29話 大魔国へ向かった二人とステマニア国へ向かった三人
住居だけでなく、商店街のような所もある。そこを沢山の魔物が行き交う。まるで都会だ。レムリア国とは大違いだ。さすが大魔国。という感情の後で嫉妬のようなものが心の底から這い昇ってくる。ますますレムリア国を発展させなければならない。とりあえず今はあの商店街を見てみよう。参考の為にも…
「フローラ、あそこの店を覗いて見よう。我が国の発展の為にも!」
「申し訳ありませんが会議後でお願いします。あまり時間がありませんので。」
何を言っているんだ?この悪魔は。会議は一週間後だぞ?かなり距離があるから直ぐに出発したんじゃないか。転移魔法使ったから一瞬でついたけど…これだったらまったり急がず焦らずまいれば良いではないか。
「会議って言っても一週間後でしょ?」
「それはドレーカ城に行けば分かります。」
フローラが指を指す方向に目を向けると、そこには遠くからでも確認できる立派な城が建っていた。
二人は禍々しい建物の間を通り、城を目指す。
一方その頃、レムリア国を出て人間が住むステマニア国へ向かっていた三人は城壁の数キロ前まで来ていた。
「よし、国に入ってからの事をもう一回確認するぞ。まず、冒険者ギルドに行って登録をする。依頼をこなしながら情報収集だ。」
「分かったっす。そういえば、ステマニア国に滞在するときの宿なんかはどうすんすか?無一文ですけど。」
「だから冒険者となって、稼ぐんですよ。その方が手っ取り早いですしね。」
「まぁ、まず国に入らなければ話にならねぇがな。さすがにこの姿はまずいから人間に見えるようにしとけよ。」
「分かったっす。」
「では行きましょう。」
城門の所まで来ると、門番に止められる。クルミ割り人形のような格好をした兵士。三人を見て笑顔をつくる。目の前の三人は誰がどう見ても怪しい。しかし、彼は人は見かけで判断してはならないという考えを持っている。第一印象を大事にする為に彼は笑顔で接する。そう、目の前の三人にも。
「こんにちは。アスリオーネ国へようこそ。ここへは何しに?」
「実はここから離れた村から来たのですが、色々事情がありまして…冒険者をしてお金を稼ぎたいと思って参りました。」
「そうですか…差し支えなければ、その事情を教えていただけますか?」
「村が…村が盗賊に襲われたっす。」
「そうですか…しかし、変ですね。村が盗賊に襲われたという報告は入ってきてないですよ?普通そういう事は国に連絡が行くようになっているんです。どこの村か教えてもらって良いですか?」
三人は答えず、黙りこんだ。やはり怪しい。
「答えられない理由でもあるんですか?さぁ!」
すると、頭の良さそうな雰囲気の男が口を開く
「やっぱりその理由は駄目だって言ったじゃないですか。すぐばれますよ。」
「でも先輩方を犯人にするのも嫌だし…盗賊っすよ?」
「盗賊を買いかぶりすぎです。」
「貴様ら盗賊か!何が目的だ!」
兵士は槍を突きつける。それを構うことなく掴む男がいた。
「あー、ごちゃごちゃうるせぇ。俺の目を見ろ!」
「な、なに!お前…吸血鬼!」
兵士は目を見た瞬間、どこか遠くを見るようなぼんやりとした眼差しとなった。
「大丈夫か?兄弟。」
「あぁ、大丈夫さ…怒鳴って悪かったな…」
「気にするな。ここを通してくれないか?」
「あんたらなら大歓迎さ…ようこそ…ステマニア国へ…」
こうして三人はステマニア国に侵入した。正面から堂々と。
「いやー、楽勝だったっすね。」
「吸血鬼の力を色々試しておいて良かったです。」
「て言うか最初から使えば良かったのに…魅了。」
「うるせい!いきなり使ったら失礼だろうが!」
「ボスって変な所律儀ですよね…」
「俺はボスじゃない…俺達のボスはレムリア様だ。そう、今日から俺は…リーダーだ!」
「はい、リーダー!」
「さぁ、ギルドに向かうぞ。」
こうして三人のステマニア国潜伏生活が始まる。元人間から夜を支配し夜に生きる者となった彼らはボスである白き魔の少女の力となるべく、多くの情報を集めていく事になる。