一方的な作戦会議
オルダに街でも散策してこいと言われたハヤテは、日没まで時間があるため、言う通りに街に出向いていた。その際、メリッサが同行したいと言ったため、2人で街に出てきていた。
「いいの? あの詐欺魔法使い置いてきちゃって」
「大丈夫ですよ。それより、ハヤテさんは初めてなんですよね? この街は。よかったらご案内しますよ」
その言葉に甘えて、ハヤテはメリッサと共に行動している。彼女の提案で、まずはこの街名物の市場を見に行くことにした。
「来た時も思ったけど……やっぱりこの街の市場は活気がすごいな」
「そうでしょう? でも以前はもっと、活気にあふれていたんですよ」
メリッサは、連なる屋台の中で、所々閉まった店を見ながら言う。
「現王が外交政策に対して消極的で……一部との取引をやめてしまったんです。いくら貿易の中心地といえども、入ってくる物がなければ意味ないのに……」
「よっぽどヤマトとのケンカが応えたのか……なぁなぁ、メリッサさん。これなんだ?」
ハヤテの指差した店には、赤色に輝く小さな丸い球体が並んでいた。
「おぉっと、ニイチャン。そいつぁ売れねーよ。現王様から直々に頂戴したものだからなぁ!」
店の主人は豪快に笑うと、球体を店の奥へとしまいに行く。帰って来た主人に向かって、メリッサは真剣な眼差しで問いかける。
「……ご主人、この球体はこの市場の方は皆さん持ってらっしゃるのですか?」
「全員というわけではねぇが……現王様が直々に渡しに来てくださってなあ……受け取らなかった連中もいたようだが、そいつらは店も潰れちまってよぉ。現王様のご厚意を無下にするからだと俺は思うねぇ」
「……そうですか。ありがとうございます。ハヤテさん、団長のところへ戻りましょう」
「うぇっ、もう戻るの」
くるりと来た道を戻るメリッサ。出店をマジマジと眺めていたハヤテは、慌ててその後を追う。
「どうしたんだよ、急に戻るなんて」
「先程の球体、魔法道具です。気になる話でしたので団長に直接見てもらおうかと」
「でも、あの魔法道具持ってないし……わざわざここまで来てもらうのか?」
するとメリッサは懐から一つの赤い球体を取り出す。
「先程のご主人が二つお持ちでしたので、一つ頂戴しました」
「意外と手癖悪いね? メリッサさん」
急いでオルダの元へ戻る二人。部屋に入ると彼は書類と睨み合いをしていた。その隣では、何故かアルバートが紅茶を飲んでいる。
「まだいたのですか、アルバート」
「おおっ! ハヤテくん、戻って来たのだね!
さぁ、再戦といこうではないか!」
アルバートを無視し、二人はオルダに向き合うと先程あった出来事を話す。
「うーん、幻影魔法の一種かな? この魔法道具自体はそこまで希少性の高いもんじゃないけど……異常な現王の支持率はこいつが原因かあ」
「わざわざ自分で出向けばそれだけで印象は段違いですもんね」
アルバートは横から覗き込むと、その球体をマジマジと見つめ再び席に戻る。
「ふむ……私もこれは城で見たことがある。こいつの『親玉』が城のどこかに隠されているはずだ」
「親玉? この子供を生み出してるってことか。なんつー生産性の高い魔法道具だ」
「お、おいオルダ。いいのか、そんなあっさり信じて」
ハヤテはまだアルバートは向こう側の人間だと疑っている。いくら王家に興味がないとはいえ、彼も元々その人間。嘘をついておびき出そうとしてるのではないかと思ったのだ。
「だぁーいじょーぶだって! こいつのことは昔から知ってるから、嘘はついてないよ……となると、こいつの親玉を壊せば魔法で惑わされてる人たちも元に戻るかな」
「魔法の効果自体は脆いようですし……ただ城のどこにあるかがわからないとどうしようもありませんね」
「……ギンジに行かせようかな。アルバート、お前はどうすんの」
アルバートは長い髪を払いながら、キザっぽく答える。
「ギンジくんに同行しよう。私の方が城の内部をわかっているからね。その代わり、この件が終わったら私と戦いたまえ!」
「ハヤテにすら勝てない雑魚にキョーミねぇよ。もうちょい強くなって出直しな」
アルバートを見ることなく言い捨てるオルダ。だがアルバートはそんなことは全く気にしていない様子だった。これがこの二人のいつものやり取りなのである。
「ハヤテはどうする?」
「えっと……俺もギンジさんに着いていきたい」
外に出て来たハヤテにとって、変人の巣窟であるここでギンジだけがまともだと悟った彼は、知らず知らずのうちギンジに懐いていた。
「よし、じゃあ三人で探して来てくれ。見つけ次第、作戦に移行する」
「え? 細かいこと俺何も知らないけど……」
「大丈夫大丈夫。ゲストにそんな危険なことさせないからさ。ハヤテはギンジの言う通り動いてくれたらいいよ」
いつもの胡散臭い笑顔で答えるオルダ。だがその笑顔にハヤテは安心感を覚えていた。
そして、翌日。ギンジとハヤテはアルバートに連れられ城に向かうのだった。