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ヤマトの底力



城の倉庫から、球体の親玉のある部屋へと向かうハヤテとギンジ。だが、倉庫の中は数人の衛兵が巡回しており、見つからずに突破するのは難しそうだった。


「ど、どうしましょうギンジさん……」

「余計な戦闘は避けたい……突破する。俺の後ろにいろ」


ギンジの体から魔力が溢れ出す。その溢れ出た魔力に、敵も気づきかけたが、敵がこちらを見るよりも早く、ギンジは魔法を発動していた。


子守唄(ニンナナンナ)……」


花粉のような粉が辺り一面に舞う。その粉に触れた衛兵たちはたちまち眠りに落ちてしまった。


「すげー……これも魔法ですか」

「……かなり初級のな。効果も薄いから10分もすれば眼が覚める。先を急ぐぞ」

「あ、はいッ」


眠らせた衛兵たちを起こさないように二人は慎重に足を運ぶ。そして、倉庫の一番奥、見るからに他の棚と離れており、位置に違和感を覚える棚を発見する。

ギンジがその棚を横にずらすと、アルバートの言った通り、後ろに他の部屋につながっているであろう階段があった。


「……上に繋がっているようだ」


二人は中に入ると棚の位置を中から戻せるだけ戻し、持ってきていた明かりをつける。階段を登りきった場所の部屋から微かに赤い光が溢れ出していた。あまり長くのない階段のようだった。


「あの光が親玉っぽいですね」

「そうだな……」


ギンジが先行し、ハヤテが後に続く。5分もかからず、階段を登りきると、そこはだだっ広い空間が広がっていた。部屋の真ん中には魔法陣がかかれており、その真ん中に祀られるようにして赤色の球体が置かれている。部屋には松明が何本かあるが、どれも火はついておらず、球体から発せられる赤い光でどうにか周りが見える状態だった。


「じゃあさっさとこいつを壊して、オルダのアホに報告しましょう」

「……」


ハヤテが促すも、ギンジは全くそこから動こうとしなかった。じっと先を見つめ、目を離さない。


「……ハヤテ、俺が合図を出したら、お前の出せる最高速度で、お前の出せる最高の力で殴れ。わかったな」


聴こえるか聴こえないかの声でギンジがハヤテに指示を出す。実のところ、この時点でギンジは敵の気配を読み取っていたのだが、まだ未熟なハヤテは敵を感知できていなかった。


「え? 待ってください準備が……」

「行くぞ……3、2、1……」

「ちょっ……待って」

「いけ!!!」


ギンジの合図とともに何が何だかわからないハヤテはがむしゃらに敵に突っ込む。彼の出せる最高速度、最高の力で殴りにかかる。そして、彼の拳が何かに触れたかと思うと、たちまち爆発を引き起こし部屋が一瞬明るくなる。ハヤテは間一髪で爆発を避けた。ハヤテの横にはギンジがおり、彼もまた、ハヤテと共に敵に攻撃を仕掛けたが、爆発が起きて、後ろに避けたのだ。


「面倒だな……」

「えっ、気づいてたなら教えてくださいよ」


爆発を起こした張本人が赤い光に照らされて、露わになる。青髪を後ろで束ね、肩出しニットにショートパンツという、戦場には不向きな服装の女性が現れた。


「あなた方が今回の討伐依頼ですね。恨みはありませんが仕事なので……ここで死んでください」


彼女が手に持つのは身の丈に合わない大剣。とてつもない重量感を感じるが、彼女はそれを軽々と振り回す。


「はぁッ!!」


薙ぎ払いを飛んで避けるギンジとハヤテ。ギンジは飛んだまま相手に狙いをつけ、掌底を繰り出した。だがその一手は、大剣により防がれる。その後、先ほど怒ったような爆発が再びギンジを襲う。


「ギンジさん!?」


もろに爆風を受けたギンジはよろめきながらも態勢を整える。少し相手と距離を取り、敵の出方を図る。


「普通……の剣士じゃ、ない?」

「もう一度受けてみますか? 何かわかるかもしれませんよ……耐えれたらの話ですが」


地面を大きく蹴り、距離を詰める女剣士。ハヤテは、ギンジに手を出させまいと得意の自己暗示で応戦しようと試みる。


「俺もッ! いるぞぉッ!!」


ハヤテにとっては渾身の蹴りだった。大剣を片手に持つ女相手ならこれでも十分通用すると思っていた。だが女剣士は片腕でハヤテの蹴りを受け止めるとそのまま、爆発を起こす。


「うぇあッ!?」

「甘いですよ、あとで相手してあげますから大人しくしていなさい」

「ッ! こンのぉ!!!」


ハヤテは初級の火遁術を女剣士に飛ばす。だが彼女はそれを避けると、そのままハヤテの脚を掴み、ハヤテを放り投げた。スピードを落とすことなく、ギンジに向かって大剣を振り下ろす女剣士。爆風のダメージが大きかったのか、ギンジはまだ立ち上がれない。


「悪く思わないで。これが私の、仕事なの……!」

「ギンジさん!!」

「……ッ!!」


女剣士が大剣を振り下ろすと同時に、また爆発が起こる。砂ぼこりと煙が、二人を包み込むように舞う。砂ぼこりが晴れると、そこには体験の一撃を腕で受け止めるギンジの姿があった。


「わ、私の剣を……腕で??」

「お前……の、魔法……全身に起爆スイッチを仕掛けて……物理攻撃に反応、するものだろう……ハヤテの小さい、火遁術を避けた意味が……今わかった」


ギンジは大剣を腕で押し上げながら立ち上がる。彼の腕と彼女の大剣の間には、よく見ると薄い障壁があった。


「お前は、俺たちみたいな力で勝負するようなやつとは……相性がいい。剣でも体でも、起爆さえしてしまえば、でかいダメージを与えられる……」

「ッ!? ヤマトの人間のくせに、魔法を使えるなんて……!」

「えっ、なんで俺らがヤマトの人間だってバレてるの」


ハヤテは完全に置き去りにされており、彼の発言など二人とも気にも留めなかったが、ギンジにもその点は不思議に思っていた。


「まぁ……大方魔導師という人間はうちの団長みたいにら肉弾戦はからっきしだし、お前みたいな物理タイプにも魔法タイプにも対応できる剣士は、警備にはうってつけだが……」


ギンジは立ち上がると、魔法陣を展開する。

たちまち、彼の周りには青色の魔法陣が現れる。


「俺のような……魔法と体術を両立するタイプの人間には弱い……!」

「嘘……基礎魔力の低いヤマトの人間からこんなにも魔力が……!」


女剣士は、冷や汗を流しつつも詠唱中の今がチャンスだと悟り、再びギンジに攻撃を仕掛ける。


「あと……1発でも打ち込めば! 私の、私の……!!」


ギンジに向かって、大剣を振りかざす女剣士。彼女は焦っていた。完全に想定外の相手だったからだ。事前にヤマトの人間だから、攻撃さえ凌げば勝手に自滅するだろうと、なめてかかっていた。だか、この逆転劇は全く予想できない出来事であり、その驚きとショックは、彼女の頭の中からハヤテの存在を完璧に消していた。


「でぇあァァァァァァッ!!!!」


彼女の大剣がギンジにあたりかけ、勝ちを確信したとき、横方向から小さな火の玉が飛んでくる。それは、あまりにも小さく、攻撃とは到底言い難いものであったが、激しく焦る女剣士を戸惑わせるには十分すぎる効果があった。


「え……!?」

「よくやった、ハヤテ……!」


彼の周りに小さな風が巻き起こる。そのまま、女剣士に向かって風の大砲を打ち出した。


風砲(ヴァン・カノン)!!」


瞬間、とてつもない風の音がしたかと思うと、女剣士を吹き飛ばす。壁に激突した女剣士はぐったりとうなだれて気絶してしまった。


「ヤマトだからと……なめるな……その油断がお前の敗因だ……」



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