3話 異世界に来て最初の出会い
歩いていて気づく。そもそも、魔物が服を持っているだろうか。今の俺のように、人型であれば持っているだろうが、サイズが合うかどうかも分からない。そしてかなり距離がある。ちょうど半分まで来た所か…此処まで約3㎞はあったと思う。しかし、疲れはない。不思議だ。これだけ歩いているのに、汗すらかいていない。今が夜という事もあるかもしれないが…
そして、更に歩いていく。すると、少し道から外れた所に、建物を発見した。あまり良い造りとは言えないが、その中から先ほど感じていた気配がある。一応、自分は魔物という事になっているが、念のために警戒しながら扉をノックする。
「あのー、すみません。」
自分で言って自分で驚く。何だ?今の声。高い。まさに女の子の声。今までの声色は何処へ言った?等と思っていると、扉が開く。
「はい、どちら様?…って、何その格好!取り敢えず、中に入って!着る物持ってくるから!」
中から出てきたのは白い着物を着た女性。腰まである長さの髪の毛と瞳が青色だ。見た目は人だが、人間ではない。彼女の近くにいると、ひんやりする。雪女だろう。何故分かるかって?俺がゲームでデザインした雪女に似てるからだ。あとで確認しよう。
中に入ると、昔話に出てきそうなインテリアだった。部屋の真ん中に囲炉裏がある。火はついていない。端にはタンスがあったり台所があったり、明かりは蝋燭らしい。部屋全体が明るくなっているわけではないが、俺にしてみれば明るかろうが暗かろうが関係ない。
そうこうしている内に雪女が戻ってきた。手には黒い布がある。渡されたそれを広げてみると、黒色の着物だった。
「ごめんね、うち着物しか無くて…」
「いえいえ、これよりマシです!ありがとうございます。でも、着方が分からなくて…」
「じゃあ。私が教えてあげるよ!」
という訳で着物の着方を教えてもらった。終始うわぁ、おっぱい大きいねぇとか髪の毛綺麗とかスタイル良いとか可愛いお顔とか言ってくるので恥ずかしかったが、ちゃんと着る事が出来た。
そして、自己紹介する事になった。
「私はジララ・アイス・カルセドラ。ジララで良いよ。」
此処は素直に言うべきか…迷う所だが、ジララは着物を貸してくれた。俺の事を邪険にせず、何も聞かずに中に入れてくれた。言うべきだろう。
ジララは俺の今までの出来事を何も言わずに聞いていた。そして、話の途中からだんだん顔が青ざめていった。
「てことは…あ、貴方様はまま魔王?復活したって事ですか!?なんか見た事ある容姿だなぁとは思ってたんですが…レムリア様だったんですかぁ!?私なんて無礼な事を!!私なんかの着物を…ああぁぁぁ!」
「いや、落ち着いて?確かに体はその…レムリア?って、魔王なんだけど、中身は違うんです。魂が肉体に入ったみたいで。」
「そ、そうなんですね。しかし魔王に変わりはありません。私のこれまでの無礼をお許し下さい。」
「全然無礼だなんて思ってないです!話し方も戻してください!」
「わかりま…分かった。では魔王様も敬語やめて下さい。」
「分かった。でも、よく俺の事入れてくれたね。見た目人間なのに。」
「いや、そんな立派な角見て誰も人間だなんて思わないわよ?」
え?慌てて頭を触ってみると、確かに角の感触がした。
「鏡なんてある?」
「有るわよ。はい。」
鏡を覗いて見ると、自分の顔が映る。初めて見るけど、可愛い。こんな顔していたのか俺は。透き通った紅い瞳、小さくも高い鼻、ぷっくりした唇。整っている顔をしている。しかし、今は顔に見とれている暇はない。鏡を上にずらすと、頭から生える深紅の双角を確認した。まるで雄山羊の角のようだ。自分が魔王だと確信できる。
「ね?魔王様の種族って何かしら。私は周りから雪女って呼ばれているけど…悪魔とか?」
「いや、自分でも分からない。」
「そっか、まぁ、そうだよね。これからどうするの?」
「まだ、分からない。此処がどういう場所なのかも。だからまず教えてくれ!この世界の事を!」
「いいわよ。ではまず何から話そうか。」
こうして、ジララによる『この世界を知ろう講座』が始まった。