒険者ギルド。冒険者達が仕事を受けるのはもちろん、酒場でもあるこの場所は昼夜問わず、賑わっている。が、今は受付嬢、バーテンダー以外は誰もおらず、静まっている。
そんな時に、この冒険者ギルドに来ることなどないような少女2人が足を踏み入れていた。ギルドを見学したいという事だった。今は冒険者がほぼ全員出払っていた事もあり許可されていた。
2人はどのような依頼が出ているか、冒険者リストに登録されている冒険者、酒場のメニューをじっくりと見ていた。しかし、冒険者がいない事に疑問を覚えたのか、受付嬢に質問をする。
「そういえば、なんでこんなに冒険者がいないんですか?数人くらいはいると思ってたんですが…?」
「あぁ、実はですね…」
「私が答えてあげましょうかね。お嬢ちゃん達…」
受付嬢が答えようとした時、階段上から声が聞こえてきて、1人の女性が煙管を吸いながら降りてきた。それは滅多に人前に出ないギルドの長。受付嬢が驚くほど、ギルド長が出てくるのは珍しい事だ。
(げ、なんであんたが出てくるのよ…)
誰にも気付かれる事はなかったが、少女の1人は一瞬顔を歪めた。
「この近くの魔国へ調査しに行ってるんだよ。」
そう言うと紫煙を吐き出し、2人の少女を見て微笑んだ。
その薄紫の瞳は妖しくぼんやりと光っていた…