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その11


 プールから上がってきた奏子は、自分たち用に用意された控え室の隣の部屋に、翼を引っ張って行った。そこには誰もいない。

「どうして、さっきは、“この子”がかなこの言うこと、きかなかったの?」

「奏子。あんなに大勢の人がいるところで、使うものじゃないんだよ」

 奏子が差し出した、左手にはめられたブレスレットを握り、翼は静かに答える。

「でも、でも、わるものがいたのに…おにいちゃまに、ひどいこと、しようとしたのに!」


「龍くんの作戦なんだ」微笑む翼。

「龍くんが、そうしようって言ったの?」

「ああ、そうだよ。充くんも助けてくれたおかげで、上手な手品に見えただろ?」

「うん…」納得が行かないながらも、龍の名前に戸惑う奏子。

「今は奏子の力は、龍くんのためだけに使うんだ。いいね」

 翼が言うと、奏子はうつむき、小さくうなずいた。


  *  *  *


 翼と奏子が本来の控え室に入ると、部屋の中から強い視線が一斉に集まった。その様子に驚いて、翼の手をぎゅっと握る奏子。

「翼! 奏子! 遅いじゃないの」響子が駆け寄り、2人を抱きしめた。

 プールでのイベントが終わってから、ずいぶん経つのに、子どもたちが誰も戻ってこないので、保護者たちは心配していたところだった。

 保と有川の警護の関係上、保護者たちもプールサイドから先に退出させられ、その後の様子がよくわからなかったのだ。

「ごめんね、ママ。道具片付けるのに時間かかっちゃって」

「こんな人混みだから、迷子にでもなったかと思ったよ」疾人は奏子を抱き上げると、途端に笑顔になる。「上手だったぞお。パパ、びっくりしたよ」

「ありがとう」奏子が、ぎゅっとしがみつく。


「他の子たちも、片付けなの?」響子が尋ねた。

「紗由ちゃんたちとは、別の場所から戻ったから…。でも、彼女たちはインストラクターさんと一緒だから、心配いらないと思う」

「なら大丈夫ね。でも、本当、上手だったわあ、翼くんも、奏子ちゃんも」夕紀菜が2人の頭をなでた。

 ありがとうと言いながら、翼はテーブルの上のおしぼりを取りに行くふりをして、少し皆から離れた。


“さっきの、あれ、どういうことなんだろう…?”

 翼は、さっきプールで充のビート板が燃えた直後の気の気配の変化をいぶかしんでいた。

 自分と奏子を囲む四人の一角である充が隊形を崩し、残った3点と放送席側に感じた強い石の存在とで、4点が新たに形作られていた。

 それが自分たちを守る結界なのだろうと理解したのだが、その直後、突如もう一点が増え、5角形となったのだ。


“5角形となった直後、最初の3点のうちの1点がいきなり強い気を放った。

 位置からすれば…後から増えた1点は有川先生。強い気を放った1点は恭介くんだ。

 2人が危険を感じたために、互いを心配して、共鳴した。その結果、覚醒した…?

 それに別の強い筋のようなものもあったし…”

 翼は思いをめぐらせたが、あまり長時間、考え事をしていると、石を通じて奏子に気づかれると思い、心を平静に保ちながら、響子のほうへ歩いていった。


「うーん。でも、ちょっと遅いなあ」

 涼一が外の様子を見ようと、ドアノブに手を掛けようとしたとき、ドアが急に内側に開いて来た。

「うわっ!」ドアをよける涼一。

「ただいまあ!」

 紗由が元気よく部屋に入ってきた。真里菜、充、恭介も後に続く。

「遅くなりまして、すみません。通路が混んでいましたので。…それでは失礼いたします」インストラクターの男性が一礼した。

「ありがとうございました。紗由…おかえり。みんな、上手だったぞ」

 涼一が紗由を抱き上げようとするが、紗由はテーブルに目をやるなり、「あ。ジュースだ!」と言って、走り出す。

「紗由…」

 しょんぼりする涼一の肩を、夕紀菜がぽんぽんと叩く。


 紗由がジュースをごくごくと飲み干すと、真里菜も真似するように、一気に飲み干した。

「おいしーねー!」満足顔の紗由。

「うーん。さいこー!」

「もう、真里菜ったら。プールの後にそんなに飲んだら、おなかが痛くなるわよ」

「だいじょうぶ。カイロもってきたから」

「用意がいいのねえ」響子が笑う。

「さゆはね、おなか、じょうぶだから!」

「おやつばっかりじゃあ、きっと旅館のおかみは務まらないなあ」

 涼一が言うと、おかわりをしようとしていたグラスを悔しそうに置く紗由。


 一方、恭介の母親、崇子は、電話をしてくると言って、まだ戻っていなかったため、恭介と充は部屋の隅で話をしていた。

「充くんのママは?」

「まだ、しごとちゅうなのでござるよ」

「たいへんだねえ」

「でも、ちゃんとみててくれたから」

「ふうん」

 仕事中なのに、どうやって見てたのかと思った恭介だったが、もし忙しくて見ていられなかったのなら、充がかわいそうかもしれないと、それ以上は聞かずにおいた。

 

「恭介どの。せっしゃは、しばらく、すがたをかくすでござる」

「え?」

「行ってくるでござる。あとは、よろしゅう」

「充くん…?」

「せっしゃのおやくめは、これからゆえ」

「どこ行くの?」

「てきのアジトに」

 充は、それだけ言うと、ソファにあった、赤いハイビスカス模様のパーカーを手に取り、大人たちの後ろをそーっと抜けると、控え室を出て行った。


 残された恭介は、後を追おうと思ったのだが、なぜか足が動かない。そればかりか、心臓がドキドキして、だんだんと怖い気持ちになってくる。恭介の目が涙であふれそうになった時、崇子が部屋に戻ってきた。

「恭介! おかえりなさい。上手にできてたわねえ」恭介を抱きしめる崇子。

「ママ…ママ…充くんが…充くんが…」ひっくひっくと、恭介がしゃくり上げる。

「恭介…? 充くん…どこに行ったの? いないわねえ」


 その時、恭介の異変に気づいた紗由が走りよってきた。

「どうしたの? なにか、かんじたの?」

 紗由が恭介の左手を握ると、恭介はびくんと身体を震わせ、紗由を強く見つめた。

「行っちゃったよ……おやくめだって…でも、でも…」

「石はどう?」紗由が、握った左手の手首に触れる。「この子は、なにか言ってる?」

「この子…」恭介は、じっと自分の左腕を見つめた。


 真里菜は、2杯目のジュースを飲みながら、やっぱり1杯だけにしておけばよかったと思った。おなかが、きゅーっとしてきたのだ。

「…カイロ、カイロ…あれ? まりりんのパーカー、どこだろう?」真里菜がパーカーを着ようとして、恭介の横にあるソファの上を探す。

「ないの?」紗由が聞く。

「うん…これ、さゆちゃんのでしょう」紗由にパーカーを渡す真里菜。「これは恭介くんの。これは奏子ちゃん。これ…充くんのだ」

 真里菜が手にしていたのは、白とブルーのストライプ模様のパーカーだった。

「…まりりんのは、さっき、充くんが…」恭介がか細い声で答える。


「なんで?」

「わかんない。わかんないけど…」いきなり泣き顔になる恭介。「さゆちゃん、たいへんだよ。充くんが、あぶないよ!」べそをかく恭介。

「だいじょうぶだよ、恭介くん」

「ぼく、行かなくちゃ。たすけなくちゃ」

 恭介は、いきなりドアに向かって走り出したが、ダッシュしてドアの前に駆け寄ってきた奏子に、その道をふさがれた。

「おしごとの、じゃまをしたらダメです」

「かなこちゃん…だって、だって充くんが!」

「じゃあ、みんなで、たすけに行きましょう」

 奏子は恭介を見つめると、強くうなづいた。


  *  *  *


 充は、プールサイドに行き、客もまばらになった先ほどの会場をうろうろとしていた。赤いハイビスカス模様のパーカーは、かなり人目を引くので、すれ違う人が時々振り返る。

“おやくめでなければ、こんなオバケみたいなふくは、きれぬでござるなあ…”

 真里菜に聞かれたら3発はキックされそうなことを思いながら、充は注意深く自分の後ろの気配に集中する。

“来た…!”


「坊や。ママの言うことを聞かなかったんだね。悪い子だなあ」

 野球帽を目深にかぶった男は、いきなり後ろから充の口をふさいだ。手足をばたつかせていた充は、しばらくするとぐったりと眠り込む。男は充を抱きかかえ、何事もなかったかのように歩き出した。


  *  *  *


「あの…皆さん。どういうことなんでしょうか?」

 崇子が困惑した様子で尋ねると、保護者たちはけん制しあうかのように一同を見回した。

「簡単にご説明するようなことかどうか、僕にもわからないんですが…」

 涼一が口火を切ると、ドアが開いた。

「僕が説明するよ、とうさま」

「龍!」

「有川のおば様。心配掛けてすみません。今後のこともありますから…そうですね、もう少ししたら、別の部屋で、ちょっとお茶でもいかがでしょう」

「え、ええ…」


「あ。充くんとおなじだ。ナンパしてる」

 真里菜が目ざとく突っ込みを入れると、奏子が前に歩み出て言った。

「かなこもいっしょに、おちゃをのみます」

「はい! さゆもジュースをのみます!」

「2人は、ここにいて」龍が微笑んだ。「と言うより、4人にはお願いがあるんだ。これから言うことを、よーく聞いておいてね」

 龍がそう言うと、奏子は真剣な面持ちで龍をみつめた。


  *  *  *


 進は、気を失ったキックを、彼の部屋とは華織の部屋を挟んで反対側に当たるほうの部屋へ連れて行った。再度脈を取ると、さるぐつわをはめ、目隠しをし、椅子に手錠と縄でくくりつけ、ぴたぴたとキックの頬を叩いた。

「ゆっくり、おねんねしましょうねえ」

 進が素早くエイサーの衣装から、ダブルの黒いスーツに着替えてサングラスをかけると、息を切らしながら未那が部屋に入ってきた。かなり派手なドレスと化粧に身を包んでおり、一見、未那とはわからない。


「進! 充くん、連れていかれたわ!」

「わかった。すぐ行こう」

「こいつらの部屋よ」キックを睨む未那。

 2人は静かに部屋を出ると、いったん華織の部屋に入った。未那はベランダに出て、辺りの様子を注意深く見渡すと、壁伝いに隣の部屋のベランダへと降りた。


  *  *  *


 未那が中の様子を伺うと、男はいらだったように電話をしていた。

「マーサ。君が裏切るとはな」

「何のこと?」

「彼女が消えた。キックにも連絡がつかなくなっている」

「え?」

「僕が裏切り者を許さないのは知っていると思ってたよ。気の毒にな、息子くん。君のような母親を持ったばかりに」


「待って!」

 雅の言葉を遮るように、男は横にいる充に向け右手でピストルを撃つような構えをした。

 目を覚ました充は、さるぐつわをはめられ、両手を縛られているのに気づき、ソファの上から、じっと男をにらんでいる。

「今度は暴れないのか。いい度胸だ。残念だねえ、君のような逸材をこんな…」

 男は笑って、充を見つめた。


  *  *  *


「お隣、ずいぶんと賑やかだわ」

「すみません。未那がお騒がせして」

「そろそろ進ちゃんも行ったら? 龍と翔太くん、そろそろ戻ってきてよ」

「それでは失礼いたします」

 進は一礼すると、未那と同じように隣の部屋のベランダへと移って行った。


 隣の部屋では未那が大声でわめいている。

「だから! 追われてるのよ。そこ、どいてよ! 早くしないと、あんたも殺されるわよ!」

「な、何なんだ、おまえ」

 外でホールの3時の鐘が鳴りだすのと同時に、未那はベランダのガラスを叩き割った。

 鉄パイプを振り回しながら部屋に侵入してきた女の姿に驚いたショウは、手にしていたスマホを落とした。電話の向こうからは、雅の「もしもし」という声が何度も聞こえている。

「何だ。何なんだ」

「どきなさいよ!」

 鉄パイプを振りかざし、ショウの腿を打ち付けようとする未那。

「わあっ!」


「おい!」

 オールバックにサングラス、黒いダブルスーツの進が、ベランダから飛び込んできた。

「このあま…ふざけたマネしやがって…」進がスーツの胸ポケットに手を入れる。

「やめて! 撃たないで!」

 鉄パイプから手を離し、ショウに駆け寄り、その影に隠れる未那。

「てめえ…やっぱり男を作ってやがったんだなあ!」

 進は落ちていた鉄パイプを手に取ると、ショウに向かって振り下ろした。

「ち、違う! 俺じゃない!」

 ショウも反射神経はいいらしく、進が左右似身体を振りながら下ろすパイプを、しばらくは何とかよけていた。ドアのほうへショウを追い込む進。


「ぶっ殺してやる!」

「やめろ!」

 ショウは鉄パイプを左手で抑え、右手の人差し指を進の胸に向けて振り下ろした。

「何してさらす。あん?」

「え?」

 進には何の変化も起きなかったばかりか、ショウは進に人差し指を握られ、思いっきり後ろに反らされた。指の関節がはずれたような、グキッという音がする。

「ひぃ!」

 ショウはその手で必死にドアを開け、廊下へと駆け出した。部屋のすぐ横が非常階段だったため、そのドアを開けて、階段を猛スピードで降り始めた。


  *  *  *


 部屋の騒がしさに、外には何人もの人間が集まり始めていた。

 隣の部屋のベランダから、テレビカメラとライトを構えた男たちが数人いるのを見て、何かの撮影なのだろうと、中を覗き込もうとする人間も何人かいたが、ベランダ直下の庭には黄色いロープが張られ、ADとおぼしきキャップ姿の男性たちが、すみません下がってくださいと何度も言いながら、人々の動きをけん制している。

「来月オンエアですから、よろしくお願いします。大物政治家もゲスト出演の予定です」

 ADがにこやかに挨拶すると、観衆は改めて興味津々に上を見上げた。しばらくすると、横の非常階段を駆け下りてくる男の姿が目に入り、少しまた声が上がる。


「ねえ、誰かしら、政治家って。もしかして総理?」

「あの降りてくる人、顔面蒼白だ。熱演だね」

「2時間ドラマかな」

「きっと殺される役だよね」

「じゃあ、総理が探偵かな」


“なぜ効かない。それに何なんだ、こいつら。わけわかんないこと、しゃべりやがって。何がどうなってるんだ…”

 観客の存在に気づいても、逃げ足を緩めるわけにもいかず、ショウは、どんどん晴れ上がっていく指を押さえ、ひたすら走り続けた。


  *  *  *


 未那は、床に転がっているスマホを手に取ると、枯れそうな声で「もしもし」と言い続けている雅に告げた。

「もしもし。ミーナです。充くんは無事よ。大丈夫」

 その傍らでは、進が充のさるぐつわとロープを解いている。

「忍者のお役目ご苦労様。おい、電話代わってやれ」

「ええ。…はい、充くん。ママよ」電話を渡す未那。

「ママ? ママ! 充だよ」

「充…よかった…よかった。ごめんなさいね。危ない目にあわせて、ごめんなさ…」

 その後が言葉にならず、すすり泣く声だけが受話器から聞こえてくる。

「だいじょうぶだよ。にんじゃのおやくめ、ちゃんとできたよ。だから、なかないで」

「充…」


「充くん、ごめんなさい。ちょっとまた代わってもらえる?」

 未那が言うと、口をにまーっと開けて笑う充。

「ミーナどのの、おたのみとあらば、らじゃーでござる。きょうは、いっそう、おうつくしいでござるのお」

 未那は、傍らで眉間にしわを寄せる進を一瞥すると、くすりと笑って電話を受け取った。

「度々ごめんなさいね、マーサ」

「…充を助けてくれてありがとう。充を呼んだ場所に、一足違いで間に合わなくて…本当にありがとう」

「助けるのは当然。充くんは、紗由さまを守る忍者ですもの。無事でいてもらわないと困るわ」

「ミーナ…」


「それに、うちの息子の大事なお友達だから」

「え…?」

「そっちは後で改めて紹介させてもらうわ。で、まあ、これからが総力戦。一番の山場になるから、あなたの力も借りないといけない。詳細は“命”さまのほうから」

「わかったわ」

「ただ、ショウには逃げられたから、あなたが確保した美智香ちゃんを見つけたりしたら、事だわ。こちらから手の者を向かわせるから、場所を教えてちょうだい」

「ええ…」

 未那はてきぱきと様々な指示を終えて電話を切ると、振り返って、妖艶な微笑で充にウインクした。


  *  *  *


「おじさーん。うまくいったねえ」

 いったんプールのほうにいた大地は、戻ってくるなり、嬉しそうに雄飛に抱きついた。

「う、うん…」

「うん。奏子ちゃんが暴走しなくてよかったよ。ありがとう」

「俺が止めたのか…?」雄飛が複雑な表情になる。

「何も感じなかったにゃ?」

「い、いや…確かに、すごい衝撃だった。あの場所を自分が一人で包み込んだような感じで…」

「多分、10人くらいで同時に試みて、最初に届いたおまえのが効いたってところだろうな」

「じゃあ、最初から一人でいいじゃないか。別に俺でなくても」何か納得がいかず、不満げな雄飛。


「おじさんは我がままだにゃあ。最初に届くってことが大事なんだじょ」

「…そんなこと言われても」

「運動会で、一生懸命走ったら、一等賞になるのと同じだにゃ」

「そうだよ、雄飛。おまえは一等賞だったんだ。現役の“命”や、それを継ぐ者たちを押しのけてな。それに届いたからって、力が足りなければ封じられない」

「よかったにゃー」

 ニコニコ顔の大地に、何となく頬が緩む雄飛だが、まだ何か納得がいかない様子だ。


「まぐれかもしれない」

「じゃあ、明日また試してみればいい」

「明日?」

「ただし、今度封じるのは、味方じゃなくて敵だ」

「でも安心、安心。奏子ちゃんのほうが強いから」

「おいおい。おまえたち、俺に何をさせる気なんだよ」わけがわからず笑い出す雄飛。

「明日が本番だしぃ」大地が自分の巻き毛をくるくると指で回す。

「明日、無事に事が済めば、結果としてお義母さんが喜ぶ。なあ、大地?」

「うん。おばあちゃまが喜ぶよ」

「瑞樹…」雄飛はため息をついた。


 2人の最終的な目的は明日なのか…。

 そうだった。瑞樹は穏やかな笑顔で人を囲い込むんだった。それが仕事とあらば、容赦なく。

 今回の“仕事”が、どれだけのものなのか、やってみないと、何かの結果を確認してみないと俺には理解しようもないのだが、それをしてみるだけの価値はあるのではないかと思わせる何かが、2人の笑顔にはある。

 総理、外務大臣、“命”と、それに準じる能力者たち、そしてその敵。こんなメンバーで試合ができることなど、そうはない。

 昔、試してみたかった力、伸ばしてみたかった力の行方を、自分なりに見届ける意味はあるのかもしれない。成功したら、ミッキーにも多少いい顔ができるような気がするし…。


「わかったよ、瑞樹。明日の段取りを教えてくれ」


  *  *  *


 響子は、プールから戻ってから、どこかおかしい奏子の様子に、何日か前の龍の言葉と、その後の自分の行動を思い出していた。


「響子おばさま。お願いがあるんです」

「何かしら、龍くん。改まって」

 翼や奏子との約束もなしに、突然、一人で家までやってきた龍に驚きながら、お茶を差し出す響子。

「おばさまは、奏子ちゃんをどうやって守りますか?」

「え?」

「奏子ちゃんに危険が及ぶのに、自分が近くにいられなかったら、どうしますか?」

「華織おばさまが何かおっしゃったの…?」響子の声が震える。

「いいえ」

「そう…」少しほっとした様子の響子。


「未来を読むのは、彼女だけではありません」

 自分の祖母を“彼女”と呼ぶ龍に、響子はただならぬものを感じ、嫌な汗が額に滲んだ。

「それは、どういう意味かしら?」

「僕の質問に答えていただけませんか」

「…自分で守れない状況なら、奏子を守れる人に託すわ。…人だけじゃない。神にでも、物にでも、使えるものはすべて使うでしょうね」

「そうですよね。僕も同じです。だから、おばさまは、おばさまの手に入れられるものを、傍らに置いておいてください。人も物も…神もすべて」


「龍くん。どういうこと? 私に何をしろと?」

「僕はこれで失礼します」

 立ち上がって一礼すると、龍はカバンを手に取りドアに向かう。

「待って! 龍くん」

「さっきの質問の答えです。まだ、僕の立場では、力を直接外に示すことはできません」

 龍は、それだけ言うと部屋を出て行った。


 残された響子は、必死にその言葉の意味を考えていた。

 龍くんは何かを受け取っている。それは奏子の危険に関すること。受け取った内容を表に出せない彼が、わざわざ私に言いに来た。私にできることがあるかのように。

 じゃあ、何だろう、私にできることって…。四辻の家の石に関しては、すべて華織伯母様にお伝えしてある。それ以上に私が知るものはない。羽龍も翼が正式に継ぐまでは伊勢の管理下になる。じゃあ、一体何を…?


“羽童!”

 響子は、実家の“宿”が所有する羽童のことを思い出した。

 羽童自体に危険を回避する力はないが、危害を及ぼそうとしてくる相手に渡すことができれば、その人間は悪事を続けることはできない。浄化力が非情に高い人形だ。自分で試してみた経験はないが、実家からはそのように教育されて育った。

“でも、あれは…当主でないと持ち出すことはできない…”

 羽童を移動させることが許されるのは当主だけだ。実家の父以外に動かせる人間はいない。

 それに、仮に父に持ち出させて手に入れたところで、奏子に害を及ぼす相手がわからなければ、それを使うこともできない。

“どうすれば…”

 響子は深くため息をつくと、意を決したように外出の身支度を始めた。


  *  *  *


「大ししょうは、ヤクザのおにーさん…。ししょうに、なんてほうこくすれば…」

 サングラスをはずした進を前に、頭を抱えて考え込む充。

「いや…ヤクザじゃないから、安心していいよ」

「しかも、みなどのの、むこどの…」ガクッと崩れ落ちる充。「ああ…もう、だめでござる。せっしゃは、もう…」

「どうしたの? 充くん」

「みなどのぉ…」未那に駆け寄り抱きつく充。

「無事でよかったわ。頑張ってて、本当に偉かったわよ、充くん」

「じゃあ、きんじょで、おちゃとケーキでも…」うるうるしながら、未那を見上げる充。


「残念だが充くん、まだ忍者のお役目は完了していない。敵は他にもいそうだ。奴らの仲間が君を誘拐したままだと思わせるためにも、華織さまの部屋で待機していてもらうよ」

「…じゃあ、こっちから行くから、しっかりつかまっててね」

 未那が充を背負うと、進が充のパーカーの内側からベルトで充の身体を未那の背中に固定する。未那がベランダに出ると、階下にはまだ上を見上げている一般人が多数いた。

「私はヒーローを救出するセクシースパイの役。行くわよ!」

 未那は、器用に壁と手すりを伝って華織の部屋へと戻っていく。

 そして、2人が部屋に入ると同時に進もベランダに出て、「待て!」と叫びながら壁を伝って華織の部屋へ入っていった。


  *  *  *


「兄さん…どうするつもりなの? それに、心配したのよ」

 実歌が、未那の指示で行くように言われた正門近くで、辺りの様子を伺いながら、不安げに歩を見上げる。本来すぐ傍のホールがイベント会場になるはずだったが、プールに会場変更されたため、人はまばらだ。

「悪かったよ。急にいなくなって。どうしても気に掛かることがあって、ずっと調べていたんだ。西園寺さんたちの言うこと、すべてに納得が出来ていたわけではなかったから。

 ちゃんと自分で解決しないと先に進めないと思ったから。それに、下手をしたら、四辻先生のことだって、全部俺の仕業にされかねない」

「仕業って…何があったの?」

「俺も全部は知らないんだ。小宮山のことを探るために、方々でぱしりをしていたようなものだし…」

「兄さん…」


「でも、またいろんなことが起きてきて、それでいろいろ考えて…思い出したんだよ、あの人形から言われたことを」

「人形って…清流の羽童?」

「そうだ。人形は言っていた。俺があいつの息子に生まれたことには意味があるんだと。

 そういう立場だからこそ、権力を手に入れるということがどういうことなのか、超常的な力を手に入れるということがどういうことなのか、誰よりもわかるはずだと。そ

 の強さと同時に、怖さを知るたび、恐れが封印の力を育てていると。それを役立てる機会がかならず来ると」

「恐れが封印の力を…?」

「そうだよ。彼女が俺を逃がしたままにしているのは、蓄えたはずの力を使わせるためだと思ってる」


「彼女って、華織さんのこと?」

「ああ」

「でも、この会場には、かなりの数の能力者が集まってるわ。悪いけど、兄さんの手を借りなくても、どうにでもなると思う。他の人たちも、各所に配備させてるようだし」

「だから、通常の能力者に出来ないことをさせたいんだろう、彼女は」

「…どういうこと?」

「俺の…俺たちの役目はそこじゃない。俺たちならではの何かがあるんだろう」

「何があるっていうの?」

「指示がくるはずだ。…おそらく、俺の苦手な、あの、こわーいお兄さんが、彼女の使者としてやってくるだろう」進の姿を思い出して、眉間にしわを寄せる歩。


「私たちだけで、何ができると…」困惑した表情で、兄の胸に手をやる実歌。

「もちろん、俺たちだけじゃない。他にも協力者がいるはずだ。

 大隅先生のところでは、俺たち兄妹とはパーティーの学年が違っていたが、チームを組んで“勉強した”人間がいただろう? たぶん、あの時の人たちだよ」

「20年以上前よ。今会ってもわからないわ」

「そういう“印”は、時間が経ってもわかるものさ」

「私、そんな方法は身につけてない」

「いや。必要なときが来ればわかるはずだ。おまえは習得済みだよ、四辻先生の下でな。俺もそうだが」

「俺もって…兄さんは四辻先生の塾にいたわけじゃないでしょう?」

「いや。俺も習ってるんだ。それも四辻奏人の計算だったんだよ」


「どういうこと?」

「俺が、スキャンダルを狙って、彼に隠し子だと名乗り出た時、彼は丁寧に俺の話を聞いて、真偽のほどを確かめるには時間がかかるからと、一週間ほど別荘で一緒にいた。

 その時、自分の息子なら全部できるはずだからと、気功の特訓を受けた。結局それは、俺たちと、他のメンバーに仕事をさせるためだったんだ」

「仕事?」

「今回沖縄に来るに当たって華織さんの出した結論は、大隅先生と四辻先生の力を融合させて、おそらく敵が知らないパターンの結界を作らせる、あるいは封じて、そこを突破口にするということなんだと思う」


「大隅先生のところで学んだ他のメンバーって誰?」

「おまえに指示をした女性は西園寺の関係者だ。そっちはそっちで別の動き方があるだろうから、彼女ではないな。

 それと、子どもの行方がわからなくなって退席した彼女は、それどころじゃない。元々欠席していたメンバーも除外。さっきの集まりで残るのは?」

「ナユにマーサ…?」

「じゃあ、その2人だな」


「お兄さんの言う通りよ、ミッキー」

「マーサ!」

「初めまして、森本歩さん。花巻雅です」

「ご家族にはお会いしたことがありますけど、マーサさんには初めてですね」

「息子によれば、あなたは“心を入れ替えた忍者”だそうです」

「それはそれは」笑う歩。

「“怖いお兄さん”は別の仕事中らしいです。私がうかがいました」

「助かります」歩が苦笑する。「できればもう肋骨にヒビを入れたくはないので」


「マーサ…私たち、まず何をすればいいの?」

「うーん。まずは顔見世かしら」

「顔見世?」わけがわからぬ様子の実歌。

「こちらにはいろんなパターンの能力者がいるということを見せ付けるだけでも、集団戦では心理的に意味があるということね。一人の強靭な能力者より、時には相手を霍乱できるわ」

「マーサの口から、そんなこと聞くとは思わなかったわ。昔は一匹狼みたいなイメージだったし」

「そうね…」苦笑いする雅。


「でも、私も人のことは言えないわ。信用する相手はいつも兄さんだけだった」

「きっとナユも、そういうタイプなのね」

「ナユは人当たりも良くて、仲間がたくさんいそうじゃない」

「先生は無駄な人選をしないわ。一匹狼掛ける4の、非協調的集団のなす“気”の渦。それも何かの役に立つということなのよ、きっと。…じゃあ早速だけど、向こうで相談を」

 雅はもう一度周囲を見回すと、バッグから水晶のピアスを取り出し、両耳に付けた。


  *  *  *


“充くん、だいじょうぶかな……かなことおにいちゃまのこと、まもろうとしたから、わるいやつにさらわれちゃったのかな…”

 奏子は自分たちの部屋に戻ると、窓から、さっき自分たちが泳いだプールを見つめた。

「奏子!」

 龍に呼ばれていた翼が、走って部屋に戻ってきた。ドアを開けた疾人が、一目散に窓際に走る翼にびっくりしている。

「大丈夫だよ、奏子。充くんは無事。今、“命”さまのところにいる」

「ほんと?」奏子の顔がぱーっと明るくなる。


「本当だよ。でも、まだお仕事が残ってるから、会えるのは明日になってからだよ」

「あした…」

「だから今日は、紗由ちゃんたちと、さっき龍くんに言われた練習をしようね」

「うん。おにいちゃまもいっしょ?」

「そうだよ。大地くんや、翔太くんも一緒だよ」

「わあ。みんないっしょだね。…はやく、充くんもいっしょになるといいなあ…。せっかく、おにいちゃまとかなこのこと、たすけてくれたのに…」

「そうだね。そのためにも、ちゃんと練習しようね」

「わかった。れんしゅうする」


 奏子は再びプールを見ようとして、窓の向こうに目をやった。

「あれ?…」

「どうしたの?」

 奏子の視線の先を見つめる翼。噴水前のベンチに座っている男性がいる。

「あのひと、ひとでなしのおじさんだ…。かみのけが、はあとのかたちにぬけてるもん」

「森本? 小宮山先生の息子の?」翼が静かにカーテンを閉めながら、隙間を覗く。

「ううん。もうひとりの、おじさん」

「そうか。専務だった人だね」

「日下部さんなら、支社に飛ばされた後に辞めたって聞いたけど…」響子が話に加わる。「だいぶ様子が変わってるわねえ…前は小洒落た、おっとりおじさんだったのに…」


「何でこんなところにいるんだろうね」

 翼が奏子の様子を窺うが、奏子は静かに男を見つめている。

「まさか久我家に逆恨みして、何かする気じゃないだろうなあ」疾人も隣の窓から外を覗き込んだ。

「そこまでするかしら。辞めさせられたわけではないし、前の常務が独立した時にくっついて行ったって聞いたわ。それにあの方、元々常務さんにくっついてきた人だったようだし…」そう言いながらも、何か考え込む響子。

「パパ、念のため、写真撮っておいて。僕も念のため龍くんたちに知らせておくよ」

「わかった」胸ポケットからスマホを取り出す疾人。「誰かを待ってるんだろうか」

 そーっと様子をうかがう疾人の動きを遮るかのように、響子がいきなり部屋を走り出た。


「きょ、響子?」

 疾人が振り向いたときには、もう響子は部屋の中にはいなかった。

 当の響子はと言えば、あっという間に同じフロアの端にあるロビーの非常階段口を開け、1階分下まで階段を下りると、そこから大声で叫んだ。

「日下部さーん!」

 響子は叫ぶとすぐに階段の影に隠れ、周り階段の隙間から日下部の様子を覗いた。そして足早に立ち去ろうとする日下部を確認すると、響子はまた、上まで階段をそーっと上り、非常口から自分の部屋に走り戻った。


 疾人は慌てて響子の後を追ったが、非常口のドアが閉じた後だったため、響子の姿を見つけられない。T字路になっている廊下を曲がり、響子の姿を探す疾人。


「ねえ、おにいちゃま。わるいひとでも、さみしくなることはあるの?」

「日下部さんは寂しそうなの?」

「さゆちゃんのこと、なかせちゃったから、はんせいしたのかなあ…」

 奏子はそう言うと、なぜか日下部ではない人間をじっと見つめた。


「翼、開けて」

 響子の声に、すぐにドアを開ける翼。

「どう? 彼、今どこ?」

「あっちのホールのほうに行っちゃったよ」

 窓の傍らでは、奏子がまだ外を見ている。だが、翼に言われたのか、カーテンの隙間から、こっそりと覗くような様子の奏子。

「ホールに入ったの?」響子も奏子と同じようにして外を覗う。

「うん。あの看板の横の入り口」


「響子、響子…!」

 鍵も持たずに響子を追いかけたものの、元、陸上の国体強化選手だった響子の足についていけず、結局部屋を閉め出されてしまった疾人がドアを必死に叩いている。

「あ…」慌ててドアに駆け寄る響子。「ごめんなさい…」

「どうしたんだよ、急に」

「おかしいわ、あの人。名前を呼ばれたら、普通はしばらく声の主を探すはずよね。今の彼は、日下部さんと呼ばれて困る状態だってことね」

「まあ…そうかもしれないけど…そんな急に言われても…」

 響子の行動が理解できない疾人だったが、翼と奏子が落ち着いているのを確認して、少し安心する。


「おにいちゃま。れんしゅうしに行こう」

「そうだね、奏子。そろそろ龍くんと恭介くんのママの話が終わってると思うから、龍くんのところに、結界の作り方、練習しに行こう」

「うん!」

 奏子はすばやく着替えて、以前、玲香に作ってもらった花菱草をモチーフにしたバッグをかけると、疾人の両手を握り、「行ってきます」とうれしそうに言った。


  *  *  *


 進は明日に備え、会場全体を見回っていた。

 ホールの前の公園で一休みしようかとベンチに座りかけたとき、少し離れた噴水に腰掛けている男の姿が目に入った。後姿なので顔はわからなかったが、中途半端に覚えのある気配だ。

“まさか…?”

 進が男のほうに歩み寄ろうとしたとき、ホテルの上のほうから声がした。

「日下部さーん!」

“この声は響子さん…?”

 進は慌てて木陰に身を隠すと、そっとホテルと男をうかがった。

 ホテルの窓には少女の姿が見える。

“奏子ちゃんだ…。こっちを見てる…?”

 奏子に一瞬気を取られた隙に、男の姿はなくなっていた。

“しまった…。だが、あれは…。いや、それなら華織さまが情報をくれるはず”

 進は、とまどいながら、奏子の視線を避けるようにしてホテルへと戻っていった。


  *  *  *


「進ちゃん、どうしたの、そんなに怖い顔して」未那が背中から進に抱きつく。

「なあ。“命”と“弐の位”と俺のような立場の人間以外で、気配を消せるのは、どういう人間なんだと思う?」

「いないわよ、そんな人。確かに、重爺が診て来たいろんな種類の能力者の中には、気配を抑える人たちもいたようだけど、“命”がサーチすればすぐに浮き出るみたいだもの。特に“感”や“写”の“命”なら、ちゃんと探れるわ」

「だよな…」

「探れないんだとしたら、“命”か“弐の位”か、進ちゃんのお仲間なんじゃないの」

「なるほどな」

「どこ行くの?」

「華織さまにお会いしてくる。すぐに戻るよ」

 進は難しい顔のまま部屋を出た。


  *  *  *


 翼と奏子が、龍と紗由のもとへ向かうと、ちょうど大地と真里菜が部屋の前に反対側からやって来たところだった。部屋に入ると、翔太がすでに来ていて、恭介の母親崇子は、龍との話が終わった後なのか、その姿はなかった。

「きましたー!」真里菜が元気に手を上げる。

「待たせてごめんね、龍くん」翼が言う。

「ううん。翔太も今来たばかりだよ」

「あのさ、さっそくなんだけど、名古屋のパーティーにいた、奏子の嫌いな“人でなし”のおじさんが、さっきホテルの外にいたみたいなんだ」


「やっぱり、くさかべさんだったんだ!」真里菜が叫んだ。

「やっぱりって?」

 龍が尋ねると、大地が説明した。

「龍くんから連絡もらう前に、真里菜と一緒に充くんを探しに行ったんだ」

「充くんのにおい、さがしてたの」

「でも、ホテルの外で、変なにおいと混ざって消えちゃったらしくて。だから、その先にあった建物…イベント会場の予定だったホールのほうね、探しに行ったんだよん」

「そしたらね、なーんか、どこかで知ってるにおいがきたの」

「見た目がずいぶん違ってて、最初誰だかわからなかったんだけど、真里菜が“日下部さんだよ”って。パパが声を掛けようとしたら、いなくなっちゃったんだ」


「でもねえ、ちがうひとかなあともおもったの。なーんかね、いま、へんなんだもん」

「様子が違ってたんだ」龍が真里菜に近づく。

「うん。なんだか、こげたにおいがしたの。ママのしっぱいしたぎょうざみたいだった」

「焦げた…? そうか、ありがとう、まりりん。助かるよ。まりりんの情報は、いつも確かだからね」

「…こまっちゃうなあ…」

 真里菜は、きゅっと口を結びながら、少し自慢げに上を向いた。


「いいなあ…まりりん。かなこも、龍くんのやくにたちたいな…」しょんぼりする奏子。

「奏子ちゃんは、いつだって、僕のためになってくれてるよ。これから先もずっとだよ」

 龍の言葉に、奏子がうれしそうに笑う。

「そうだよね、龍くん。奏子は龍くんにとって必要な人間なんだ。守らなくちゃいけない」翼が龍を鋭い目で見つめた。

「おにいちゃま…?」

 翼の様子を少し妙に感じた奏子が、翼を見上げる。

「ああ、そうだよ。奏子ちゃんは僕が守るんだ」

 龍が、くるりと背中を向けた。そして、窓に手をつき、ホールを見つめた時、ドアがノックされ、外から誠の声がした。


  *  *  *


 響子は、翼と奏子を指定された部屋まで送り届けて戻ってくると、自分の旅行カバンを開けて小さな紙バックを取り出した。

「私も準備にかからなくては」

「ん? 翼たちが練習している間に、親も何かするように言われているのかい?」

「これを最善の状態に調整しておかないといけないの」

 響子が手のひらの上で開いた絹布の中にある物が「羽童」であると認識するまで、疾人には幾ばくかの時間が必要だった。しかも、それがなぜ、ここにあるのかもわからない。


「おまえ、それ…持ち出し禁止じゃないのか? 羽童だよな。うちのは今、伊勢にあるから、実家のだろう?」

「そうよ。背に腹は替えられないわ。私はあの子を守れるものを直接持っていないし」

「守るって?」怪訝そうな疾人。

「奏子を守るの」

「奏子が危険な目に遭うとでも?」

「さあ…龍くんは詳しくは教えられないようだった。でも、奏子を心配して、私に話をしに来てくれたわ」

「龍くんが…」


「今回、皆が沖縄に集まったのには、それなりの理由があるんだと思うの。

 奏子が大きな役割を占めているというか…ううん、正確にはきっと、翼と奏子の2人、いいえ、元をただせば、お義父さまなのかもしれない」

「もう少し、わかりやすく話してくれないか」疾人が幾分眉間にしわを寄せた。

「四辻家の能力者に何かが起こるんだと思うわ。理由はわからないけど、龍くんたちが奏子を守れない時間なり場面なりがあるんじゃないかしら」

「禁忌日か?」

「確かに明日は午前中がそれに当たるはず。…でもね、それが当てはまるのは“命”と“弐の位”だけ。華織おばさま、風馬さん、誠さん、龍くん、翼、この5人以外は動けるわ」


「えーと、躍太郎おじさん、すもも組のメンバーと、翔太くん、大地くんか…。

 とりあえず、躍太郎おじさんと翔太くん、紗由ちゃんは、かなり力が強いんだったよな」

「ええ。それに“使える”人は、もっといるはず。私たちに直接紹介されていなくても。これを運んでいる途中、時々、指輪が反応していたし」アメジストの指輪を撫でる響子。

「それって、敵にも反応するものなのか? もしかして、さっきの日下部さんも?」

「持っていると、私でもかなり鋭敏になるわ。…日下部さんにも指輪は反応した」


「そうか…。でも、さっき翼と奏子は落ち着いていたよな。敵だとしても大した相手ではないっていうことなのか?」

「さあ…そこまでは…」

「うーん。やっぱり、わかりづらいな、能力者たちの言動は」疾人が苦笑いする。「まあ、何はともあれ、奏子に何かあったときに、羽童は危機回避のアイテムになりそうだということなんだな」

「ええ。おそらく。龍くんが私に話をしたということから考えても、私に用意できる何かが奏子を守るということだと思うの」


「だが、羽童を持ち出したことで、お義父さんにお咎めでもあったら、どうするんだ」

「大丈夫よ。持ち出したのはお父さん。名古屋まで持ってきてもらったの。私は今それを預かっているだけ」

「仕事があるから現地合流って、そういうことだったのか」

 響子は、沖縄に来る際、仕事で立ち寄るところがあるので、少し遅れて現地に入るかもしれないという話だった。実際には、疾人たちより少し先に到着していたのだが。


「預かるのは大丈夫なのか?」

「後継者が委任された場合は大丈夫なんですって。鈴音さんに聞いたの」

「でも、実家の後継者は筋斗くんだろ?」

 響子の実家の宿の跡取りは、響子の弟、筋斗だと思っていた疾人は、不思議そうに尋ねた。

「お父さんは、私が四辻に嫁いだ後、特に筋斗を後継者に指名してはいないの。

 実家では、長女の私が家を出たら、長男が継ぐのが当然と思っていたから、いちいちそんなことをしてなかったというだけなんだけど。

 だから、伊勢の記録上は、後継者はまだ私なのよ。

 それに、“指名がない限り、長子から順に継承権がある”というのが正式な決まりらしいから、私の後は筋斗じゃなくて、妹の鳴子よ」


「そうなんだ…」疾人は、しばし考え込んだ。「で、どうするんだい、羽童の調整というのは。僕にできることはあるかい?」

「それが…あんまりよくわからないの」肩をすぼめる響子。

「おい…!」

「父が言うには、羽童さまの力を強くするのは、“命”さまのお言葉と儀式なんですって。でも、私はそういう儀式に参加したことはないし」

「じゃあ、どうするつもりなんだい」

 疾人は、それでも落胆した様子もなく、淡々とカバンから袋を取り出し、中身を広げる響子の様子を怪訝そうに眺めた。

「この童さまが教えを請う“命”さまのお言葉を聞くのよ」


「え?」

「うちの宿に来ていた“命”さまは、お義父さまと誠さんですもの」

 響子がテーブルに広げた小さな機材のようなもののダイヤルを調節すると、機械からは音声が流れてきた。

「おい、これ…」

「奏子のウエアの胸ポケットに仕込んでおいたの」

「大丈夫なのか、おまえ…これって盗聴じゃないか」

「何かあった時のためにと思って、用意しておいたの。よかったわ。役に立って」

「響子…」


「翼が言っていたでしょう? 結界の作り方の練習だって。

 華織おばさまは、充くんとしばらく一緒にいるようだし、だとしたら、練習を必要とするような高度な結界のことを教えられるのは誠さんだけ。

 風馬さんも龍くんも力はすごいらしいけど、地位的には、まだ“弐の位”だし。

 とにかくね、皆が練習している様子を童さまに聞いてもらえば、力が強くなるんじゃないかと思って」

 そう言いながら、響子はゆっくりと四辻家の“石”を羽童の周囲に置いていった。

「まあ、仕方ないな。仕掛けちゃったものは」

 疾人は深くため息をつくと、響子の顔を見つめた。


  *  *  *


 その頃、進は進で、自分が仕掛けた盗聴器から流れてくる、疾人たちの会話に耳を傾けながら苦笑いしていた。

「“宿”の娘というのは、どうしてああも勘がいいんだろうな」

「あれも立派な“力”よね」

「まったくだ。必要な時に必要なことができるのが“力”だからな。母親というのは、そういう生き物なんだろう」

「でも、私だったら短慮で華織さまに直訴がいいところだわ」小さくため息をつく未那。

「気にするな。それがおまえの良いところだ」進がくすりと笑う。

「ありがとう」少々不満げな未那。


「それにしても響子さん、思い切ったことをしたものだ」

「龍さま相手に盗聴を仕掛けるとはねえ…」未那も苦笑いする。

「まあ、龍さまは、その辺も織り込み済みで動いていらっしゃるだろうがな」

「そうね。ご説明が、くどいぐらいに具体的だわ。あのメンバーなら身体で感じ取れるようなことまで、言葉で丁寧に説明している。誠さんもそれに合わせているようだし…。響子さん…と言うか、羽童に聞かせることが前提なんでしょうね」

「龍さまの優しさの質は、実に華織さまのそれに似ている」

「そうね。響子さんが、それを理解してくれる方でよかったわ。それと、誠さんのこと、進が手伝ってあげられればいいのにねえ」未那は笑いながら機材のダイヤルを再調整した。


  *  *  *


 龍の指示によって“練習”のために集まった紗由たちは、なぜか皆、玉入れの時のおそろいのスポーツウエア姿になっていた。両手を腰にやり、アキレス腱を伸ばして、準備運動を始める紗由。

「紗由。運動会の練習じゃないよ」

「びよよ~ん、のれんしゅうでしょう?」

「ああ」

「じゃあ、ダンスしながら、するといいとおもいまーす」

 龍から、結界を意図した場所に遠隔で張る練習をするのだと説明を受けた紗由は、当然だという顔で、バレエの第3ポジションを取りながら言う。

「まりりんは、フラダンスしながら、する!」

「かなこは、にほんぶようです!」

「ぼくは、充くんとやった、あわおどり!」

「別に踊らなくてもいいと思うけど」

 仕方ないなという様子で言う龍に、翔太が提案した。


「でも、龍。4人がいつも、ぴったりくっついてるとは限らへんで。4人全員が頭で話はできへんのやし、龍が紗由ちゃんに頭ん中で合図して、紗由ちゃんが踊って3人に合図したら、ええのんちゃうか?」

「ええのんちゃうか?」にっこり笑う紗由。

「…わかったよ」龍が不満げに承知する。「じゃあ誠さん、よろしくお願いします」

「はい。では、具体的な方法と動きは、僕のほうから説明します」

「あの…」遠慮がちに奏子が声を出した。

「何だい、奏子ちゃん?」微笑む誠。

「あの…おにいさんか、おねえさんか、はっきりしたほうがいいとおもいます。…きになります」申し訳なさそうに小さな声でささやく奏子。


「そうだよね。きれいなきものをきたおんなのひとが、“ぼく”なんて言わないよ」恭介が同意する。

「うん。きになって、れんしゅうできない」間髪いれずに言う真里菜。

「…着替えたり、化粧を落としたりしている時間もないので、お姉さんということで行きます」強張った表情の誠。

 プールで手品のアシスタントをした後、様子を探るため、そのままの格好で各所を回っていたので、龍に呼ばれた時間までに元の格好に戻る時間がなかったのだ。


「ごめんなさい、誠さん…」

 予想外の奏子たちの発言に龍が動揺を見せるが、誠は小さく深呼吸すると、ニッコリと妖艶な笑みを浮かべた。

「龍くん、気にしないでいいわ。…さあ、みんな。お姉さんと一緒に、楽しく踊りながら結界の作り方を覚えましょうねえ」

「はーい!」元気に返事をする、すもも組の4人。

「なんや、綺麗過ぎて、そっちのほうが気になるけどなあ」翔太がつぶやいた。


「“おかまこと様”じゃあ!」

 大地が叫ぶと、すもも組の3人は、口々に“おかまこと様”と叫びながら、拳を上げた。

「あかんわ。誠はん、涙目になってはる」

「うるんだ目が、よけいに美人に見えちゃうね」

 翼が淡々と言うと、龍は傍らで深くため息をついた。


  *  *  *


「しくじったみたいだな、ショウ」

「いや、あの、妙な女が部屋に入ってきて、後から来た男に“火”がきかなくて。それにキックと連絡が取れなくなって…」

 まだ混乱が止まぬのか、しどろもどろに説明するショウ。

「日付が変わるまで時間をやろう」

「日下部さん…」

「それまでにキックと合流して、明日に備えろ」

「は、はい」

 後ずさるショウを睨みつけると、日下部は部屋を後にした。


  *  *  *


 結界の練習は楽しく進んでいるかに見えたが、突然紗由が誠にクレームをつけ始めた。

「まことおねえさん。さゆは、ちょっとやりにくいです」

「あら、どうして?」

「4にんのまんなかにあるものをまもるための、びよよ~んをつくるんですよね?」

「そうだよ、紗由。さっき説明した通りだよ。みんなの真ん中にある宝物を守るイメージをすればいいんだよ」龍が答える。

「でも、みんなのたからものは、べつべつだから、まもりかたがちがうとおもう」

「なるほどねえ…」考え込む誠。


「にいさまが、みんなにたのむんだから、にいさまのたからものを、みんなでまもればいいとおもうの」

「僕の?」

「そう」紗由は奏子の手を引っ張ると、自分と真里菜と恭介の真ん中に立たせた。「かなこちゃんがいたところは、おねえさんがかわりになってください」

「あ、そうか! 龍くんのたからものは、かなこちゃんだね! かなこちゃんをまもればいいんだね!」真里菜が何度も頷く。


「さゆちゃん、あたまいいね。おやつたべてるばかりじゃないんだね」感心する恭介。

「おやつをたくさんたべるから、あたまにえいようがいって、いいことをおもいつくんです」紗由がぎろりと恭介をにらんだ。

「す、すみません…」

「いいわ。じゃあ、紗由ちゃんの提案に従いましょう。私は奏子ちゃんのポジションを担当します」微笑む誠。


「あ、あの…」奏子が不安げに誠を見上げた。「でも、ちがうかもしれないから…」

「僕も賛成」龍が言う。

「龍くん…」

「じゃあ、僕の宝物をみんなで守ってください」

 照れ隠しなのか、龍が少しぶっきらぼうに紗由たちに言うと、奏子はうれしそうに皆を見回し、紗由たちは元気に「はい!」と返事をした。


  *  *  *


 ショウは、弟のキックと連絡が取れなくなったこと、キックがマークしていたはずの美智香が姿を消したこと、その母親のmiwaの行方もわからぬこと、そしてマーサの息子といたあの部屋に入ってきた奴らは誰なのか、なぜあの男に“火”が効かなかったのかなど、いろんなことで頭が混乱して、今の状況を、どう捉えていいのかわからなくなっていた。

 とりあえずキックを探そうと再度会場を探索していたものの、夜遅い時間ということもあり、開催イベントの性質上、その時間、明かりもあまりない。辺りは暗くて、キックらしき人間を探し出すことはできなかった。


 大体、“あの人”だって能力者なら、キックの居所ぐらいわからないのか。

 彼は俺たちのように“火”を操るだけではなく、予知能力の持ち主。俺たちの力と自分の予知を合わせて、世間に力を認めさせよう。そういうことだったはずだ。

 四辻先生の跡取りよりも優れた力の持ち主だと、“その筋”の人間たちに示せたなら、自分たちがその世界の覇者になれる。彼はそう言っていた。

 まさか、そんな彼の力をもってしても居所が突き止められないように探索の手が封じられていて、キックはその相手に拉致されているとでも? “命”の誰かが…?


 ショウは、“あの人”の力をもう一度思い起こしていた。

「私は“点ける”だけじゃなく、“消す”こともできる」

 彼はそう言って、目の前のベッドを炎に包み、続いてその炎が消えた。

 そして彼はさらに、この地で環境保護関係の大きなイベントが行われることと、西園寺総理誕生を予言した。それが4年前。

 彼は予知だけに留まらず、四辻先生が俺たち兄弟にした仕打ちも言い当てた。俺たちは、そこで初めて彼の力が本物だと確信したんだ。だから、彼の手足となって働いてきた。

 結果、西園寺総理誕生の色は強くなり、俺たちはますます彼の力を信じるようになった。


 だが、よく考えてみると、ここ沖縄で起きていることは、何かおかしい気もする。

 キックはmiwaの娘に火を点けさせようとして、失敗に終わった。

 あの時、俺は庁舎の3階から見ていて、直後の炎が目くらましになり、総理の登場に気を取られたということもあって、キックとmiwaの娘から少し目を離したら、二人の姿は消えていた。

 キックたちがいた会場にはあの人もいた。なぜ彼は、キックの失敗をそのままにしておいたのか。

 俺のいたところからでは、アナウンサー席のブースがじゃまで、それは無理だったが、彼は自分で火を点ければいいだけだったんじゃないのか。なぜそれをしなかった?

 

「できないからよ」

 後ろから女の声がして、ショウはビクッと身体を震わせた。ゆっくり振り向くショウ。

「おまえ、さっきの…?」

「あら。まだ私が誰か気づいてくれないのね」

 未那が微笑む傍らで、進も言う。

「薄情なお友達だね。9年ぶりの再会だっていうのに」

「まさか…ミーナ?」その正体に気づき、顔色が変わるショウ。

「そんなに驚かないでよ。私があなたたちを探していること、わかってるくせに」

「そ、それは…」


「俺たちが来ること、君の師匠から、とっくに連絡が行っていると思ったんだが…」にやりと笑う進。

「あら、来てなかったのね。そんな相手を予知能力者と思って従っているなんて、あなたたちらしくないわね。四辻先生のことは、あんなに疑っておいて、彼のことは頭から信じてしまうなんて」

「まあ、そう責めるな。信奉する相手を渇望していたときに、タイミングよく現れた相手だ。…それでも、検証を怠ったのは命取りだったがな」

「…何なんだ、おまえたち。俺をどうするつもりだ。それに、さっきの“できない”って、どういう意味だ。なぜ俺の頭の中がわかった。俺の“火”も効かない。どうしてだ!」

 驚きと恐怖感が、声を出すうちに段々と苛立ちに変わってきたのか、ショウは最後には怒鳴り声になっている。


「まず、俺たちが何者なのか、なぜ頭の中をわかったのか、どうして火が効かなかったのかという問いへの答えだ。君の頭の中を読めるし、君の“火”は効かない。そういう存在だからだ」

「“命”…なのか?」

「ただの一兵卒だよ」

「“命”さまに失礼すぎるわ。撤回して頂戴」

「ほ、褒めてやったんだ。礼くらい言ったらどうだ」少し声が震えるショウ。

「ああ、そうだな。君たちの力が大したことがなかったおかげで、四辻家の方々に大事がなくてよかったよ。ありがとう」進が薄笑いを浮かべる。

「…生憎と、俺ができなくても他の人間が遂行するだけだ」

「ああ、そうそう。さっきの質問にあったわね。あなたをどうするつもりかって。取引に来たのよ、私たち」


「取引?」

「そう。明日の予定、すべてキャンセルしてほしいの」

「ふん。俺が止めたところで事態は変わらないと言っただろう」苛立たしげに言うショウ。

「君の動きを止めろと言っているんじゃない。お仲間の動きを止めろと言っているんだ」

「そんなこと、応じるわけがないだろ!」

「でも、いやなら大事な兄弟が燃えちゃうかも」妖艶に未那が微笑む。

「“火”の使い手には、“火”は効かない」馬鹿にしたように言うショウ。

「あら。大抵の物体は、ガソリンをかけてライターで火を点ければ燃えるわよ」

「な、何を言ってる…」

「彼ね、気が短いのよ」未那が時計を見ると進を見つめた。


「まあ、いい。師匠と相談して決めろ」

 進の言葉に、ショウは答えない。

「待て。まだ俺の問いに答えていない。なぜ“できない”んだ」

「少しは自分の頭で考えたら?」苛立たしげに答える未那。

「まあ、そう言うな。彼も動揺してるんだよ。…いいかい、坊や。やたらと手の内をひけらかすような人間は、力を盗まれるだけなんだ。覚えておけ」

 進はそう言うと、未那に合図をした。

「お、おい、待て…!」

 だが、次の瞬間、進と未那の姿は、ショウの前から消えていた。


  *  *  *


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