34話 ささやかな野望
ピオニーが帰った後、軽い食事を取り入浴した。今まで普通に食事をしていたが、私には食事は必要ない。では何故毎食欠かさずに食べているかというと、前世の影響を受けているからだ。人間だった私は食事と睡眠を欠かす事はなかった。だって人間だもの。その記憶を持って、転生したのだ。まだ人間の感覚が残っているし、魔物に成った実感も薄い。人型だからというのもあると思う。それに変わったのは人から魔物なっただけではない。性別だ。胸は出て、股間にあったモノは無くなって…と言うより、変化している。引っ込んだとでも言いましょうか…それは、お風呂に入る度に実感する。どうなっているか気になり、弄ったりもしたが…最初はびっくりした。だが、不思議と違和感は無い。ただ、この身体にはまだ慣れてないが。支離滅裂になっていると思うが、自分でも不思議なんだ。しかしそんな身体に変化してもお風呂の気持ちよさは変わらない。魔物の身体に成っても、湯船に浸かれば心身を癒す事が出来る。休ませる事が出来る。これが温泉だと、様々な効能がプラスされる。今の狭い空間より、露天風呂なんかでのびのびとリラックスできる。と、ここで新たな事を思いつく。自然と笑みが零れてしまう。明日の会議が楽しみだ。
翌日の朝、扉をノックし、中に入る。部屋の主は寝ているようだ。音を立てないように細心の注意を払いつつ、ベッドに近づく。ここまで六十秒以内、声も出さず音も立てていない。そうするメリット、そうして得られるもの。それは…
「ふふふ、今日もレムリア様の寝顔は可愛い。どうしてこんなに可愛いのかしら。頬っぺたツンツンしたい…良いわよねぇ。寝てるし…いや、でもそんな事は一従者がやる事ではない。そんなの不敬にあたる。でもツンツンしたい…」
そう、レムリアの寝顔だ。そしてそれを心のシャッター、更には眼球にまで焼き付ける従者ストロベリー。彼女はレムリアを起こすまでのこの時間を楽しんでいる。しかし、今日はそのような時間は無い。レムリア国発展計画の会議をする為、北区域に行かなければならない。フローラは既に準備を始めている。しかし、レムリア大好きなストロベリーはそんな事は気にしていないらしい。メイド長がいれば即説教になる状態。しかし、今はフローラについているのでここにはいない。ストロベリーはそれを利用しているのか、全く止めようとしない。
「ストロベリー…貴方もうそろそろ終わりにしたらどうです?レムリア様は今日大事な会議があるのですよ?」
その声を聞き、止めるストロベリー。彼女が素直に従ったのは、メイド長とは少し違った威圧感を放っている為。貴方良い加減にしなさい。と、優しい口調ではあるのだが、不思議と怖いのだ。
「で、でもローズさん。ちゃんと起こそうとはしてましたよ。」
自分でも厳しい言い訳だと思う。それに対してローズは何も言う事なく、ただ一言。
「でも確かに可愛いわね。」
「ですよね、そうですよね。やっぱり可愛いですよね。」
「でもそれとこれとは話が別です。さぁ、起こして下さい!」
と、二人が言い合いしていた。途中から声が大きくなっていたので、こちらまで聞こえてくる。寝起きからなんて話をしているんだ、全く。
そっと起きて、気づかれないようにそっと部屋を出ようとしていたが勿論見つかる。
「レムリア様、おはようございます。」
「お、おはよう。今日は会議があるから…顔洗って来るな。」
「分かりました。お食事の方は用意しておきます。」
ちらりと見ると、満面の笑みのストロベリーが肉料理を準備していた。食事事情の改善も必要だ。…やる事多すぎだな!
なかなか大変そうだが、楽しみでもある。これから俺がこの国を良くしていくんだ!