37話 疾風デリバリー
この前、『こんな夜更けにバナナかよ』と『翔んで埼玉』を見てきました。二作品共とても面白かったです。人生を生きる上で新たな価値観に出会いました。
作成した地図は直ぐに各区域に届けられた。それも天狗による最速便で。北は勿論、南、東、西、そして大図書館と魔城。レムリアのところには天魔であるクロコアが持ってきていた。
「す、すごいな。あれから二日目だぞ。そんな直ぐ出来るもんじゃないだろ。」
クロコアはその場で膝をつき、頭を垂れる。部下には絶対に見せない姿勢。今までその姿勢を取る事はなかった。その姿勢を彼の所属する国のトップに向けて感謝の念と共に取る。
地図には地形、建物が書かれたものと、そこに住む者や植物が書かれたものがある。どのように道を通すか考えやすいように工夫してある。ここまでの事を考慮して作成した天狗達に素直に称賛を送る。こういうのは声に出して伝えた方が良い、と生前の上司が言っていた。
「最速で最高の仕上がりだ。これで国の開発を始められる。ありがとう!」
「お褒め頂き、光栄です。しかし、我等の仕事はまだ残っております。そちらの方も行いますので、もうしばらくお待ちを。」
そうだった。彼らには温泉の源泉捜索も頼んでいるんだった。この分なら安心して彼らに頼めるというもの。
「期待しているぞ。」
「お任せください。」
二人とも悪い顔になっているに違いない。やっている事は別にやましい事でもないが。
その後、レムリア国から大勢の天狗達が飛び立つ。といっても、その殆どが烏天狗達。彼らは黒い彗星の如く、大空を駆け巡る。癒しを求めて。
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烏天狗から地図を受け取った大図書館の司書長、アメジスト。彼女はアイに注いでもらった紅茶に口をつけながらその地図を眺め、昔を懐かしむ。
「昔とあまり変わってないんだ、領土…あれ、この場所…私が人間だった時に使ってた修行場?国内だったんだ…レムリアに目隠しで連れて行かれたな~。まさか国内だったなんて。」
その後、地図を暫く眺め、グリーンに複写させる。国が変わっていく度に地図を更新させ、この大図書館に貯蔵するつもりだ。ここは大図書館、この国で大量の資料がある場所。自分の国の地図が無いなんてお話にならない。目の前にいる烏天狗に今後もよろしく、と言い紅茶を飲み干す。烏天狗は一礼し、部屋を出る。
「ねぇ、アイ。あの娘の名前何だっけ?ウェンド?」
「いえ、確か『ウィンドウ』だったはず…」
「そうだった。天狗って変わってるわよねぇ。」
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地図を配達する烏天狗。彼女は各区域を飛び回る。そして、今は東区域に来ていた。彼女が真っ先に立ち寄ったのは地図が必要とは思えない者達が眠っている場所。殻となった者達の安息の場、霊廟だ。中央に建っている立派な建物には入らず、霊廟の一番奥にある石造りの小屋のような建物の扉を開ける。中央の建物はレムリアが安置されていた場所だ。今回はそこには用がないが、その場所を通る時は一礼をするのを忘れない。その時に確認したが、扉は直されていた。
石小屋に入ると、地下に続く階段が続いている。彼女は迷うことなく、降りていく。地図を配っている今日、疑問に思う事ができた。何故、魔法使いは地下に住みたがるんだろう?きっと私には理解出来ない事だ。なんせ魔法使いなんて、変わり者だ。等と考えているうちに目的の場所に着いた。扉に控えていたドールが一礼し、扉を開ける。ドールといっても、少女のような可愛らしいものではなく、スケルトンだ。スケルトンがメイド服に身を包んでいる。冥土のメイドってか?やかましいわ!
「やぁ、よく来たね。ウィンドウちゃん。」
ワイン片手に黒いローブの骸骨が歩いて来る。私ごときの名前を知っているなんて…そりゃあ、烏天狗は木葉天狗より立場は上だけど…それでも私は下っ端だ。やはり魔法使いは変わっている。そもそも何でワインなんて持っているのだろう。まさか、呑んでるの?
ワインに視線を向けていたが、地図を渡す為に自分の鞄を取り出す。中から書き上がった地図を出し、目の前の骸骨、ハウラ様に差し出す。
地図を受け取ったハウラはワインを口に含みながら、それを眺める。その動作はアメジスト様と一緒だ。ちょっと待って、やっぱり呑んでる。どうなっているの?この身体。
「ありがとう。私は道の整備を頼まれているのですよ。これがあると、アクアちゃんやシディア三姉妹と打ち合わせしやすいです。」
「これが仕事ですから。お褒めの言葉は上司であるクロコア様にお伝えさせて頂きます。」
「あぁ、クロコア君にもよろしく。」
やはり弟子と同じ事を言う。魔法使いは皆そうなのかな?変な考えを魔法使いに抱きながら霊廟を出る。クロコアへのワインを抱きながら。
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ウィンドウは西区域に来ていた。そこで魔法使いのイメージが崩れたような気がした。
この虫達も地下に住んでる…ん?それは変じゃないか。やっぱり変なのは魔法使いだ。
実際には崩れていない。
「へぇ、これがレムリア国なんだぁ。」
「え、広くない?こんなに広大な国だったんだ。」
「ねぇ、ゴール姉様、ここに書いてあるのが西区域の森?」
「そうね。意外と広いのね。」
「マホ姉様、何で地図が二枚なの?」
「建物と住人の記録とかじゃないかしら?ほら、虫妖木って書いてある。」
同じ地図を三人で見ている。スパイダー様が姉二人に仕切りに質問している。私の方が詳しいのだが、一切質問してこない。余程、お姉さんの事が好きなのだろう。ワチャワチャしている三人は子供のようで微笑ましい。ただ、言動と服装はミスマッチだ。これもなかなか面白い。普段は関所の警備しか仕事が無いので、こういうのも新鮮で楽しい。
一通り地図を眺めた後、こちらに向き直りゴールが口を開く。
「レムリア様からはこの地図を元に国の開発をすると聞いている。地図というものを初めて見たが、これはすごいな。君の上司に宜しく伝えておいてくれ。」
「天狗って器用なのね。私達も負けてられないわ。」
「ありがとうね。ウィンドウさん。」
スパイダーの発言に固まるウィンドウ。
「え、何故私の名前を…?」
「ネフラから聞いているわよ。天狗の話。」
「そ、そうなんですね。今後も宜しくお願いします。」
そそくさと虫妖木部屋から出ていくウィンドウ。後ろを見ると三人が笑顔で手を振っていた。
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南区域に飛ぶウィンドウ。あまり各地の人物と話をした事がなかったので、気づかなかったが変わり者が多いようだ。まぁ、次行く南区域のラリマ様はまともそうだ。子育てをしているので、一般常識はありそう。
という考えは甘かった。
「ラブ~。そろそろ脱皮だね。また大きくなるなぁー。成長が楽しみだ。脱皮コレクションが増える…!」
「あの…ラリマ様。地図を…」
「あれ?ラド!口汚れてるよ。また人間食べてきたの?よく食うな~、お前は。…プレセリ!食事後はちゃんと口拭いてって言ったじゃん!」
「すみません、親分!」
「ラリマ様!…」
「ライ、遊びに行ってきて良いよ?最近人間が増えてきたみたいだから。良いオモチャがいるかもしれないし。」
何だ、この親バカは!こっちに目もくれない。やっぱりこの国変人しかいない。(レムリア様は別)
「すみません、親分があんな調子なので代わりに受け取っておきます。」
「どうも。いつもあんな感じなのですか?」
ピンク色のサッカーボールのような大きさのスライムが話し掛けてきた。
「砦付近で狩りをしている子供達が帰ってきた時がこんな感じなんですよ。普段はまともなんですけどね。」ボヨンッ!
後ろからチョップされるピンクスライム。チョップした人物はラリマだった。
「いつもまともだ!すみませんね。地図の方、ありがとうございます。」
人型になり、地図を受け取る。ラリマの人型は貴重だ。なかなか見れるものではない。身長は二メートル近くはある。整った顔、キリッとした目。イケメンだ。ウェーブのかかった青色の長髪。服装はどこかの貴族を思わせる。文字通り貴族を補食したのだろう。地図を眺める姿は様になっている。思わず『キュン』とくる。だが、スライムだ。騙されてはいけない。
「では、失礼するよ。こちらにも色々仕事があるのでね。」
優雅にその場を去る美少年。彼らは運送の仕事を請け負っている。その打ち合わせ等をするつもりだろう。まさにこの地図が今のレムリア国に必要な物。それを我々天狗が作った。誇り高いし、何よりも嬉しい。こうして国を回って実感する。去っていくラリマの後ろ姿を見送り、その場を飛び去る。
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配達の仕事もこれで最後。北区域に帰ってきた。そのまま、関所の最上階に向かう。天狗のトップである天魔の上司、北区域のトップである理不尽な力の権化。青鬼のラピス・ラズリ。
彼女の前に行くのは緊張する。失礼のないようにしなければ…相手は鬼だ。怒らせてしまうと手をつけられない。咳払いをして、扉の前に立つ。ノックをしようとした時にいきなり扉が開く。
「おい、避けるなよ。」
扉を開けたのは勿論ラピス様。今日はラフな感じの服装だ。和風な事には変わりない。
「恒例行事なのかと。」
一礼して、地図を取り出す。ラピスはそれを受け取り、ウィンドウを中に迎え入れる。
「まぁ、座りなよ。」
「失礼します。」
ラピスは持っていた瓢箪で酒を呑みながら、地図を眺める。ハウラ様と違って、こちらは日本酒だろう。この世界で『日本酒』の名はおかしいと思うが。
「なるほど、単なる地形だけではなく、そこに住む者も書き込んでいるのか。植物とな………んー。アスリオーネ国の大体の位置も書き込んでおいた方が良いんじゃないか?防衛面と交関の事を考えるとな。」
「分かりました。クロコア様に伝えます。」
「その地図は最初にレムリアだけに渡した方が良いな。国に展開するかはその時に考えるだろう。」
さすがはラピス様。酔っ払っていても判断力を失ってはいない。
「そういう感じで今後も頼むな。」
「えぇ、お任せください。」
立ち上がり、部屋を出ようとした時にラピス様に呼び止められる。
「出る前に隠し持っているその葡萄酒を置いていきな。」
ギクッ、何で分かったんだ…
「で、ですが…ラピス様……これはハウラ様より、クロコア様へと託された物です。私の判断で…
「置いてきな…」
有無を言わせないラピスの威圧。青鬼の威圧は凄まじいものがあり、常人では失神、下手をすると死に至る程。今回はそれ程の威圧を出してはいなかったが、普段から鬼を恐れている天狗からしてみれば、死ぬ事こそないものの、いっその事気絶したい気持ちだ。
「は、はい。分かりました…」
涙目でワインを置き、部屋を出る。殆ど放心状態で歩いているウィンドウに誰も声を掛ける事が出来ない。クロコアに報告する事も忘れ、自室に戻るウィンドウ。
その数時間後、クロコアに呼び出される。お叱りかと身構えるが、先程鬼の威圧を浴びたウィンドウはあまり恐怖しなかった。しかし、先輩の口から驚くべき事が告げられる。
「クロコア様からはラピス様の部屋に来るように、だってさ。地図の配達してたんだよね?何かやらかしたの?」
「いや、いや、多分…何もシテナイデス……」
「あぁ、ぐっじょぶ!」
先輩にエールを送られ、思い足取りで最上階を目指す。
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そうして再び、ラピス様の部屋の前に来た。ノックしようした時に扉が開く。
「またまた避けるなよ。」
「ラ、ラピス様~。先程はすみませんでした!」
「いや、そんな目で私を見るなよ。取り敢えず、中に入りな。」
連れられて中に入ると、クロコア様が座っていた。
「ウィンドウ、待っていたぞ。配達の仕事ご苦労だったな。ハウラ様からのワインも受け取った。ありがとうな。お前を呼んだのはラピス様が三人で呑みたい、と仰有ったからだ。さぁ、突っ立ってないでお前も座れ!」
「つまみも用意したからな!…あれ、何で泣いてんの?」
「ラ、ラピス様~!さっき怖かったんですよ~。」
「ラピス様…彼女に何したんですか?」
「え、なな何もしてないと思うけど………悪かった悪かった‼️謝るからそんな泣くな!」
ウィンドウは一頻り泣いた後、三人で酒を飲み明かした。
そういえば、『魔王が集う日』の時の登場人物紹介をしてなかったですよね…どこかでぶちこもうかと思いますがどうでしょう?