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変態王子


「さて」


同盟を結んで翌日、作戦会議のために一同は会議室に集合していた。


「早速いろいろ決めていこうか。もちろんこの部屋は防音仕様。この机に立ってるペンライトみたいなのから妨害電波もとばしてるから盗聴も防げる」

「作戦はできてるのか?」


ハヤテが尋ねると、メリッサがオルダの代わりに答える。


「作戦……と言いますか。ようは現国王さえ殺してしまえばいいのですから、そこまで細かい作戦はありません。ただ、問題はその後です。親族の処理、民への対処……ゲルダ地方の中心国であるウィビルの国王が暗殺されたとなると、世界情勢にも影響が出てくるでしょう」

「そう、だから国王は暗殺されたのではない。病死、または事故死したんだと認識させる必要がある」


暗殺といっても表立ってしてしまえば大きな問題になりかねない。最小限の騒ぎで抑えるにはやはり事故死に見せかけたほうがその後の動きも楽だろうとオルダは判断した。


「まぁ、事故死に見せる方法なんざいくらでもあるが。問題はその後なんだよなぁ……あいつら親族にその後を継いで欲しくないし、俺もしてはメリッサが次期国王になるのがベストだとは思うが……」

「……自分もメリッサさんが適していると思います」


大柄な男もボソリと同意する。


「あ、そういえばそっちの男の人は……」

「ん? あぁ、こいつはギンジ。ハヤテと同じ、ヤマト地方出身だから、仲良くできると思うよ」


オルダの紹介に合わせて、ぺこりとお辞儀をするギンジ。あまり積極的に喋るような人間ではないということは昨日の態度からも見て取れた。


「オルダがヤマトの人間に寛容なのはそのせいか」

「というか別にどこ出身でもいいんだ。差別とかしないの、俺」

「ふーん……やたらとヤマトに興味持ってるのもその……」


話が脱線し始めた2人に対し、メリッサがこほん、とわざとらしく咳込んだ。


「暗殺方法は後ほど考えるとして……今はとりあえず、暗殺後……残りの親族の処分、そして民への説明について考えましょう」

「あー、その親族の処分だが……別に殺す必要はないんじゃないか? 投票制にして決めればいい。サクラさえ用意すれば操作は簡単だろう」


ハヤテは話こそ理解してはいるが、それをどのような方法を用いて行うのかは全く見当がつかなかった。


「まぁ、結局は印象操作だからね。他の連中の悪口言ってメリッサの株上げとけばほぼ間違いなくメリッサは次期王になる。その下準備が大変だが」

「それもありますが……団長。一番気をつけたいのが……」


メリッサが言い終わる前に、突然。その言葉を遮るようにしてどこからか声が聞こえてきた。


「何楽しそうなことしてるのかな? 団長サン?」


防音加工されてるはずの部屋の外。窓から中を覗き込む一つの影があった。ハヤテがその影を確認すると同時に、金髪の長い髪の青年が窓を蹴破って部屋に侵入する。何故か薔薇をくわえた青年は部屋に入るなり、謎のポーズをとる。


「げっ……」

「げっ……とはご挨拶だねぇ。この私が直々に出向いてやったというのに……」


ギンジもメリッサもアルバートと呼ばれた青年に対し、それぞれ構えを取る。


「な、なんだ? こいつ……」


呆気に取られるハヤテの方をアルバートはちらりと見ると彼は一瞬でハヤテの目の前に移動した。


「……!?」


咄嗟に短剣を横に振るも、アルバートは宙を華麗に舞うと、また窓枠へと戻る。


「その子はお客さんかい? だめだなぁ、無関係の人間を自分の欲望を満たすために利用するなんて……」

「ちゃんと契約を結んだ上での同盟だ。お前に心配させることは何もない。とっとと帰んな」


お互い目を離さず、動かないで相手を観察する。互いに敵の初動を待っているのだ。ハヤテも短剣を構えてはいるが、先ほどのアルバートの動きから、只者でないことは容易に読み取れた。


「ギンジさん……あの人は……?」


ハヤテはひそひそと隣に立つギンジに尋ねる。

ギンジはアルバートから目を離さずに答えた。


「アルバートは現国王の四男です。戦闘狂で有名で……王の地位自体には興味がない男です」

「えっ、それならこのまま帰したらやばいことになるんじゃ……」


そんなハヤテの声が聞こえたのか、アルバートは満面の笑みを浮かべる。


「大丈夫さ! 俺は王位とかどうでもいいから! むしろ父上嫌いだし、ぶっ殺して欲しいくらいなのだけどね〜!」

「……やばいやつじゃん」

「まぁ変人ではあるね。ナルシストを具現化したような人間だ、あいつは」


よくわからない紹介を受けつつも、ひとまず今は襲ってこないだろう、そう勝手に判断したハヤテは短剣を仕舞おうとする。

しかし、そのタイミングを見計らっていたかのように、アルバートはハヤテに攻撃を仕掛けた。


「……っ!?」


ハヤテは咄嗟にしまいかけの短剣で攻撃を受け止める。その隙に、腰に装備していたもう一本の短剣でアルバートを薙ぎ払う。アルバートは先程と同じようにまた窓枠へと戻って行く。


「なんなんだよ、さっきから……!」


隙を与えまいと、次は苦無を投げるハヤテ。しかし苦無は先程攻撃してきたであろう武器に弾かれて、はたき落とされてしまった。


「なかなかいい動きだねぇ。まだまだ発展途上だが……さすがはヤマトの人間か。身体能力は伊達じゃない」


ハヤテの使う武器や戦い方から、ヤマトの人間だと判断するアルバート。それだけで相当の場数を踏んでいることは明らかだ。


「そらそうさ。俺が勧誘した男だからね。そんで? 今日は何の用かな」

「決まってるだろう? オルダ……君をぶちのめすために来たのだよ! 王国最強の魔導師たる君の力を存分に味わいたいと思ってね!」

「またですか……いい加減諦めてはどうです」


メリッサの口ぶりから、何度もなんども挑戦しに来ているようだった。オルダも薄々何をしに来たのかわかっていたようで、ため息をつく。


「めんどくさいな……今こんな変態王子に構ってる暇はないのに……けど放置してたら告げ口するぞ、とか言って脅して来そうだしな……ギンジとメリッサも……」


ブツブツと呟きながらどうするか考えるオルダ。すると突然、何かを閃いたようににっこりとハヤテの方を見ると肩に手を置くとこう言った。


「よろしく!」

「ふっざけんなよ、クソ魔導師……絶対くると思ってたけどまさか本当に振りやがるとは……」


要するに、奴の相手は面倒だから君に決めた。ということだろう。ハヤテ自身、腕に自信がないわけではないが、先程から何度も上手の相手を1人で相手できるほど、まだ心に余裕がないのだ。


「というわけだ、アルバート。今回はこのギンジの一番弟子、ハヤテがお前の相手をする。俺は仕事があるから修練場でも好きに使ってくれていいよ」

「またそうやって逃げるのかい!? この! 私が!! こんな我が王宮の風呂程度の広さの住処に訪ねて来てやっているというのに!!」

「マジ意味わかんねぇ……やっぱ殺していい?」


薔薇を散らしながら、いちいち決めポーズを取るだけでこんなにもうざいということが、ハヤテとオルダはよくわかった。だが、そんなオルダをメリッサが抑える。


「いつものことではないですか……さぁ、ここはハヤテ君に任せて私たちは仕事をしましょう」

「ええ!? メリッサさんまで!!」


頼みの綱、ギンジに助けを求めるように視線を向けるハヤテ。しかしギンジもグッと親指を立てて、2人と一緒に出て行ってしまった。


「うそぉん……」

「まぁ、団長サンじゃないのはいささか不服だが……ギンジクンの弟子となれば期待しても良さそうだネッ!」


そうしてハヤテは、ナルシストの具現化・アルバートに連れられて、修練場へと向かうのだった……

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