忍と魔の同盟
「ウィビル……! さっきヤマトとは仲が悪いって……」
ハヤテは苦無を取り出し、構える。
「いや待って待って! 違うんだって! 俺たちはそーいうんじゃないから!」
手を大きく振り弁解するオルダ。ハヤテは構えを解かずにそのまま、疑問をぶつける。
「じゃあ……なんなんだ? あんたたちは。わざわざそんなことを明かして何故俺をここに連れてきた?」
「うーん、こう言っても信じてもらえるかわかんないけど……俺たち、一応ウィビルの王に仕える兵団ってことになってるんだけど、実際はそうじゃない」
そこまで言うと、彼の隣で先程から一言も発しなかった大柄な男性が口を開く。
「ウィビル王国の国王はとても用心深いことで有名です。自身の側近、参謀、兵士長……王家に関わるものは全てウィビル現王の親族で構成されているのです」
彼によれば、ウィビル現王は過去の前王のヤマトとの対立をその目で見ているため、用心深い政治をするようになったそうだった。
「え……てことはオルダは王家の人間なのか?」
「違う違う! 俺は紛れも無い一般人さ。ただ…」
オルダは横にいる女性を一瞥し、話を続ける。
「彼女は王家の人間だ。そこまで王に近いわけではないが……俺みたいなただの魔導師が王お抱えの宮廷魔導師になるには彼女のような存在は不可欠だった」
「本来、団長のような人間を雇うなどということは今の王ならありえないことです。そこで信用を得るために、団長は5年かけて王のために働きました。そこに私のような王家の人間が加われば、表面上は王家に認められた私兵団が完成します」
黒髪の女性がお茶を、大柄な男性が椅子を用意してくれたので、ハヤテはとりあえず席に着いた。お茶には何が入っているか分からなかったため、一口も飲まなかったが。
「いやぁ、本当大変だったね。ありもしない事件を作って解決したように見せかけたり……現王がバカで良かったよ」
「王家の何人かはあなたを怪しんでいます。もう少し慎重に行動したらどうです?」
女性は大きくため息を吐いた。どうやら癖のようだ。オルダの部下というだけで、だいぶ苦労しているようにハヤテには感じられた。
「でも……そんなことまでしてなんで王家に媚を売ってるんだ?」
ハヤテの素朴な質問。だがこれこそが、彼らの待っていた質問であり、周りの空気が変わったことは言うまでもなかった。
「俺はね……現王を殺す。今の政権を握っているあの王家一族を潰すのが俺の目的」
「つぶ、す……?」
ハヤテが呆気に取られていると、大柄な男性がオルダの後に続いて話を進める。
「慎重政策として現王は政治を行なっていますが……実際は王家が得をするような政策ばかりです。民の税金を必要以上にあげ、余分に回収した金を親族に振りまく。賄賂によって成り立っているのですよ、今のウィビルは」
「じゃあ、そこのおねーさんはなんでここにいるんだ? 王家の人間なのに」
「私はあのバカな連中とは違います。政策に反対しているからこそ、団長の計画を助けているのです」
次々と明かされる衝撃の事実。まだ村を出てわずかな時間しか経っていないハヤテは、いきなり国家転覆の計画を聞かされるとは思ってもいなかっただろう。だが、だからこそ自分がなぜここに呼ばれたのかが、彼にとって疑問であった。
「彼女……メリッサって言うんだけどね。もちろん裏切りの可能性も十二分にあるわけだから、彼女は俺とある魔法契約を結んでる。簡単に言えば約束守ったら死ぬよ!ってことなんだけど」
「おっそろしい契約だな……」
「それくらいの覚悟がなければ、国は変えられないということです」
メリッサが命を賭けてこの計画に賛同しているということは世間知らずなハヤテでも理解はできた。だがやはり、彼は自分の置かれている状況の理解が追いつかなかった。
「……そんで、俺はなんでここに呼ばれたんだ?」
「よくぞきいてくれました! ハヤテをここに連れてきたのには理由があってね。ちょーっと手伝って欲しいんだ!」
オルダの提案にハヤテは目を丸くする。彼は現王暗殺の手伝いを頼まれて素直にハイと言えるほど、人を殺すことに積極的ではなかったし、なにより国ひとつを敵に回すという、無謀すぎる作戦に自分の参加が計算されているとは思わなかったからだ。
「俺が手伝い!? ふざけんな! なんで俺がそんな手伝いを……!」
「まあまぁ、ここは人助けだと思ってさ!」
「ふざけんな! だいたい俺になんのメリットもねーじゃねーか!」
「メリットならあるよ? ハヤテさぁ、『秘宝』探してんだろ? 協力してくれたら情報教えるけど」
この言葉でハヤテの心は揺らいだ。
彼は村の若者で最も優れているからこそ、この任務を背負って村から出てきた。そんな彼にとって大事なのは正義とか、悪とかではない。任務を果たすことだ。そのためにはどんな小さな情報も逃してはならない。
「情報は……持っているんだな?」
ああ、とオルダは頷く。彼のその言葉を確認したハヤテは、もう一つの条件を提示した。
「わかった。その代わりもうひとつ条件がある。こっちは無関係にも関わらず、国を敵に回すんだ。それ相応の報酬を用意してもらう。実用性があれば何でもいい。『情報』と『実用性のある報酬』……これが、協力する条件だ」
オルダはしばらく考え込むと椅子から立ち上がり、ハヤテの前まで歩いてきた。そして彼の前に立つと、オルダは手を差し伸べる。
「条件を飲もう」
ハヤテは差し出された手を取り、立ち上がった。
「契約成立だ」
ここに、王の暗殺を企てる最悪の同盟が今結成したのだった。