表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編(超短編)

夕なぎ

作者: 芝田 弦也

ーー目を閉じた先に見えるもの。

それは……記憶の向こうにある永劫の世界。


何処かで生まれては寄せてはかえす波間の中に

大小様々な海月がたゆたう浜辺で、一対の足跡だけが刻まれていた。


己の鼓動が聞こえてきそうな程、雑多な音が止み静まり返る凪の時間。

潮の香りを大いに含んだ湿った空気で包まれる。

空気を吸い込めば鼻腔をくすぐる塩辛い涙の味。

情景と一緒に刻まれた香りの記憶。 

そっと入り込んで、記憶の蓋を緩めて行く。


トロトロと解け流れ呼び起こされて来る、いつかの映像。

瞼裏に映し出される、今を築き上げてくれた遠い日の私。

他の人には見せる事が出来ない、私だけが持つフィルム。

上映はいつも、この浜辺に来た時だけ。

意思とは関係無しに流れ始め、費える事の無い記憶の洪水が押し寄せる。


溢れすぎてしまわない様に、頬に何かが伝う前に、

頃合いを計っていつもこの場所と別れを告げる。

そっと目を開ければ、目元に溜まっていた水滴が零れ落ちて、

サラサラと乾ききった砂地に滲み、潤いを持たせて広がって行く。

水滴が落ちた所から芽吹く花の芽。

ぽつりぽつりと新緑の芽が顔を出して挨拶をする。


湿った空気を払い流してくれる陸風。

記憶の鍵を持って、海面を波立たせ吹荒れ流れて、

辺りに漂っていた重たい空気を隅々まで清らかにしてく。

気付けば、いつかに芽生えた花が咲誇り、

沈んで行く太陽に向かって微笑んでいた。


たおやかで勇ましい容姿に緩んでしまう頬。

甘くて優しい香りを運び、心を満たさせてくれる。

次来る時は、慈愛に満ちた面持ちで足を運ぶんだろう。


黄昏の空に煌めく一輪の花と、これから咲誇る花々を見守り続ける為に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ