23話 初めての眷属
楽しかった宴会は終わりを告げ、深夜になると皆は各区域に帰った。お開きにした瞬間に帰る姿には驚いた。もう少し雑談を楽しむのかと思ったのだが、また次の宴会で楽しむ!と皆口にしてさっさと帰っていった。お陰で片付けは早く終わったので良しとしよう。やる事がなくなった私はすぐに寝る事にした。この体は睡眠不要ではあるが、寝るのも一つの楽しみになっている。これだけはやめられない。
起きたのはお昼頃。ストロベリーが起こしに来たのだが、顔が近い。寝ている隙にキスでもしようとしていたのではないかと疑ってしまうが、本人は顔と手をバタバタと横に振り、否定する。まぁ、そこが可愛いくもあるので、許す。朝ご飯兼お昼ご飯を済ませ、私は地下に向かう。
「こんにちは、レムリア様。アメジスト様を呼びますね。」
「うん、頼む。」
アイが迎えてくれた。今思えば、アイとはあまり話した事がない。入り口付近にはだいたい、レッドがいる。そんな事を考えていると、気付かない内にアイの顔をじっと見ていたらしい。
「私の顔に何かついていますか?」
人形にこのセリフを言わせるとは…恥ずかしい。
「いやー。昨日は楽しかったねぇ。で、どうしたの?レムちゃん。」
「楽しんでもらえたのなら何より。今日来たのは、人間の国の情報を集めるのに、眷属を送ろうと思うんだけど…その眷属化の方法を教えてもらおうと思って。」
「あぁ、なるほど。レムちゃんの場合、色々な方法があるけど、昔やってたのは自分の血を飲ませるやり方かな?簡単だし。」
自分の血を飲ませるだけなら簡単そうだ。変な術式や詠唱があるなら別だが。
「よし、それでいこう。何か必要な物とかある?」
「ナイフとか、自分を傷付けて血を出す事が出来る物かな。でも、自分の指噛って出せば大丈夫だから要らないかもね。」
「悪魔の契約書か!」
「似たようなものでしょ。で、眷属にする奴はいるの?」
「ジララが捕まえた人間三人が地下牢にいるから、そいつらを眷属にしてみる。」
「そう、なら早速地下牢に行きましょう!」
「庭に運ばせたから庭に行こう。地下牢狭かったから…」
という訳で、庭にやって来た私たちをジララが出迎えた。
「レムリアー!準備しておいたわよ。きっちり三人。アメジスト様こんにちは。」
「ジララ、私も呼び捨てで良いわよ。」
「いや、しかし…」
「私だけ仲間外れみたいじゃない!」
この魔女は寂しがりやなのだ。
さて、凍り付けにされた三人組の前に立つ。
「さあ、まずは頭の部分だけ溶かしますね。」
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時を少し巻き戻した城内で。
「メイド長のルチルー!」
「ローズ…一々"メイド長の"て付けなくて良いわよ。これで何回目よ?」
「呼びやすいんですよ。そんな事より、来客というか、侵入者というか…まぁ、侵入者なんだけど、一緒にみてほしいんだけど。」
「どういう事よ?」
「こういう事よ!」
そしてローズはルチルの手を取り、強引に侵入者がいる塀まで引っ張っていった。
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時を戻して、庭で。
ジララが手をかざすと、頭部の氷がみるみる溶けていく。三人はその瞬間息を呼吸を開始した。驚くべき事に生きてる。
「ゲホゲホッ…くそ!凍らせやがって、ここは…あっこの女!よくもやりやがったな!」
「ゴホゴホ、やはり人間ではなかったか…ここは魔国…最悪だ…最悪すぎて頭が痛い…」
「ヤバい…ヤバいッス。」
やはり真ん中のリーダー格の男は何かと突っかかるみたいだ。右隣の知的な男は割りと冷静でいる。左の男は目の前の三人にびびっている。しかし、それが本気でびびっているのかよく分からないリアクションでもある。改めて見るとなかなか面白そうな三人組だ。
「いやぁ、侵入者共。私はこの国の魔王レムリアだ。そしてこっちが司書長のアメジストで、こっちはお前達も知っていると思うが…」
「魔王補佐官のジララよ。」
(ぎぇーーー!魔王補佐官だとーーー?!)
「凍り付けにされたお前達三人は私の部下の餌になる予定だったがな、運が良い。ある条件を呑むのであれば、私の眷属にしてやる。どうだ?断ったらその瞬間お前達の未来はない。」
(強制じゃねぇか…しかし、我々が助かるには、条件を呑まなければ。どうします?ボス。)
(どうします?って…やるしかねぇだろ!)
(そういえば、ボスって無茶苦茶な事ばっかりやってますけど、俺たちの事見捨てた事無かったっすよね。あの時は申し訳ないッス。)
(過ぎた事だ。気にするな、お前もな。)
(すみません、ボス。)
「答えは決まったかい?」
「あぁ、眷属にでも何でもなってやる。」
「んー。良い判断だ。では早速。口を開けろ。」
(え?)
まず、リーダー格の男の前に立つ。そして、自分の小指を噛る。滴る血を口に数滴落とす。彼は血を飲み、眼を閉じ数秒動かなかった。しかし、体内では変化が訪れており、血管が脈打つのが大きく感じられた。血液が循環されるごとに自信のパワー、そして魔力が高まっていくのを感じた。鼓動が高まり、最高潮に達した時、ようやく眼を開いて周りを見渡した。人間だった時より視力がぐんと上がっている。十メートル先まで見える程だ。その瞳が紅く染まっている事を本人は知らないが、他二名は確認した。
(人間ではなくなった?)
内心動揺する二人に構う事なく、レムリアは血を飲ませていく。そして、侵入者三人はレムリアの眷属、種族は吸血鬼になったのだ。
新たな力を手に入れた三人は自力で氷から脱出し、新たな主人、レムリア・ゼオラに忠誠を誓う。そして、人間の国の情報収集を命じられた三人は白昼堂々と空を飛ぶ。
眷属化に成功したレムリアだが、さっきから気になっていた事が一つ。庭にいる時にずっと変な視線を感じていた。ちらっと確認すると、そこには赤毛のエルフがこちらを見ながら考え事をしているようだった。その後方に何故かルチルとローズがいたので連れてきてもらう事にした。
そして今、私の目の前にはエルフが正座をして、上目遣いでこちらを見ている…睨んでいる?生エルフだ…可愛い!