爆炎の剣士
「ぐぅッ……!」
元々魔力が豊富でないヤマトの人間は、多少の魔法でも身体に異常が出ることがある。ギンジがいくら体術、忍術と魔法を両立しているといっても、魔力の保有量そのものが少ない彼にとって、先ほどの技はあまりにも負担が大きすぎるものだった。
「ギ、ギンジさん! 大丈夫っすか!?」
「ハヤテ……球体は……」
ギンジの言葉に促され、部屋の奥にある親玉を見る。最初この部屋に来た時よりも、戦闘のせいで多少のヒビは入っているが、球体はまだ原型をとどめていた。球体は変わらず赤い光を発しているが、ひび割れたせいだろうか、光の濃度がみるみると上がっていくように見えた。
「くそ……どうせなら完全に壊してくれればよかったものを……暴走しかけている……」
「暴走……!? どうやって止めれば……」
「魔法道具は魔法でしか壊せない……だが俺の魔力はもう……!」
予期せぬ強敵の出現によって、ギンジは魔力を限界まで使ってしまっていた。今は立ち上がることすら難しい。ハヤテももちろん魔法は使えないため、完全に手詰まりの状態だった。
「このままじゃ……!!」
「この球体が……暴走すると、どうなるのですか……?」
声のする方を見ると、先ほどギンジが吹き飛ばした女剣士が剣をつきながら立ち上がった。
「なんてタフな女だ……」
「戦う気はありません。私は貴方に敗北しました。このまま戻れば雇い主に殺されるだけ……」
女剣士は剣を引きずりながら、球体の前へと歩く。そして、彼女に今あるありったけの魔力を剣に付与し、大きく振りかぶった。
「私が、これを壊します。貴方は私に勝った。なら貴方は相応の報酬を貰うべきです。その報酬代わりといってはなんですが……貴方の代わりに私がこれを壊しましょう」
「で、でもお姉さんは王家に雇われてるんだろ!? 俺たちの味方するようなことしたら……!」
「王家はただの依頼主……雇い主は別にいます。が、今はそのようなことどうでもいい。暴走することによって民に危険が迫っているのなら……私は、裏切りを選ぶ!!」
球体にめがけ、渾身の一撃を放つ女剣士。球体の魔力と彼女の魔力がぶつかり、凄まじい衝撃が起こる。眩い光が辺りを照らし、ハヤテ達はおもわず目をつぶっていた。次に目を開けると、先程まで辺りを照らしていた怪しい赤い光がなくなっており、暗闇に包まれていた。
「暗いな……ハヤテ、火遁で松明に火をつけてくれ……」
ハヤテが言われた通り、手探りで壁にかかっていた松明を一本取ると、そこに火遁で炎を灯す。その火を他の松明につけ、ようやく部屋が明るくなったところで、改めて球体を見る。球体は女剣士の魔力を受け、粉々に砕け散っており、その前に剣を地面に突き刺し、かろうじて立っている女剣士の姿があった。
「こ、こんなに硬かったなんて……聞いてない……」
「あの、お姉さん大丈夫……? 相当ヤバそうだけど」
「自分の保有魔力以上の力を使いました……雇い主に殺されるくらいなら、今、ここ……
で……」
彼女はばたり、と地面に倒れこんだ。かなりの疲労で限界が来ていたようだ。ハヤテはそんな彼女を背中におぶると、片手で彼女を支え、もう片方の手でギンジの手を引く。
「そろそろオルダのとこに行きましょう。もう赤色の球体の力は残ってないはずです」
「……その女も連れて行くつもりか?」
「この人、多分根はいい人だから……こういう事したくなかったんだと思うし……」
ギンジははぁ、とため息を吐く。好きにしろ、と呟くとハヤテの手を借りて立ち上がると、部屋を出る。ハヤテも慌てて後に続き、王室へと向かった。
倉庫から登ってきた階段をまた下り、倉庫に出る。そこからまた階段を登り玄関口までやってきた。
「王室はどこに!?」
「上だ、衛兵達が走って行くのが見えた。着いていけば団長と合流できる」
中央階段を上がり、2階に出る。衛兵達を後ろから追っていると、とある一室に辿り着いた。
「ここか、なんだか騒がしい……」
「団長とメリッサがいるはずだ。中に入って援護を……」
二人で突入の手はずを確認していると、突然扉が勢いよく開かれ、オルダとメリッサが出てきた。二人は扉の前で縮こまっているハヤテとギンジを見ると怪訝そうな顔をして尋ねる。
「何してんの???? 終わったから帰るよ。メリッサに今後どうするか考えてもらわなくちゃ」
「え? 終わったって……王は?」
「殺した」
眉ひとつ動かさず淡々と答えるオルダ。そのやり取りに、ハヤテは少なからず恐怖を覚えていた。だが、メリッサやギンジはそれが当然であるように満足そうな顔をすると王室を後にする。
「お、俺がおかしいのか……?」
部屋の中を覗き込むと、そこには血の海となった床に倒れこむ、王と思われる人物が。その周囲を囲む衛兵達が王の死体の後始末をしていた。ハヤテはそっと部屋を後にすると、背中に背負った女剣士を落とさないように、しっかりと背負い直すと、三人の後を追った。
外では三人がすでに今後について話し合っており、遅れながらもハヤテも参加する。
「お、ハヤテ。今回はお疲れさん! いやー、助かったよー。感謝感謝!」
胡散臭い笑顔ともにお礼を述べるオルダ。横でメリッサも小さくお辞儀する。
「これからは私とギンジでこの国を変えていきます。今回は本当にありがとうございました……そこでお礼なのですが」
メリッサがスッと指を指すとその指の先には笑顔のオルダが。
「……あのアホがどうかしたのか?」
「あのアホが今回の報酬ですよ。ハヤテさん。うちの団長はバカみたいに強いですし、旅の仲間としては悪くないかと」
「よろしくな!」
思わず背中の女剣士を落としそうになるハヤテ。要するにオルダをたびに連れていけということだった。
「はぁぁ!? お守り押し付けてるだけじゃねーか!」
「お守られるのお前じゃん。まぁ任せとけって! 正直お前の言う秘宝の情報とか一つも知らんかったけど俄然興味出てきたから!」
「はめやがったな、ド三流魔導師……!」
もうギンジもメリッサも慣れつつある二人の言い合いに溜息をつく。その五月蝿さのせいか、後ろの女剣士が目を覚ました。
「ぅ、うぅ……」
「あっ、目ぇ覚めた?? どうしようメリッサさん。この人体調悪いみたいなんだけど」
「ここは……」
メリッサは女剣士の額に手を置くと、彼女の魔力の流れを読み取る。
「……少し魔力を使いすぎただけのようです。少し休めばすぐに回復しますよ」
メリッサのそれは誰だ、という質問に対しこれまでの経緯をハヤテは説明する。彼女は敵ではあったが、きっと仕方なくやっていただけなので、お咎めは無しにしてほしい。とハヤテは頼む。
「それは構いませんが……国内に置いておくのは少し不安ですね。何処かとつながっているとわかった以上はいつこの国に災厄が降り注ぐか分かりませんから」
「そ、そっか。とりあえずよかった……」
「その方も一緒に連れて行ってはどうです? 腕も立ちますし、妙なことをしないように手元に置いて見張るというのもありかと思いますが」
恐る恐る女剣士を見るハヤテ。どうかな、と尋ねると女剣士は少し迷いながらも縦に首を振る。
「助けていただいた恩もありますし……どうせ雇い主に殺されるまでの間、やることもありませんから、あなたさえ良ければ私も同行させてください」
「殺させないよ、俺といる間は絶対な。よろしく、えっと……」
「セラーナです。どうぞよろしくお願いします」
なんの因果か、爆炎の女剣士セラーナを仲間に加え、再び旅に出るハヤテたち。道中の会話がうるさくなったことは言うまでもなかった。




