40話 吸血ハンティング
吸血鬼トリオはステマニア国のギルドにて、掲示板を眺めていた。この掲示板には様々な依頼書が貼り出されている。彼らはその中から一つを手に取り、受付に渡す。
「はい。…また薬草採集ですか。」
受付の若い女性はため息混じりに答える。
「また薬草採集だが、問題でも?」
「問題はありませんが…ギルドで冒険者登録をされてから、ず~~~~~~~っと薬草採集じゃないですか。同期の方はもう昇段手前まできているのですよ?そろそろ魔物退治をされても良いのではありません?ちょうど近くの村周辺に一角ラビィが現れたので、それの討伐依頼です。どうでしょう?」
「強制か?」
「強制ではありませんが。ギルドには若手育成の義務もあるので、上からそろそろ魔物退治をさせろと言われておりまして。…出来れば受けて欲しいのですが。」
三人は考える。今までは同士である魔物を狩るのを避けてきた。冒険者としてステマニア国に潜入し国の情報を収集するのが目的の為、一番低いEランクでも問題なかった。しかし、冒険者になった以上はランクを上げて、どんどん上を目指さないといけない。義務があるわけではないが、しなければ目立ってしまう。なるべく目立たないように行動しなければならないのでこれは避けなければならない。
「あの~、国外の魔物であれば、討伐しても良い、と言われてたのを思いだしたっす。」
「かぁ~。それを早く言えよ。よし、受けるか。」
「そうですね。高ランクの方が得られる信用もありますし、情報収集もやり易くなるでしょうし。」
三人の方針は固まった。こちらの様子を伺っていた受付嬢に向き直る。
「分かった。一角ラビィの討伐依頼を受けよう。」
受付嬢は不安な顔からパッと明るくなり、三人に感謝をしながら依頼概要を渡す。
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村へは徒歩で行く。道中で概要欄に目を通す三人。内容は最近急激に一角ラビィが現れたらしい。数ヶ月前までは、一匹見るか見ないか位の数だったがここ数週間で増幅したのだとか。
因みに、一角ラビィとは、カピバラ位の大きさのウサギ型魔獣で、頭に一本の角がある。雑食性で何でも食べる。故に畑や家畜、更には人にまで襲いかかり、食事にありつこうとする。可愛らしい見た目とは違って凶暴なのだ。ただ、彼らは魔物の中でも最弱の部類なので、冒険者初心者でも倒せる。素早い動きの彼らに攻撃を当てる事が出来ればの話だが…
そんな一角ラビィを討伐する事になった三人はライム村の村長に話を聞く。今の所、被害はあまり無いらしいが、村の柵には所々に頭突きしたような跡があり、木が抉られていた。うっすらと向こう側が見える事から、かなりの威力がある。これを人間が食らえばひとたまりもないだろう。
話を聞き終えた三人は一角ラビィの目撃地点へ向かう。このライム村はステマニア国とレムリア国の中間あたりに位置する。話によると、ここ最近魔物達の動きが活発になっているらしい。原因には心当たりがある。しかし、それをギルドに報告するつもりはない。調べればレムリア国周辺で魔物達が元気に活動している事は間違いない。あの方が復活しているからな。
強い魔力を浴びて活発になっている奴らが遠くに見えてきた。六匹固まっているのがわかる。よく見てみると、牛のような動物の肉を食べているらしい。彼らもこちらに気づいたらしく、耳だけを向けて食事をしている。どんだけ食い意地張ってんだ、と言いたくなる態度だ。
「ようし、二匹ずつで良いか?」
二人がコクリと頷く。
それを確認した吸血鬼トリオのリーダー、アリオスが小石を二個手に取る。そして、目にも留まらぬ速さで一角ラビィ目掛けて小石を投げる。その小石は一直線に二匹の一角ラビィに飛んでいく。一角ラビィが気付いた時には既に遅く、頭に直撃し、グシャリと頭蓋骨が陥没したかのような音を出し、糸が切れたようにその場に崩れ落ちる。
その様子を見た他の一角ラビィは三人を警戒する。何が起こったか理解出来ない彼等だが、少し離れた場所に立つ三人組はかなりの強者だという事は理解出来た。そしてその事を理解した四匹はそれぞれの反応を見せた。
四匹の一角ラビィの中でも厳つい顔付きの者と他より一回り身体が大きい者が突進をしてくる。自慢の角による頭突きを繰り出す為、最高スピードで迫ってくる。それはまるで弾丸のよう。しかし、残念な事にこの三人にその速さは通用しない。三人の中で一番若いラフィが前に出る。こちらに突進してくる一角ラビィの首根っこを掴み、お互いの頭をシンバルのように叩き付ける。自分たちのスピードに反応し、身体を捕まれた事に驚愕する。その後恐怖する間も無く、絶命する。
残り二匹はその光景を見る前に吸血鬼トリオの反対方向に走り出していた。彼等は恐怖でいっぱいになり、仲間の敵討ちの事も考えずに逃げ出していた。人間を襲った事はある。冒険者を相手にした事もしばしばある。奴等は自分たちのスピードに反応できず、一方的に頭突きを食らうだけだった。しかし目の前の敵…いや、後ろにいる敵はそんなチャチな者では断じてない。自分等は大きい動物を倒し肉を貪り食ってた。すると後ろの方にあの三人組が現れた。まだ自分たちが逃げきれる距離だったので、一応警戒はしていたが、食事は続けていた。柔らかくて美味しい部位にかじりつこうとした時、突然横の二匹が血を流して倒れた。改めて三人を見る。先ほどの場所から動いてない。突然の来訪者に恐怖を覚える。好戦的な二匹はやはりと言うべきか、攻撃する事を選んだ。自分は長生きしていたいので、さっさと逃げる。あの二人が頭突きしている間にここから離れよう。もう一匹も逃走を選択したようだ。こんな事なら大人しくしておくべきだった。変な魔力で強くなったと思って浮かれてた自分がバカだった。無我夢中で走っていて、後ろから近づいてくる存在に気が付かなかった。不意に空中を舞う感覚に襲われ、視界が一回転する。前を走っていたと思えば、地面が目に映り、逆さの世界が見えた。そこには血を流して倒れている仲間と、例の三人組の内二人が見えた。最後には青空が視界に映り、背中に強烈な衝撃と痛みが襲った。その痛みは永遠に続く事なく、自分の意識は深い闇の中に沈んでいった。まるで眠りにつくように。
逃げた一角ラビィを仕留めたのは吸血鬼トリオの頭脳担当イオルだ。彼は逃げ足の速い一角ラビィに追い付き、角を掴むと、そのまま一回転させ、地面に背中から叩き付ける。吸血鬼パワーで叩き付けた為、地面は抉れて一角ラビィの全身の骨は砕ける。それを確認したイオルは角を剥ぎ取る為、ナイフを取り出す。魔物を倒した際は身体の一部を持っていく事で倒した証明になる。本当に倒したかどうかの判断は鑑定士が見るらしい。一応虚偽申告は見破られる。
他の二人は剥ぎ取り終えたようでこちらを待っている。さっさと終えようと手を伸ばした時に異変に気付く。まだ息がある奴がいる。取り敢えず、もう一匹の角を剥ぎ取り、微かに息をしている一角ラビィをリーダーに見せる。
三人は話し合った結果、レムリアに見せる事にした。この一角ラビィから僅かにだが、レムリアと同じ魔力を感じたからだ。アリオスが自分の影から眷属の吸血蝙蝠を出す。護衛を含めた五匹で運ばせる。そして、それを見送った三人は他に一角ラビィがいないか捜索し、ステマニア国に戻った。
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ギルドの受付にて
「え…本当にこの数を倒したんですか?ほんとに?」
受付嬢の目の前には一角ラビィの角が十六個並んでいた。
「一角ラビィは剣で一撃で倒せる相手ですが、とても素早いので攻撃を当てるのが難しいんですよ。冒険者初心者の方だと一日に倒せる数は精々二、三匹です。それを十六匹って…鑑定士に見てもらうので嘘は通じませんよ?」
ギルド内にいる冒険者達に注目されている。今まで薬草採集しかしてこなかった低ランク冒険者がいきなり十六匹の魔物を倒したのだ。これで興味を示さない者はいない。三人が鑑定を待っている間、様々な目線が彼等に集まっていた。
「す、すごい…貴方達何者ですか?全部倒してるなんて!鑑定士も驚いていましたよ。無表情でしたけど…」
それを聞いたギルド内部はざわつく。それを気にする事もなく、三人はギルドを出ていく。この事は今後冒険者ギルドで噂が広がっていく事になるが、三人がそれを知るのは暫く後になる。