団長
「へぇー、じゃあハヤテはやっぱあの森抜けてきたのか。結構時間かかったろ?」
ハヤテはオルダの仕事の中心地であるという、ウィスラの街へたわいもない話をしながら向かっていた。
「ああ、だいたい4時間くらいだったかな?」
「うっそだろ!? あそこって普通9時間はかかるんだぜ。忍ってのはほんと規格外の身体能力してんだな……」
「俺も魔法って初めてみたけど、やっぱり忍術とは違うんだなあ」
ハヤテのいたヤマト地方では、主に忍術が発達しており、逆に魔法は全く使われない。
「世界ってのは広いな〜、俺も仕事で色んな場所に行ってるけど……ヤマト地方だけは行ったことないしな」
「そうなのか?」
ヤマト地方とオルダのような魔導師の住むゲルダ地方は古くからいがみ合っており、共存の道を模索しつつも、なかなかそれは叶わなかった。
「ゲルダ地方の中心にウィビルって国があるんだけど、そこの王家が昔から難ありでねぇ……」
まぁおいおい話すよ、とオルダは誤魔化すと、今度は彼が話しを振ってきた。
「そーいや気になってたんだけど、ヤマトではみんなさっきの男みたいな服着てるの?」
「いや、むしろ今はああいう人の方が少ないよ。俺絶対着たくねーし!」
ハヤテの言う通り、今は風習には囚われず、ヤマトの人間は外へ出たら紛れてわからなくなるようには現代的な服を着ている。
「ふーん? その方がいいよ。ハヤテ地方には独特の文化や習わしがあるって頭の固いジジイ共はいつも言ってる。人を食うとかさ、アホかっての。ヤマトの人間に親でも殺されたのかな?」
「さすがに人は食わねえよ……食生活はそう変わらないと思うぞ」
そんな話をしているうちにウィスラの街に到着した2人。
石壁に囲まれた小さな街だが、門をくぐるとそこは活気溢れる市場があった。
「すげぇ〜! こんな活気のある街だったのか! 俺市場に来るの初めてだ!」
ハヤテは目を輝かせながら、店を覗き始める。獣の素材、防具、武器、魔法道具など、食品から装備品まで幅広く取り扱っていた。
「小さいけど交易の中心でもあるからね。この街を取り囲む四方は全て環境が違うから、色んな物が運ばれて来る」
「すごいな……ヤマトは閉鎖的な村が多いから……あんまり外のこととかわからないんだよな」
オルダに商品の説明を受けながら市場を歩くハヤテ。
市場を抜けると少し行った先に、大きな建物があった。
「ここが俺の仕事の本拠地! さぁ入ろう」
「俺もいいのか?」
「あぁ、勿論。そのために呼んだんだ」
扉を開き、中に入る。中は至って普通の建物だが、ハヤテは奥の部屋の中に奇妙な紋章があるのを見つけた。
「なぁ、あの魔法陣……? はなんなんだ?」
「あれは転送魔法陣だよ。階と階を繋ぐ移動魔法の一種さ」
「魔法ってのは便利だな……忍術よりもよっぽど発達してる」
転送魔法陣の中に入る2人。最上階に行くらしいが、結構な高さがあるにも関わらず、そう時間がかからなかったことにハヤテは驚きを隠せなかった。
「ただいまー!」
すぐ目の前の扉を開けるオルダ。ハヤテも後に続くと、そこには2人の男女がいた。
「団長……また勝手にお出かけですか? あの件程度の問題ならわざわざあなたが出向くまでもなかったでしょうに……」
後ろで髪を一つにまとめた、黒髪のメガネをかけた女性が大きなため息を吐く。
「まぁ、たまには上司が動かなきゃ部下に示しがつかないからねー」
中央の椅子に腰掛けるオルダ。ハヤテはようやく、オルダがそれなりに高い位置にいることを悟った。
「今……団長って……」
「そう! 改めて歓迎しよう、ハヤテ。俺はウィビル王国魔兵団団長、オルダ・ヴァーカイン。よろしくな!」