13話 北区域視察
長い期間お待たせしました。…あっ、「待たせたな。」
視察当日の朝、スモーキーに手伝ってもらい着物に着替えた。今回はレムリアが生前着ていた物らしい。黒色に黄金に輝く線が幾何学模様を作っている。本当に輝いているのは、何かしらのバフがついているのだろう。しかし、この世界に来て着物しか着ていない気がする。この国に何故着物があるのか疑問だし。そんな事を考えつつ、朝食を食べる…が、やはりただ肉を焼いているだけだ。メイドの料理の腕も上げなければ。しかし、朝から肉か…
その後、準備を終えたフローラと合流し、北の地にある、関所に向かった。道中は道が無く、大自然が広がっているため、飛行して移動する。ただの移動であれば良いのだが、運搬の時には物凄く不便だ。道の整備も進めなくては。やる事が多いな。人間の国と戦う暇なんてない。そもそも戦う気はないが。
しばらく飛んでいると、建物が見えてきた。見た目は羅生門のそれはかなりの大きさだ。その両端からこれまた大きい壁が広がっている。ここが関所と呼ばれる場所だろう。建物の周りを黒翼を持つ人間が飛び回っている。
門の前に降り立つと、二人の女性が近づき、挨拶してきた。剣道の時に使用する、籠手や胴のような防具を装備している。一人は日本刀を持ち、もう一人は薙刀を持っていた。
「お待ちしておりました。レムリア様、フローラ様。此方にどうぞ。」
そう言い、門の中に通される。中には彼女と同じような格好をした者、空を飛んでいた黒翼を持つ者、他にも人の姿をした異形の者達が仕事?をしていた。全員、すれ違う度に会釈というより、お辞儀をしてくる。その光景に、日本を思い浮かべる。
つれられ、たどり着いたのは建物の最上階。恐らく、一番でかいだろうと思われる部屋だ。案内人がノックしようとした瞬間、いきなり勢い良く扉が開いた。
「なんだ、避けんなよ。」
「やめて下さい。お二人の前で。」
「良いじゃんかよー。いつもの事だし。まぁ、案内ご苦労。休憩して良いぞー。」
「…では失礼します。」
三人にお辞儀して戻っていく。
「じゃあ、お二人さん。中に入ろうか。」
いきなり扉を開けたこの大柄な女性。この人物が北区域担当者、ラピス・ラズリだ。黒色のかなり長いストレートなロングヘアー、少し青白い肌、群青色の瞳、大きい胸、そして頭に生えた牛のような双角。遊女のような着物を着ている。見た目は花魁だが、彼女からは妖艶さと、覇気を感じる。間違いなく強い。
部屋に通された後、真ん中にある大きなソファーに座るよう促された。そして、目の前の大きなテーブルに酒をドンと置き、向かいのソファーに座る。ラピスは既に飲んでるのか少し顔が赤い。
「ラピスさん、今日は仕事で来ているので飲むつもりはありませんよ。」
いつも通りの笑顔でフローラが断りを入れる。
「あー、そういう事じゃあねぇんだよ。レムリア、生前は色々世話になった。お前が居なくなってから喧嘩する相手になる奴がいねぇ。詰まんない毎日だった。…けど、お前は復活してまた私の前に現れた。昔の約束を果たしてくれたみたいで嬉しいよ。だからな、もう一度お前に忠義を尽くすためにな、これだ。」
朱色の盃を置き、酒を注ぐ。この意味は分かる。しかし、何故か分からないのが盃の大きさだ。力士が持ってる所しか見たことがない。それに並々と酒を注ぐ。こいつの肝臓大丈夫か?と心配になるほどだ。それをこれから飲まないといけないのか。酒強くはないのに。フローラ、何とか言ってくれ。
「はぁ、そういう事なら仕方ないですね。」
おい!フローラ!?マジかよ酒飲ませんのかよ。仕事とか関係ないのかね。…めっちゃラピスに見られてる。あぁ、もう自棄だ!
盃を片手で持ち、くぐっと煽る。そのままドンと置き、酒を注ぐ。それをラピスが受け取り、ガブガブ飲む。…豪快だな、こいつ。
その後、細かい事を話し、ラピスを四天王に任命した後、関所を見て回る事になった。
四天王 玄武ラピス・ラズリ
関所と言ってもそこを通過するのに、ややこしい手続きは必要無く、魔人であればほぼ顔パスで通れる。仕事と呼べるような仕事ではない。その代わり、侵入者の監視には力を入れている。主に人に対しての。そして、その仕事を担当しているのが、なんと天狗らしい。関所の事務と監視が木の葉天狗、空からの監視、情報収集が烏天狗という役割。ここには他にも妖怪が存在し、関所の建物の管理や道具制作が河童、建物修復が土蜘蛛といった、役割を与えられているものから、非常事態の時にのみ、仕事をする者まで。因みに、ここのボスであるラピス・ラズリは鬼だ。薄々気づいていたが、まさかここに妖怪が存在していたとは。その理由をラピスが話してくれたが、衝撃的なものだった。
レムリアが戦死したとされる大戦の数十年前に、戦力強化の為、別世界に転移した。そこで、魔の存在と出会い、この世界に連れてきた。それがラピス達妖怪らしい。その時、レムリアとラピスが戦闘した。結果は引き分けだったが、自分と同じかそれ以上の強い奴に久しく会っていないラピスはこの世界に行く事を承諾したらしい。時間軸が良く分からないが、その時の日本は科学が発展し始めており、妖怪達の存在が危うくなってきたのも要因の一つだ。その後、彼らの技術を利用して、少しはこの国を発展させる事ができたが、たいした成果にはいたっていない。新戦力を他国に見せつける為、関所という形でこの地に住まわせたらしい。それが今では、この国の名所の一つになっている。
まさか、レムリアが異世界転移をして日本に来ていたとは。しかも妖怪を連れて戻る事をしている。どんな化け物だ。もしかして今のお…私にも出来るのだろうか。取り敢えず、それは後で試すとして、今は目の前の問題だ。この国は不便だ。食事も料理したとは言えない物だし、道と呼べる道がない。まともなのはここくらいだ。ラピスの案内で関所を回っているが、その間ずーーーっと酒を飲んでる。常時酔っぱらっているが、思考は正常で、部下の質問には的確に答えている。まぁ、簡単なお仕事なので答えるのも簡単そうだが…
関所の中は和風だが、所々西洋が混ざっている。この世界の影響を受けているのだろう。本当に、ここだけはハイカラだ。魔城よりもお洒落に見えてくる。国を発展させるにはここの妖怪達の手を借りる事になるな…
関所の長い案内を終え、門の所で北の者達を集めてもらい、魔王復活式の事をフローラが伝えた。皆一気にテンションが上がり、喜びの声をあげた。
因みに、酒を飲んでからここまで一切酔っぱらっていない。この体は相当酒に強いらしい。蟒蛇や化け狸達から飲み会に誘われた。その後で、ラピスとある条件付きで今後の国の発展に妖怪の協力を取り付けた。そして、そのまま西の地へ向かうため飛び立った。