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たとえそれが機械の手でも


「き、君。こんなところで何してるの?」


ここで一人でいるのは危ないと判断した一行は、よく眠っている男の子を起こそうとした。サラリとした金髪にハヤテの手が触れると、男の子は青色の目をパチリ、と開ける。


「……」

「あ、目が覚めたみたいですね。すみません、あなたの親御さんは一体どこに……」


起きてしばらくは意識がはっきりしないのか、辺りをキョロキョロと見渡す少年。だが、やがて自分が見知らぬ大人に囲まれてると理解し、怯えた表情で、声をあげて後ずさりした。


「わ、悪い人……! おかあさん! おかあさん! また泥棒がいるよ!! 助けてぇ!」

「ち、違うよぉ!? 俺たち泥棒とかじゃなくって……」


少年の叫び声に答えるように、ロボットの足音が近づいてくる。先ほど出て行ったロボットが戻って来たようだった。


「おい、これやばくないか!?」

「敵だと認識されたらあれと戦うハメに……!」


--ズゥン


後ろからの大きな足音。振り返ると、そこに先ほどのロボットが仁王立ちをしていた。ロボットは目の部分を赤く光らせ、三人の顔を舐めるように順に見渡すと、目から赤い光が消え、少年の横に腰を下ろした。


「ど、どうなってんだ……?」

「襲ってくるわけでは……なさそうですね」


呆然とする三人をよそに、少年はロボットに向かって話しかける。


「おかあさん。あの人たち悪い人じゃないの? ……おかあさんが言うならそうなんだね」


少年に「お母さん」と呼ばれたロボットは、首をゆっくりと上下に振ると、少年の頭を撫でる。少年はくすぐったそうに笑うと、三人の方に向き直って頭を下げた。


「おにいさん、おねえさん。ごめんなさい。僕てっきり悪い人だと思って」


ロボットと少年に敵意がないことがわかると、三人の表情は自然と緩む。向かい合うようにして彼らの前に座る。


「いいんだ。こっちこそ急にごめんな。……その人は君のお母さんなのか?」

「うん! すごくつよいよ! この前もお金をぬすもうとした悪い人たちをおいはらってた!」


どうやら、この周辺にたむろしていた盗賊たちを追い払っていたのは彼らのようだった。それならば三人が安全にここまで来れたのも納得がいく。


「そっかぁ! 君のお母さん、強いんだなぁ!」


オルダがわしゃわしゃと少年の頭を撫でる。少年は嬉しそうにされるがままに撫でられていた。そして、セラーナは一番気になる質問をぶつける。


「貴方たちは、ここに住んでいるのですか? ここは昔の戦争で滅んだ都市のはずでは……」

「……ここに住んでるよー。ここ、僕たちのお家なんだよ」


その時少年が一瞬、悲しそうな顔をしたのをハヤテは見逃さなかった。だが、すぐに先程までの笑顔に戻ると、彼は自分の名前を名乗る。


「僕はね、セトっていうんだ! おにいさんとおねえさんの名前は?」


各々名前を名乗る。その後もたわいない話をしていると、だんだんと陽が沈んできた。夜は危ないから今日はここで寝泊まりしたほうがいい、というセトの提案によって、三人は屋根のない家で一泊することにした。


「……なぁ、二人とも。起きてるか?」


ハヤテが二人に問いかける。しかし、オルダはセトとくっついて寝息を立てている。セラーナもいつでも戦えるようにと、座りながら寝てしまっていた。


「……」


二人から反応がない、とわかったハヤテは空に散らばる星を眺めていた。空には雲もなく、廃墟なので街灯も少ない。そのため、ウィビルではあまり見られなかった星がよく見えた。特に意味もなく、腕を空に向かって伸ばす。するとその伸ばした手首を無機質な物体に掴まれた。


「なッ……!?」


物体の主を確認すると、セトの「お母さん」であるロボットだった。ロボットはハヤテの手を引くと、無理やり身体を起こし、他の三人から少し離れた廃墟まで足を運ぶ。ハヤテは何が何だかわからないまま、手を引かれる。


「な、なぁ。なんか用かな?」


座り込む二人。ロボットはハヤテの手を離すと、驚くべき行動に出た。


『夜中に突然すみません……どうしても、貴方たちにお話ししておきたいことがありまして……』


ロボットの口から、無機質な声が流れる。だがその声には感情がこもっており、声が機械的なことを除けば、それは人間となんら変わらなかった。


「……!! あんた、喋れたのか……」

『ええ……ですので、わかることならなんでもお答えします。その前に少し話を聞いてください。お願いがあるのです』


母親ロボットはハヤテに向き直ると、頭を下げる。


『あの子を……セトを一緒に連れて行ってくださいませんか』


その声はあまりにも儚く、切なかった。ハヤテは驚くよりも先に、その声の原因について気になっていた。


「お、おいおい。ちょっと待てよ。どういうことだ? 詳しく聞かせてくれねぇか」


母親ロボットはしばらく地面を見つめると、顔をあげ、自分の身体がなぜロボットなのか、なぜこんなところで過ごしているのかを語り始めた。


『少し、長くなりますが……貴方たちはなぜ、何十年も前に滅んだ都市をあの子が家だと言ったのか、不思議に思いませんでしたか?』

「そ、それは思ったけど、あんまり気にしてなかったな……」

『あの子は本当は、戦争の時代を生きていた子なのです。私たちは科学者だったのですが……ヤマトとゲルダの戦争が激化し、この都市の科学力を危惧した双方から攻撃を受けました。その際私たち夫婦は考えました。幼いセトを守るにはどうすればよいかと』


彼女は部屋の一角にあった、扉を開けると中から筒状のものを取り出した。


「それは……?」

『カプセルです。私たちはあの子の身体を、コールドスリープによって維持し、未来を生きてもらおうと思いました。結果的にそれはうまく生きましたが、私たち夫婦は戦争で命を落としました』

「命を落としたって……じゃああんたは……」


母親ロボットは自身の胸から紫色に輝く結晶体を取り出す。ひし形をしていたが、所々欠けており、色も純粋な紫というより少し濁っている。


『……これはセトの母親、セイラの記憶の結晶体……今の私を形作るコアと言ってもいいものです。私はセトの母親ではありません。セイラの記憶の結晶体を身体に埋め込み、彼女の記憶を受け継いだ、元々ただの壊れた機械なのです』


母親ロボットは結晶体を胸に戻す。ハヤテにとっては理解できないことの方が多かったが、数々のありえないことを証明する存在が目の前にいるだけで、理解はできなかったが、言っていることは全て真実だと彼は思った。


『……あの子、セトは頭がよすぎました。セイラはセトをカプセルに入れ地下に隠しました。そして、生命のリングという魔法道具をカプセルに取り付け、この場所から半径50kmの範囲の人体反応がなくなったときに、カプセルが空き、眼が覚めるという仕組みになっていたのですが……セイラが命を落としたときにリングをぶつけてしまい、誤作動を起こし、つい最近までカプセルが空くことがありませんでした』

「つい最近……そりゃあいつのことだ?」

『大体、四ヶ月前くらいでしょうか……セイラは生き延びるために、多くの食料や水を地下に置いていたのですが……セトは魔法でセイラの記憶を取り出すと、私の身体に記憶として定着させ……母親と呼ぶようになったのです』


セトは5歳の時点で魔法陣を読み解き、言語を全て理解するほどの天才だったという。もちろん科学方面にもその頭脳は遺憾無く発揮され、全科学者を上回る知能を持った子供だった。


『だから彼は私が母親ではなく、記憶からなる偽物だとわかっている……私は記憶を受け継いだだけで彼の母親を名乗るなんて、セイラに申し訳ない。……でも、セイラの記憶の中で彼女の彼に対する愛情に触れて……私は決めたのです。偽物でも、この命ある限りはあの子を守り抜く。私があの子の母親役でいられるなら、たとえそれが機械の手でも、母親として頭を撫でてあげたいのです』


機械仕掛けの手を握りしめ、母親ロボットは決意を固める。このロボットのセトに対する感情は一般に愛情と呼ばれる者ものだ。機械であっても彼女はセトの母親としての役目を全うしているのだ。


「十分母親だよ、あんたは……あんたも俺たちとこればいいんじゃないか?」


母親ロボットは悲しそうに首を振ると、先ほどの結晶体を再び取り出し眺める。


『この、結晶体が私のコアだと先ほど説明しましたよね? このコアが少しずつ欠けていってしまっているのです。このコアが完璧に壊れてしまえば、私はもう動かなくなります」


結晶体が、また少し欠けていく。先ほど見たばかりなのに、もう結晶体は一回りほど小さくなってしまっていた。

彼女に残された時間は、あまりにも短すぎた。


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